24 レファリア帝国動乱③

 ――アリア達がレオン皇子を救出してから、4日が経過した。アリア達は無事に、アスール王国に到着した。途中、カダスに寄り、レオン皇子と馬車に同乗していた女性がカレンとともに、マッテオに会いに行った。後で知ったことだが、馬車に同乗していた女性は、レオン皇子の母であり、カダスを治める大貴族であるマッテオの娘であったようだ。


 短い時間ではあったが、マッテオに会えたレオンは少し、元気になっていた。心なしか、パオラの顔も明るくなった気がした。なんか、色々と大変なんだなとアリアは思いながら、馬車の中で積極的にレオンに話しかけているサラを眺めていた。


 基本的にレオンは、馬車の中で寝ていた。ブルーノも、『アリア。君と話したいのは山々だが、さすがに疲れたから休ませてくれ』と言って、馬車の中で寝ていた。相当な激戦であったので、それも当然だなとアリアは思った。アリアも周囲の警戒を馬車を走らせているカレンに任せ、寝ることが多かった。


 皇都アスローンでは現在、レオン皇子を血眼になって、兵士が探しているらしい。カダスに調査の兵士が来るのも、時間の問題だとマッテオは言っていたらしい。一応、アスール王国内での潜伏先をカレンが用意していたようだが、『ハルド家がアスール王国内で一番、安全ですわ!』というサラの一言によって、ハルド家にレオンとパオラを匿うことになった。


 レリフは、当初、『絶対にハルド家に刺客が来るよ!』と難色を示していたが、ルビエがこのことを知ったら怒ると、レリフにアリアが告げると、レリフは渋々、納得した。


 そんな逃避行の道中、何回か、賊の集まりに襲われた。アリアは、特に苦戦することもなく、撃退していたが、ブルーノとサラは体を動かすこと自体、つらそうであった。レリフは、アリア達で倒せる程度の相手であれば、戦わず、馬車の中で寝ていた。カレンは、短剣を使って、一撃で相手の急所をえぐっていた。後で聞いた話だが、カレンはレファリア帝国の暗殺部隊出身らしい。


 だから、あんなに潜入とか上手かったのかとアリアは納得した。レオンも意外と戦えるようで、賊が出て来た時は、積極的に戦って、倒していた。



 そんなこんなで、無事にアリア達はハルド家に到着した。『やっと着きましたわ!』とサラは、馬車から降りると喜んでいた。馬車からアリア達が降りると、早朝にも関わらず、ルビエが腕を組んで門の前に立っていた。その後ろには、バリスが立っていた。


「父上にルビエ! ただいま!」


 レリフが笑いながら、そう言った。対して、ルビエはその言葉を聞くと同時に、レリフに殴りかかっていた。


「うわ! いきなり、何するの、ルビエ!?」


 レリフは、ルビエの拳を避けると、そう言った。レリフの背後には、いつの間にか、バリスが移動していた。そして、レリフのことを羽交い締めにした。


「ちょ! 父上! 何をするんですか! ぶへぇ!」


 レリフの抗議の声の最中に、動けないレリフの顔面をルビエは思いっきり殴った。凄く痛そうだなとアリアは思った。そして、殴り終わった後、アリア達の方を向いた。アリアは、嫌な予感がしたので、逃げ出そうとしたが、すぐに捕まり、頭にげんこつをされた。


 アリアが涙目になりながら、頭をさすっていると、ルビエはサラの頭にも、げんこつをしていた。『痛いですわ!』というサラの声が響いた。そして、それを見て逃げ出したブルーノを捕まえると、ブルーノの頭にもげんこつをしていた。






 ――レオンとパオラがハルド家に滞在を始めてから、1週間が経過した。その間、なぜか、サラもハルド家に滞在していた。サラは王城に戻ると、アスール王メギドに激怒されたようであった。そして、ケンカをして、王城に居たくないという理由で、ハルド家に滞在するようになっていた。アリアは、レオン目当てであろうと思ったが、それを言うと面倒そうだったので、黙っていた。


