23 レファリア帝国動乱②

 アリアはブルーノを担ぎながら急いで、王都レイルの東門に向かっていた。既に、約束の夜1時は過ぎていた。そして、アリアが王都レイルの東門に着くと、サラと一人の女性が待っていた。


「サラさん、遅くなってすみません!」


「アリア! 来てくれましたの!?」


 サラはアリアの姿を見ると、驚き、喜んでいた。アリアは、ブルーノを地面に置き、何とか立たせると、サラの隣にいる女性に顔を向けた。


「あぁ! 言ってませんでしたの! この方は、レオン皇子の側近のカレンさんですわ! この方が、ワタクシにレオン皇子の状況を伝えて下さったのですわ!」


 アリアは、その女性を注意深く観察した。黒い服に短く切りそろえられた髪をしていた。特徴的なのは、気配であった。こうして、対面しているというのに、気配を感じるのが困難であった。おそらく、何かしらの訓練をしている女性だなとアリアは思った。


「カレンです。皆様のご協力、感謝します」


 カレンはそう言うと、頭を下げた。そして、出発のために、カレンが用意した、商人がよく使っている馬車に、荷物を積み込んでいるとレリフがやってきた。


「やぁ、ごめんごめん! 少し手間取ったよ! それじゃ、行こうか!」


 声はいつもと変わらないようであったが、左腕に槍で突かれたと思われる傷があり、そこから血が流れていた。アリアは、急いで、荷物の中から、布を取り出し、レリフの傷口に巻いた。


「これで、大丈夫だと思います」


「ありがとう、アリアちゃん! 普通に戦ったら、ルビエを倒せると思うけど、時間がかかりそうだから、強引に倒しにいったら、ケガしちゃったよ!」


 レリフはそう言うと、サラ達が乗っている馬車の中に乗り込んだ。そして、アリアも乗り込むと、カレンが馬の手綱を握り、馬車を出発させた。






 ――アリア達が王都レイルを出発してから、2日が経過した。その間、あまり人目につかないようにと、都市や村には寄らず、野宿をしていた。そして、昼夜を問わず、賊の集団に何回か襲われた。その度に、撃退していた。どうやら、レファリア帝国が、強制的に物資を軍に集めているため、困窮し、賊になるような人間が多くなっているとカレンが教えてくれた。


 確かに、剣や槍の振りも素人丸出しであり、昨日まで、農民をしていたのだろうなという者が多かった気がした。そんな人間がいくらかかってこようと、問題ではなく、簡単に撃退していた。そのような状況で、カレンさんの動きは、相当に訓練されているのが、一目で分かった。


 そんなこんなで、物資の補給のために、レファリア帝国の西部の大都市であるカダスに、アリア達は来ていた。その服装は、いかにも、商人といった服装であり、上手く変装出来ているとアリアは思っていた。アリアは、そもそも目立つような顔ではないので問題なかった。


 ブルーノは自前で、変装するための服装を普段の服の中に来ていたようだが、一発で貴族と分かるような服装であったため、カレンが用意していた男物の服装に着替えさせられていた。サラは、金髪のクルクルの巻き髪をストレートにし、ちょっと綺麗な商人に変装していた。


 レリフも、ブルーノと同様に、カレンの用意していた服装に着替えていた。こうして、外目から見ると、明らかに顔が綺麗過ぎる商人が誕生していた。馬車をカダスの外の森の中に隠していたので、徒歩でカダスの中に入ろうとした。当然、怪しかったので、守衛に止められた。だが、カレンが守衛に、お金をすぐに渡して、通ることが出来た。


「私は、上手く変装出来ていると思ったんですが……」


「いや、アリアちゃんは変装出来ていると思うけど、サラ王女とブルーノと僕は厳しいでしょう。商人にしては、顔が綺麗過ぎるからね」


 遠回しに、顔が綺麗じゃないと言われているようで、アリアは少し腹が立ったが、怒ってもしょうがないので、カダスの大通りの端を歩きながら、必要な物資を買っていた。カレンは、ここの領主に用があるらしく、都市の中央にそびえ立つカダス城に向かったようであった。


 前にサラとアスール王国使節団として来た時より、活気が少ないように、アリアは感じた。事実、大通りの露店も品物が少なくなっていた。そして、アリア達は、必要な物を買い終えると、カダスを出た。カダスに入るときは、確認するようだが、出る時は確認していないようであった。


 そして、カダスの外の馬車が隠されている場所に、アリア達は戻り、カレンが帰って来るのを待った。






 ――マッテオ・メモラは悩んでいた。目の前には、レオンの身辺警護を担当していたカレンが立っている。カダスを治めているマッテオは、70代であるが、その目の眼光は、未だに衰えていなかった。そんなマッテオが、カダスの中心地にあるカダス城の城主の部屋で悩んでいた。


