22 レファリア帝国動乱①
――レイル軍大会から半年が経過していた。アリアは、15歳となっていた。日中は、近衛騎士団に勤務し、何か特別な任務がある以外は、ルビエ団長の下、近衛騎士団としての訓練をしていた。夜や週末は、レリフと修行をする生活は変わっていなかった。修行がないときは、フルーレとお茶会をしていた。出会ってから、2年以上経ったが、フルーレとエリゴルは年をとっているようには見えなかった。
アリアの屋敷は、完全にフルーレの屋敷となっており、武器などを置きに行くと、よくエリゴルとエイルが掃除をしていた。その横では、フルーレが部屋着と分かる服装で、ソファーでゴロゴロしながら、本を読んでいた。アリア自身も、別にアリアの屋敷を使っていないので、気にしていなった。
そんな日々を過ごしていたある日。アリアがレイル王城にある近衛騎士団の訓練場で、ルビエの指揮の下、訓練をしていると、近衛騎士団のベオルが、ルビエの下に、急いだ様子で近付いて来た。
「団長! 急ぎ、王の間にお越し下さい!」
「何事だ!?」
「分かりませんが、王、直々の勅命です!」
「分かった!」
「あと、サラ王女がアリアも王の間に呼ぶように、おっしゃていました!」
「アリアも? 分かった! とりあえず、連れて行く!」
え?私も?と思ったアリアであったが、ルビエに体をつかまれると、脇に抱えられ、そのまま王の間に向かった。
そして、王の間に到着したルビエとアリアは、王の御前で礼をすると、軍務大臣であるイオルクの隣に並んだ。そこには、アスール王国の中央軍の将官達が並んでいた。反対側には、財務大臣であるダモンを筆頭に、文官達が並んでいた。アスール王メギドの傍には、宰相であるエースと第1王女サラ、それに第1王子であるマイロ・アスールが立っていた。
マイロ・アスールは、サラの兄であり、20代中盤の若い王子であった。レイル士官学校を実力で首席となり、現在はアスール王メギドの跡を継ぐべく、アスール王の補佐をエースと一緒に行っていた。
「それでは、ただ今より、レファリア帝国の情勢について、討議をします。現在、レファリア帝国では、皇帝エミル・レファリアの死去に伴い、第1皇子フィン・レファリアが、レファリア帝国の実権を握っている状態です。ただ、それを良しとしない第2皇子レオン・レファリアが、第1皇子フィンに対し、反旗を翻しました。その結果、第2皇子レオンは、敗れ、皇都アスローンにて、監禁、2週間後に処刑をされる予定です」
「それで、我が国は、この状況で何かしようと言うのか? 帝国で内乱があり、それが平定された。ただ、それだけではないのか?」
ダモンが、エースにそう言った。他の文官達や将官達も首を縦に振っていた。
「はい、レファリア帝国が内乱で混乱している様子であれば、こちらから侵攻するという選択肢もありますが、現在、第1皇子フィンが、レファリア帝国の実権を握り、内乱を平定したので、その隙もありません。ですが、第1皇子フィンは周辺諸国を武力で征服しようという考えを持つ主戦派、第2皇子レオンは周辺諸国と友好的な関係を築こうという穏健派です。将来的に、第1皇子フィンは、アスール王国に攻め込んでくるでしょう。この状況を踏まえて、王の間にいる方々に考えていただきたいことがあります」
王の間にいる文官達や将官達は、何事かとヒソヒソと話し始めた。
「今日、サラ王女に、第2皇子レオンの密使が接触をしました。その内容は、第2皇子レオンの身柄を皇都アスローンから助け出し、第2皇子レオンに我がアスール王国が軍勢を貸し、その後ろ盾となって欲しいということでした」
「ふざけるな!! 我が国に火中の栗を拾えということか!? それに、第2皇子レオンをどうやって助け出すというのだ! 皇都アスローンまで、アスール王国軍が攻め入るというのか! それこそ、無理な話だろう! 相手は、我が国を軽くしのぐ大国なのですぞ! レファリア帝国と全面衝突になれば、この国は、今度こそ滅びますぞ!」
ダモンが大声で、そう叫んだ。王の間にいる文官達や、将官達も怒って声を上げていた。ルビエは目をつむり、黙っていた。アリアは、王の間の様子を黙って、見ていた。
「静まれ!」
アスール王メギドが、声を上げた。王の間が一瞬で静まりかえった。
「元帥、お前の意見を聞きたい」
メギドは、黙って聞いていたマルクにそう言った。マルクが口を開いた。
「私も、ダモン殿の意見に賛成です。我が国が第2皇子レオンの後ろ盾となっても、レファリア帝国の実権を握っている第1皇子フィンを倒すのは難しいでしょう。加えて、我が国に攻め込む好機と見たレファリア帝国が、攻め込んでくるのは確実でしょう。今度こそ、我が国は滅んでしまうかもしれない。現状、そのような選択を取るのは得策ではないと考えます」
「分かった。結論を言う。我が国は、第2皇子レオンの救出はしない。そして、レファリア帝国の攻撃に備えよ。以上だ」
メギドの言葉を聞いていたサラは、泣きそうな顔になっていた。そして、討議は終了し、王の間にいる文官達や将官達は王の間から出て行った。アリアも、ルビエの後ろをついて、王の間を出て行った。そして、少し歩き、自分が一人になった際に、サラがいきなり現れた。
「アリア、話がありますの」
真剣な表情でサラがアリアにそう言った。アリアは、とりあえず、ついて行くことにした。到着したのは、サラの部屋であった。そこに入ると、サラは扉を閉めた。サラの部屋の扉の外の近くには、険しい表情をした女性が腕を組みながら立っていた。
「アリア、お願いがありますの! ワタクシと一緒にレオン皇子を救出して欲しいんですの!」
そう言うと、サラはアリアに頭を下げた。アリアは閉口してしまった。
(どう考えても、死にに行くようなものでしょう)
アリアはそう考えながら、黙っていた。サラは、頭を下げたままだった。おそらく、メギドがレオン皇子を救出しないことを事前に分かっていたのだろう。だから、王の間の討議を聞かせたのかとアリアは思った。そして、サラが頼れるのはアリアしかいないということも、アリア自身が分かっていた。
「……考えさせて下さい」
「分かりましたわ。もし、来てくれるなら、今日の夜1時に、王都レイルの東門に来て欲しいですわ」
「分かりました」
アリアはそう言うと、サラの部屋を出て行った。部屋の外にいた女性は居なくなっていた。
――アリアはハルド家の自分の部屋で考えていた。自分がサラについて行かなくても、サラは一人でレファリア帝国の皇都アスローンに向かうだろう。自分がいくら止めたとしても、あらゆる手段を駆使して、レオン救出に向かうということは、アリアが一番、理解していた。そうでなければ、私にお願いする訳がないと思っていた。
(もし、サラが死んだら、私はどう思うんだろう?)