 レオンは、ハルド家に滞在している間、何もしていなかった訳ではなく、味方になってくれそうなレファリア帝国の貴族に、檄文を送っていた。返事は帰って来ていないが、現状、レファリア帝国の大貴族であるマッテオの協力は得られていた。


 そして、今日、アスール王メギドとの謁見をするためにレオンは王城に向かっていた。これは、ルビエを通じて、謁見の許可を取っていた。なぜか、アリアもルビエの隣でレオンの謁見を見ていなければならなくなっていた。サラが、『アリアも王の間に来てくださいまし!』という一言で決まってしまった。


 レリフも、『何か、面白そうだから、僕も行くよ!』と言って、王の間に来ていた。アリアがいても不機嫌にならなかったルビエが、今日はレリフが隣にいるためか、不機嫌そうな顔であった。『そんなに不機嫌そうな顔をしていると、シワが増えるよ!』と言って、ルビエをからかっていた。ルビエはチッ!と舌打ちをしていた。


 そして、レオンが王の間の前に到着したらしい。お喋りをしていた文官達や将官達が、雰囲気を察したため、王の間は静かになった。


「レファリア帝国第2皇子レオン・レファリア様、ご入来!」


 宰相であるエースが、そう言うと、王の間の扉が開いた。そして、レオンが歩いて、アスール王メギドの前に来ると、膝をついた。


「面を上げよ」


 メギドがそう言うと、レオンは顔を上げた。いつもの優しい顔でなく、今日は厳しい顔をしていた。


「レオン皇子、今日、謁見を望んだ用件は何かな?」


 メギドが直球で、レオンに用件を聞いた。メギドの言葉を聞くと、レオンは口を開いた。


「始めに、このような謁見の機会を与えていただき、ありがとうございます。そして、今回、謁見を望んだ理由は、私がレファリア帝国皇帝となるために、アスール王国軍をお貸ししていただきたいということをアスール王にお願いするためです」


「ふざけるな!」


 財務大臣であるダモンが、そう叫ぶと、王の間は、同じような言葉を叫ぶ文官達と将官達の怒号で満たされていた。大変そうだなとアリアは、その様子を見ながら思った。そんな中、レリフとルビエは無表情であった。


「静まれ!!」


 メギドがそう言うと、王の間は一瞬で静かになった。


「……一人の人間として、レオン皇子を助けたいという気持ちはある。ただ、私はこの国の王だ。この国に利益がある内容でなければ、同意することは出来ない。仮に、アスール王国軍をレオン皇子に預けたとして、第1皇子フィンに、勝てる見込みがあるのか?」


「現状、私の味方となってくれるレファリア帝国の貴族は、全体の3割ほどであると考えています。アスール王国軍をお借りしても、第1皇子フィンを倒すのは難しいでしょう。ただし、第1皇子フィンに味方している貴族の中にも、無理やり従わせられている者もいます。また、現在、レファリア帝国は、第1皇子フィンによる、強制的な軍需物資の徴発によって、帝国臣民には大きな不満が出ています。辺境の村では、多くの者が賊に成り下がっている現状です。それは、剣聖殿が証言してくれると思います。その者達を、味方につけられれば、十分に勝機はあると考えています」


「剣聖よ、賊が多いというのは真か?」


「まぁ、確かに、皇都アスローンに行って、帰るだけで、何回も賊に襲われましたね。周辺の都市も、露店の品物が少なく、景気が良いとお世辞にも言えないような状況でしたね」