(……レオンからの手紙か)


 レオンの母方の祖父でもあるマッテオは、手紙の内容に目を通した。その内容は、レオンとともに、第1皇子フィンを打倒して欲しいという内容であった。おそらく、これは、皇都アスローンでレオンが反旗を翻し、捕らわれる前に書いたと思われた。


 レオンは、皇都アスローンで、レオンに味方する多数の兵とともに、反旗を翻した。だが、それを予見していたフィンに、迅速に鎮圧されてしまった。その際に、レオンと、マッテオの娘でありレオンの母のパオラも捕らわれ、2週間後に処刑されるという事態になった。


 マッテオも何とか、処刑だけは免れるように、フィンに嘆願したが、聞き入れてもらえなかった。マッテオ自身が捕らわれていないのは、カダスにいるマッテオの軍を敵に回さないようにするための配慮だということも分かっていた。


「仮に、儂がレオンに味方するとしても、レオン自身が処刑されてしまうのでは、それでどころではないだろう?」


「はい、マッテオ様のおっしゃる通りです。ですが、レオン様とパオラ様は私達がお助けします」


「私達? カレン、一人ではないのか?」


「はい。アスール王国にレオン様を助けるように働きかけましたが、当然、援助は得られませんでした。ですが、第1王女であるサラ様の協力は得られ、サラ様自身とそのお連れ3人と、レオン様とパオラ様を救出するために、現在、皇都アスローンに向かっています」


「成功の見込みは?」


「当然、難しいでしょう。ですが、成功した暁には、マッテオ様に協力していただきたいのです」


「……分かった。フィン皇子に従っている貴族も多く、間違いなく、儂が味方しても苦しいとは思うが、孫と娘の命には代えられん」


「ありがとうございます。ただ、レオン様とパオラ様を救出出来たとしても、レファリア帝国の国内に留まるのは、危険なので、アスール王国に連れて行き、身を隠していただきます」


「そうであろうな。分かった。娘と孫の救出を頼んだぞ!」


「もちろんです。それでは、失礼します」


 カレンはそう言うと、マッテオの部屋から出て行った。マッテオは、窓から、カダスの都市の風景を眺めていた。






 アリア達がカダスの外に隠していた馬車で食事をしていると、カレンが帰って来た。


「用事は、終わりましたの?」


「はい、終わりました。時間がないことですし、早速、皇都アスローンへ出発しましょう」


「分かりましたわ」


 サラがそう言ったのを聞くと、カレンは馬車の手綱を握り、皇都アスローンへ出発した。



 ――そして、カダスを出発してから2日後。アリア達は皇都アスローンの近くに到着した。カレンが警備の状況を確認しに、皇都アスローンに潜入している間、アリア達は皇都アスローンの近くの森に隠した馬車の中で、武器の確認や食事を食べていた。


 服装は、商人風のままであったが、サラの髪はクルクルの巻き髪に戻っていた。サラ曰く、『クルクルの巻き髪でないと、頭のバランスがとれませんわ!』ということらしい。というか、ストレートにしても、勝手に巻き髪になるらしい。短髪なアリアには、よく分からなかった。


 そして、夜になると、カレンが偵察から帰って来た。


「それで、どうやって、レオン皇子を救出しますの?」


 サラがやる気に満ちた顔で、カレンに聞いていた。アリア達も、カレンに注目した。


「レオン様は現在、アスローン城に捕らわれています。そして、レオン様の救出自体は私が行います。そこで、皆さまにお願いがあります。私が、レオン様の救出をするまでの間、時間を稼いで欲しいのです」


 カレンはそこから、レオン救出の作戦を説明した。まず、アリア達を含めた5人は、アスローン城の近くまで潜入し、カレンを除いた4人がアスローン城に正面から突入する。そして、騒ぎになったところで、カレンがアスローン城に潜入して、レオンを救出し、アスローン城を脱出する。


 そして、アスローン城を脱出したカレンが、戦っているであろうアリア達に、短剣を投げて合図をしたら、速やかにアリア達は皇都アスローンを脱出する。そして、今いる馬車の位置まで帰って来て、先に到着しているであろうカレンとレオンとともに、アスール王国へ逃げるという作戦であった。


「いや、中々、キツイね! いくら僕でも、包囲されて一斉に攻撃されたら死ぬからね!」


 いくら師匠でも、時間稼ぎに徹して、敵に包囲されたら死ぬのではないかとアリアも思った。


「レオン皇子のために、頑張りますわ!」


「どんなに困難な状況でも、愛しのアリアを守るため、僕はこの槍を振るおう!」


 サラとブルーノはやる気に満ちていた。対して、アリアは冷静であった。


(とりあえず、包囲されないように戦おう)


