28 レファリア帝国動乱⑦

 ――レファリア解放軍が反攻を開始してから、4日が経過していた。その間、レファリア帝国軍は、敗走に敗走を続け、皇都アスローンの周辺より西側は、レファリア解放軍の支配地域となっていた。レファリア解放軍がこれほどまでの快進撃を続けられた理由は、二つあった。


 一つ目は、レファリア帝国軍の士気が落ちていたことであった。まともな食事を与えられず、矢は尽き、ひたすら突撃をさせられていたのだ。士気が落ちない訳がなかった。

 二つ目は、軍需物資集積地であるミナスが焼き払われたことであった。レファリア帝国軍の指揮官達は、何とか、兵士達にその事実を隠そうとしたが、隠しきれず、レファリア帝国軍内で噂として流れてしまっていた。結果、戦えないと判断した兵士が多数、逃亡していた。


 そうした要因が重なったため、レファリア帝国軍は逃亡兵が増え、レファリア帝国軍を構成している各領地の貴族も、レファリア解放軍が攻め寄せれば、すぐに降伏した。完全に戦の流れは、レファリア解放軍に傾いていた。


 アリア率いる近衛騎士団とカレンは、北西部に逃げている途中、そうした逃亡兵と出会うことが多かった。だが、アリア達に攻撃を仕掛けてくる訳でもなく、ひたすら、逃げている様子であったので、アリア達はその兵士を無視して、進撃しているであろうリカルド率いる西方軍との合流を優先した。


 そうして、ミナスを焼き払ってから、1日後。アリア率いる近衛騎士団とカレンは、リカルド率いる西方軍と合流をすることが出来た。合流したので、アリアはリカルドに任務の完了報告をしに行った。


 そして、リカルドはアリアが前線の指揮所の天幕に入ってくるなり、『良くやった!』と言って、アリアの肩をバンバンと叩いてた。リカルドが喜んでいるのは嬉しかったが、肩が痛かったので、正直、やめて欲しいなとアリアは思った。


 その後、リカルドがアリア率いる近衛騎士団の一人一人に握手をして、労いの言葉をかけていた。現役の将官、それもアンティーク奇襲戦を成功させた英雄とも言えるリカルドに労いの言葉をかけられ、近衛騎士団の面々は、感激していたようであった。マグヌスは、『ありがとうございます!』と言いながら、泣いていた。


 それを見たアリアは、感情表現豊かだなと思った。ブルーノは、『これも、アリアのおかげです!』とリカルドに言っていた。恥ずかしいので、やめて欲しいとアリアは思った。そうして、リカルドの労いが終わると、アリア達は、リカルドの指示でしばらくの間、後方部隊の警護をすることになった。


 前線で戦うよりは、休めるだろうというリカルドの配慮であった。カレンは、西方軍にアリア率いる近衛騎士団が合流するのを見届けると、レオンの下に帰って行った。体力、どれだけあるんだろう?とアリアは、カレンが走って行ったのを見ながら、思った。


 アリアはリカルドから、レファリア解放軍の現状を聞いていた。どうやら、レファリア解放軍が優勢らしい。確かに、レファリア解放軍の兵士の様子を観察すると、士気が上がっているのを感じられた。そうして、アリア達はレファリア解放軍が進撃するのを見届け、後方部隊の警護に向かった。






 ――レファリア解放軍が皇都アスローン周辺に布陣していた頃。フィンは、皇都アスローンのアスローン城の指揮所となっている部屋で、地図が広げられている机を叩いていた。


「なぜ、こうも我が軍が簡単にやられるのだ!? 我が軍が、少し前までは、優勢だったではないか!? こんなに、押し込まれる訳がない!」


 フィンの言葉が部屋に響いた。並みいるレファリア帝国軍の将官達が、その様子を黙って見ている。


「アラン! 説明しろ!」


 フィンはアランを怒鳴りつけた。アランはレファリア帝国軍の大将であり、フィンの側近として仕えている男であった。元々、レファリア帝国軍の少将であったが、フィンの皇帝就任に伴い、大将となった男であった。