 レリフは、頭の後ろで腕を組ながら、そう答えた。軍務大臣であるイオルクと、ルビエが怒った顔をしていた。


「レファリア帝国の状況は分かった。それで、レオン皇子はどのようにして、第1皇子フィンに不満を持つ者を味方につけるというのだ?」


「まず、始めに、これはあまり行いたい策ではありません。帝国臣民に負荷がかかりますので。その内容は、味方になってくれる貴族の領地で徹底的な持久戦を行うことです。レファリア帝国は、各貴族の軍隊を持ち寄って、軍事力を形成しています。アスール王国のように国として、軍隊を持っている訳ではありません。そのため、貴族は自分の軍隊が損耗するのを嫌います。また、持久戦を行うことによって、帝国臣民の中に厭戦気分を高める効果があると考えています。そこに、勝機があるかと考えています」


「なるほど、レオン皇子の意見は分かった。それで、レオン皇子が勝利し、レファリア帝国皇帝になった暁には、我が国にどのような利益があるのだ?」


 メギドは確信の部分をレオンに聞いた。王の間にいる文官達や将官達の視線がレオンに集まる。


「私が皇帝になった暁には、アスール王国と同盟を結びたいと考えています。その利点は、パリ―スト大陸でも有数の大国である我が国とアスール王国が同盟を結べば、アスール王国の北のバジル王国、南のルール公国、西のアルテリオ帝国はうかつに、アスール王国を攻めることは出来なくなります。それに、アスール王国の東部の潜在的な脅威であったレファリア帝国に備えていた軍を、他の方面に転用することが可能になります。それに、領地や物資では、将来的に禍根を残す可能性があると私は考えています」


 レオンの語った言葉は、王の間にいる文官達や将官達にとって、悪い話ではなかったようだ。誰も、異議の言葉を発する者はいなかった。


「レオン皇子の言いたいことは分かった。元帥、お前の意見も聞きたい」


「私も、レオン皇子の案に全面的に賛成です。たとえ、レオン皇子が負けたとしても、将来的に、レファリア帝国は我が国に攻め込んでくるのです。少しでも、レファリア帝国の戦力を削っておくに越したことはありません。勝てばそれはそれで良し。負けても、レファリア帝国は弱体化する。どっちに転んでも、我が国にとっては、不利にはなりますまい」


「分かった。宰相は何か意見はあるか?」


「特にはありません。ただ、他国の介入を防ぐために、レオン皇子に軍を貸すことは、内密にしておいた方が良いと考えます」


「分かった。それでは、結論を言う。我が国は、レオン皇子に貸し与えられるだけの軍を貸す。そして、このことは極秘事項とする。各文官、軍の者はそれぞれ準備せよ。以上だ」


「ハッ!!」


 メギドの決定に、王の間にいる文官達と将官達は返事をした。


「アスール王、ありがとうございます」


 レオンがそう言って、謁見は終了した。サラは、とても嬉しそうな顔をしていた。ルビエは無表情。レリフは、『これから面白くなりそうだ!』というウキウキな顔をしていた。


(……これから、大変そうだな)


 レリフとは対照的に、アリアはそんなことを思いながら、はぁとため息をついた。






 ――レオンがメギドに謁見してから2日後。今度は、第1皇子フィンの使者がメギドの下にやってきていた。なぜか、今度もアリアはルビエの隣にいた。ただし、今回、レリフは王の間にいなかった。


「アスール王! 率直にお聞きします! 我が帝国の反逆者であるレオン皇子を匿っておられますか?」


 高圧的な使者がメギドにそう尋ねた。イオルクは使者の無礼な態度に顔を真っ赤にしていた。


「はて? 使者殿の言っていることの意味が分かりませぬな。レオン皇子は我が国におらぬよ。レファリア帝国に潜伏しているのでは?」


「アスール王国に入国したという情報があるのです! 隠しても無駄ですよ!」


「分からぬことは分からぬとしか言えぬな。これ以上、謁見を続けても無意味であるな。誰か! 使者殿にお帰りいただけ!」


 メギドがそう言うと、近衛騎士団の団員が王の間に、入って来た。そして、2人で使者の腕をつかむと、そのまま、王の間の扉の方へ引きずって行った。


「我が帝国を敵に回して、タダで済むと思うなよ!!」


 使者はそう叫びながら、王の間から引きずり出された。

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