 アリアはそんなことを思いながら、武器の手入れをしていた。






 ――アリア達、5人は皇都アスローンの抜け道を通り、アスローン城に近付いていた。物陰から、アスローン城の正面を見ると、門の前に2人、立っているのが確認出来た。


「それでは、お願いします」


 カレンは、アリア達にそう言うと、レオン救出に出発した。


「じゃあ、こちらも派手にいこうか!」


 レリフがそう言うと、アリアとブルーノが真っ先に駆け出し、アスローン城の門の前に立っていた二人の兵士をそれぞれ倒した。そして、レリフが門を真っ二つに斬り裂いた。ゴオン!という凄まじい音を立てながら、アスローン城の門が崩れ落ちた。


「それじゃ、行こうか!」


 レリフはそう言いながら、アスローン城に向けて歩いていった。門を切り裂くという非常識な行動を見たアリアとサラとブルーノが、ドン引きしながら、レリフの後ろをついて行った。アスローン城に鐘の音が鳴り響き、騒がしくなっていた。


 そして、時間を置かずに、多数の兵士がやって来た。それぞれ、アリア達、4人に襲い掛かっていた。


「包囲されないように、気を付けて!」


 目の前の兵士を斬り伏せながら、アリア達にレリフはそう言った。その間にも、どんどんと敵兵が増えていた。サラの方を見ると、何とか、兵士を倒していた。ブルーノは、まだ、比較的、余裕がありそうであった。アリアも敵兵を倒しながら、サラの援護をしていた。


 そんな中、アリアを目掛けて、2mはあろうかという大男が、槍を横から振るってきた。その速さに、アリアの反応が一瞬遅れ、剣で何とか防御したが、受けきれず、アリアはアスローン城の城壁に向けて、弾き飛ばされた。そして、ドン!という音とともに、アリアはアスローン城の城壁に激突した。


「おお! たたの賊にしては、やりおるわ!」


 アリアが、立ち上がり、口の中が切れてたまった血をペッと吐いた。そして、大男の方に向き、剣を構えた。そんなアリアの目の前に、レリフが立った。


「ちょっと、アリアちゃんが、相手するには荷が重い気がするな! アリアちゃんは、あっちの敵を倒しておいて!」


 レリフが、剣で方向を指し示すと、大男に向かって行った。そして、レリフの上段からの剣の振りを見た瞬間、大男の顔色が瞬時に変わった。そして、先ほどの余裕のある表情は消え、厳しい顔となり、レリフの上段からの剣の振りを槍で受け止めていた。


「うわ! 受け止められたよ! 結構、本気だったのに!」


「……貴様、何者だ?」


 レリフと大男が、そう言いながら、戦っていた。バン!バン!という金属音が、凄まじい速度で連続して、聞こえてきた。もはや、二人の姿が速過ぎて、アリアも目で追うのがやっとであった。そして、アリアは、レリフに指し示された方向に行き、敵兵を斬り伏せていた。


 そんなこんなで、1時間が経過した。まだ、レリフと大男の決着はついていなかった。サラとブルーノは、まだ、何とか包囲されずに戦っているようだ。アリアも、目の前の敵を斬り伏せながら、奮闘していた。そんな時に、アリアの近くに短剣が飛んできた。


「師匠、サラさん、ブルーノさん、短剣が飛んできました!」


「やっとかい!」


 レリフはそう言いながら、大男の相手をしていた。サラとブルーノは返事をする余裕がなさそうであった。そんな状況で、アリアはサラとブルーノの周囲にいた敵を一気に倒した。


「ブルーノさん、サラさんと一緒に戻って下さい! 私と師匠で、殿をします!」


「すまない、アリア! 私とサラ王女は限界だ! 後は頼んだ!」


「アリア、ごめんなさいですわ! 帰ったら、美味しいものをたらふく食べさせてあげますわ!」


 サラとブルーノはそう言うと、アリアが倒してくれた敵兵の間を走って逃げて行った。そして、それを追いかけようとする敵兵をアリアは倒していった。


「アリアちゃん、逃げるよ!」


 大男を吹き飛ばしたレリフが、アリアの周りの敵兵を倒しながら、近づいて来た。それを見たアリアは、門の周辺の敵兵を一気に倒すと、レリフと一緒に逃げて行った。


 そして、馬車のある位置に行き、先に到着していたカレン、レオン皇子とよく分からない女性、サラ、ブルーノがいる馬車の中にレリフと一緒に急いで乗り込んだ。


「それでは、行きます!」


 カレンはそう言うと、急いで、馬車を走らせ始めた。

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