「やはり、ミナスを焼き払われたのが、相当な痛手であったと考えます。ミナスを焼き払われる前でさえ、我が軍は、軍需物資、特に食料が足りていない状況でした。その集積地であったミナスが焼き払われたのでは、まともに戦えないと前線に兵士を供出している貴族は考えたのでしょう。そして、レファリア解放軍が攻め寄せると、すぐに降伏してしまったために、ここまで我が軍が押し込まれてしまったと私は思います」


「恩知らずの貴族どもが! レオンを倒した後に必ず、処刑してやる! アラン、お前は軍需物資、特に食料が足りないと言っていたな? そのようなもの、周辺の都市から、徴発すれば良いではないか!?」


 その言葉に並み居る将官達は、険しい顔をしていた。アランの顔も険しくなった。


「陛下。徴発を実施すれば、ただでさえ、困窮している帝国臣民がさらに、困窮することとなります。現状でさえ、餓死者が続出しているのです。これ以上の、徴発は不可能です」


「何を言っている、アラン!? このままでは、レオンに負けるのだぞ!? 帝国臣民など、いくら死んでも構わぬ! 徴発を実施し、我が軍を立て直せ!」


 フィンはそう言うと、指揮所となっている部屋を出た。そして、フィンは自分の部屋へと戻って行った。並みいる将官達も、暗い顔をしながら、指揮所となっている部屋を出て行った。アランは一人、広げられている地図を見ていた。


(現状、我が軍は総崩れの状態だ。残る兵士の士気も低い。軍需物資の徴発を強行すれば、餓死者が多発し、帝国臣民の不満は限界となり、内乱などが発生するだろう。そうなってしまっては、もはや、戦どころではない。レファリア解放軍は総勢6万。対する我々、レファリア帝国軍は、各方面から撤退して来た兵士と皇都アスローンにいる兵を合わせて7万。兵士の総数で、かろうじて上回っているが、皇都アスローンとその周辺を守るので、精一杯で、レファリア解放軍を倒すことは難しいだろう)


 アランはそう考えながら、地図のレファリア帝国の周辺諸国に目を向けた。


(レファリア帝国の北部のオーシア王国、北西部のバジル王国、南西部のルール公国に軍需物資を提供するように要請したが、中立を保っているので、こちらに提供してはくれなかった。もし、援軍を要請したとしても、軍を送ってくれる見込みはない。まだ、皇都アスローンから東部の貴族は、フィン皇帝に従っているが、レファリア帝国軍がこれ以上、劣勢になれば、こちらを見限り、レオン皇子率いるレファリア解放軍に合流するだろう。この状況、どうすれば良いか、私には分からない)


 アランが指揮所がある部屋で悩んでいると、一人の大男が部屋に入って来た。


「おう! アラン! 何を悩んでるんだ?」


「……ダリル。お前は暇そうで良いな。私がこんなにも、悩んでいるというのに!」


「そう、怒るなって! どうせ、あれだろう? レファリア解放軍にどうやったら勝てるかとか考えてたんだろう? もう、無理だから諦めろって!」


 ダリルと呼ばれた男は、机の上に酒が入っている容器を置き、二つの杯に酒を注いだ。そして、一方をアランに渡した。アランはそれを手に取ると、一気に飲み干し、机の上に置いた。


「……お前のような脳ミソまで、筋肉で出来ている男でもそう思うか」


「おうよ! 末端の兵士だって、レファリア帝国軍が負けそうになっているって気づいてるぜ! 何とか、指揮官達は誤魔化そうとしているがな! ミナスが焼き払われたのだって、知らない兵士は、もういないと思うぜ! この状況でレファリア解放軍に勝てるなんて思えるやつはいないだろう!」


 そう言って、ダリルは杯に入った酒を飲み干すと、また、アランと自分の杯に酒を注いだ。アランは、酒が入った杯を一口、飲んだ。


「……思えば、7年前ほどのアスール王国に侵攻した作戦も無茶なものであった。あれは、レオン皇子の才能に嫉妬したフィン皇帝が、エミル前皇帝を説得し、何とか武功を立てようと始まった作戦だった」


「でもよ、良いところまではいったんだろう?」


「あぁ。あと少しで、アスール王国の王都レイルまで届きそうな位置まで軍を進めることは出来た。だが、剣聖レリフ・ハルドが出てきてから、状況が一変した。元々、無茶な作戦であったが、そこから、一気に軍が崩れて、レファリア帝国軍は国境まで押し戻され、結局、アスール王国からの莫大な食料の提供と引き換えに、講和を結ぶことになった」