そう考えたアリアの脳裏に浮かんだのは、アリアの両親の最後であった。あの時に両親を助けられず、見捨てたのが、アリアの中で忘れられない出来事であった。
(私はサラを見捨てるのか? それって、お父さんとお母さんを見捨てた時と一緒ではないのか? 私はまた、失うのか?」
サラと一緒に行けば、間違いなく死ぬ。アルテリオ帝国に復讐も出来なくなる。だが、行かなければ、サラを見殺しにしてしまう。アリアは心を決めた。
(サラを見殺しにしたら、一生、後悔するだろう。しょうがない。一緒に行ってあげよう)
サラはそう心に決めた。必要な物をカバンに入れ、剣を持ち、ハルド家の屋敷を静かに出ようとした。
「アリアちゃん、そんな準備をして、どこに行くの?」
ハルド家の屋敷の門にレリフが寄りかかっていた。アリアは歩みを止め、黙っていた。
「内緒の話をする時は、周りを確認した方が良いよ。今回みたいに誰が聞いてるか分からないからね」
レリフがそう言うと、ハルド家の屋敷の中庭の方から、ルビエが歩いて来た。ルビエは男性を引きずっていて、アリアの近くに来ると、その男性を放り投げた。
「ブルーノさん!?」
「……やぁ、アリア。王の間に君が居たことと、サラ王女が泣きそうな顔をしていたってことを、父上から聞いてね。もしやと思って、ハルド家に忍び込んで、君に会おうとしたら、このザマだよ」
ブルーノは、ボロボロになりながら、そう言った。
「アリア、サラ王女のことはこの後、連れ戻す。だから、屋敷に戻って、寝なさい」
ルビエがアリアにそう言った。アリアは無言で、剣を抜いた。
「……アリアちゃん、分かっていると思うけど、僕とルビエを倒して、サラ王女の下に行くのは不可能に近いと思うよ?」
レリフがそんなアリアの様子を見て、そう言った。それは、アリア自身が一番、良く分かっていた。アリアは、一直線に、レリフに斬りかかった。
「やれやれ」
レリフはそう言うと、アリアの剣を受け止めた。そこから、30分。アリアとレリフは、剣を斬り結び続けた。ルビエは、それを黙って見ていた。
「アリアちゃん、もう諦めなよ」
レリフが剣をクルクル回しながら、そう言った。アリアは、満身創痍という様子であった。そんな状況に一人の男性が近付いて来た。
「父上! こんな夜遅くに、どうしたというのですか!?」
ルビエが男性を見て、そう言った。男性の正体は、バリスであったらしい。
「剣の音がうるさくてな。それで、なぜ、こんな夜遅くに、しかも、こんな場所で戦っているのだ?」
「弟子に稽古をつけていただけですよ」
「違うだろ。アリアがレファリア帝国に行こうとするのを、止めているのだろう?」
「やっぱり、ご存じでしたか。弟子が自殺しに行こうとしているのを止めない師匠が、どこにいますかね?」
「確かに、そうだな。だが、これだけの意思の強さだ。どんなことをしても、レファリア帝国に向かうだろう。それは、止められないことだ。であれば、レリフ。お前が、保護者としてついて行け」
「正気ですか、父上!? 兄上も確実に死にますよ!?」
「弟子の願いを叶えてやるのだ。死んでも悔いは残らないだろう」
「いや、悔いは残ると思うんですけどね。ただ、父上の言うことにも一理あるかと思います。分かりました。私がアリア達について行きますよ」
「兄上も、何を馬鹿なことを言っているのですか!? どう考えても、死にますよ!?」
「まぁ、何とかなるでしょう。それに、可愛い弟子には、旅をさせろって言うじゃない? たまには、追い詰められた状況も悪くはないんじゃない?」
「兄上がそうでも、私はサラ王女をお止めします!」
「ルビエ。お前は、自分の兄を信じられないのか?」
「そういう問題ではありません、父上!」
ルビエはそう言うと、レリフに槍を向けた。その様子に、レリフは驚いていた。
「ルビエ、本気かい?」
「兄上を倒して、サラ王女も連れ戻します!」
そう言うと、ルビエはレリフに突きを繰り出した。バン!という音とともに、レリフはその突きを弾いた。
「アリアちゃん、そこのブルーノを連れて、先に行っててよ。僕も後で追いつくからさ」
ルビエの連撃を、防御しながら、レリフはそう言った。
「ありがとうございます、師匠!」
アリアはそう言うと、ブルーノを担いで、急いで、サラが待っている場所へ向かった。
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