「俺は、その時、アスローン城にいるエミル前皇帝を守っていたから、知らないけどよ。そんなに、剣聖レリフ・ハルドっていうのは、強かったのか?」


「私はお前以外に、あれほど強い人間は、今まで見たことがない。戦場をまるで無人の野を行くが如くの強さであった。あれは正真正銘の化け物だ。というか、お前も多分、戦ったことがあるぞ?」


「はぁ? 俺が戦ったことがあるだと? いつだよ?」


「この前、レオン皇子を救出されてしまった時だ。レオン皇子とパミラ様の救出自体はカレンがやったようだが、その時間稼ぎに、アスローン城の入口で戦っていた者達がいただろう? その中に、剣聖レリフ・ハルドがいたと思うぞ。報告に上がってきた内容と、私が知っている姿が一緒だったからな。確か、お前も、その集団と戦ったのだろう?」


「ああ! あいつか! 白髪を後ろに結んだ男だろう!? 確かに、やたら強かったな! 俺と30分以上、やり合えるやつなんて、この帝国にはいないからな! 大体、一撃で終わっちまう! 久々に俺も本気出したよ! あいつなら、戦場を縦横無尽に引っかき回したとしても、不思議ではないな!」


「……魔槍ゲイボルグの所有を認められているほどの強さをもつお前と30分以上、戦って、決着がつかなかったのか。頭が痛くなるな」


「あいつの他にも、なんか、ちっこい娘も俺の槍の一撃で死んでなかったぞ! まさか、一撃で倒せないとは思っていなかったから、驚いたぞ!」


「……もしかして、その娘は短髪で剣を振っていなかったか?」


「おぉ! 良く分かったな! まさしく、そんな感じだったぜ!」


「おそらく、ミナスを焼き払った部隊の指揮官はその娘だ。ミナスの守備隊からの報告と特徴が一致している。尋常な強さではなかったらしいぞ」


「敵陣に潜入して、しかも、奇襲をするとはやるな! これは、戦場で戦うのが楽しみになってきた!」


「フィン皇帝を守っているお前が、戦場に出ている時点で、レファリア帝国軍はおしまいだ。とは言っても、今の現状だとそうなりそうなのが、何とも言えないな」


「まぁ、考えても、現状は変わらないんだから、もっと楽しくいこうぜ!」


「……エミル前皇帝から、お前とともに、フィン皇帝に仕えるように言われて、長い時が経ったが、未だに、お前の楽観視というか、何も考えていないというか、とにかく、そういった考え方には驚かさせるな」


「おうよ! 人生、楽しまなきゃ、損だぜ!」


「はぁ。私も少しはお前を見習うとしよう」


 アランとダリルはそう言って、杯で乾杯をした後、他愛もない話をしていた。






 ――アリア達がレファリア解放軍と合流してから、4日が経っていた。その間、皇都アスローンの近辺で、レオン率いるレファリア解放軍は、合流した北西部と南西部の軍を含め、攻撃準備をしていた。アリア率いる近衛騎士団も、後方部隊の警護から外され、元通り、中央軍の配属となった。


 その際、アリアがレオンとサラに会いに行くと、『よく帰って来て下さいましたわ!』とサラが泣きながら、アリアに抱きついてきた。とりあえず、生きて帰って来れて良かったなとアリアは思った。レオンからも、『君の活躍に何か報いる方法を考えるよ! 楽しみに待っててね!』と握手をしながら、言われた。


 相変わらず、かっこいいなとアリアは思いながら、近衛騎士団が設営した天幕がある方へ戻って行った。そして、天幕に戻ると、天幕の前にレリフがいた。


「お疲れ、アリアちゃん! 大変だったでしょう!?」


「まぁ、大変ではありましたね。サラさんとレオン皇子の護衛はどうでしたか?」


「たまに、なんかレオン皇子を襲撃してくる暗殺者?はいたけど、その他には、特に何もなかったよ」


「良かったです」


「それじゃ、僕はサラ王女の護衛に戻るから!」


 レリフはそう言って、サラ王女の護衛に戻って行った。師匠なりに、私を心配してくれたのかな?とアリアは思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る