第38話 テキシュウ

メルダ達が部屋から出ると、止まりそうだった鼓動が暴れ出す。

同時に処理しきれない現実が幼いカインを容赦なく襲った。


カイン:『まさかメルダが...』


今にもちぎれて消えてしまいそうなほど痛む心臓を叩きながらもう一度ノートを覗き込む。

数ページ捲ると先程メルダ達が話していた秘宝抑制装置のことが書かれていた。


"秘宝抑制装置:願いが大きいほど反動の大きい秘宝だが、この装置があればどんなに大きな願いでも反動無しで扱うことが可能となる。"


カイン:『う、嘘だろ...そんな無茶苦茶な...』


そして夢中になりながら他のページも勢いよく捲る。


"プロジェクト・ユートピア:各国の権力ある者を消滅させて四国を統合。主君にカイカの現王女メルダを迎える。その後、能力者達の"目覚め"を全てメルダ王女に集約する。"


カイン:『秘宝抑制装置が完成すれば、真っ先に各国の権力者達を消して、その後"目覚め"を全て自分のものにするつもりか。なんて強欲な人間なんだ...』


カインの願いは全能力者が手を取り合い協力することだった。その考えを分かちあった仲だと信じていたメルダは正反対の考えを持っていた。

今まで世界平和を願い、手を取り合うように訴えてきたメルダはいない。最初から助け合うをフリをして、他国の弱みを握ろうとしていたのであろう。


カイン:『俺が止めないと...』


カインはそのノートを果敢にも持ち去り王宮から立ち去った。

ここでメルダを殺しに行けば、確実に衛兵捕らえられ処刑される。

かといってチャンスを伺っていても、先にカインが用済みという理由で消されるだろう。

たった7歳の少年はただ非力を嘆きながら近くの森の中を無心に駆けた。何度も転びながらもただただ体力の限り走り続けた。



___________________________________________


レイス:「その話が本当ならメルダは過去1番の腹黒女ですね」


アルバ:「犯罪者の話ほど信じられないものは無いけどな」


カイン:「その後、俺は念入りに準備してからあの女を殺した...」


レイス:「王女を殺して奪い返した秘宝で俺は生き返ったんですね」


そんな言い方をされても事実のため言い返す言葉もない。


ヴィーーーヴィーーー


機械音声:「テキシュウデス。テキシュウデス」


レイス:「は?敵襲って、今俺らしかいないのに」


ドゴーン ドン


物凄い爆音にアルバ達は部屋から飛出て窓から外を見る。


アルバ:「なんだありゃ!」


外には大量のオーバー達が押し寄せ、黒い仮面を付けた連中が20人ほどこちらを狙っている。


レイス:「NOXか...まさかこんなすぐに攻めてくるとはな」


アルバ:「とりあえず今は俺たちしかいない。俺ら2人でやるぞ」


カイン:「俺もやるよ」


アルバ:「は?相手はテロ組織だ!普通の人間が勝てるわけ」


レイス:「カインさんも能力者なんですね」


カインはこくりと頷くと、何も言わずに窓から飛び出す。


アルバ:「ちょっ待て!」


レイス:「俺らも行くぞ」


2人もカインに続いて飛び出し、3人は"目覚め"を解放して勢いよくNOXに突っ込んだ。

アルバは数体のオーバーに光の速さで打撃を叩き込み、ドロドロとした図体に風穴を開ける。

レイスは影を伝って、黒仮面たちの背後にまわって1人ずつ着実に首を掻っ切る。

カインは空間上に別の空間を出現させる。

敵の喉に別の空間を出現させ、敵の首は一瞬で切断される。


アルバ:「あの"目覚め"はなんだ?」


レイス:「とてつもない殺傷能力だ」


余所見をしているアルバに黒仮面の男は斬りかかる。


カイン:「戦場で余所見するなんて命知らずだな」


アルバが慌てて振り返ると、黒仮面の男の上半身は消えていた。


アルバ:「た、助かった。ありがと...」


犯罪者だということは置いといて、素直に助けてくれたという事実に感謝する。

カインは建前でも唯一の家族であるアルバから感謝されてふと泣きそうになる。


体中を突き刺すようなトゲトゲしい隠力が空気中に漂う。


ネメシス:「おいおい、ゼラノスがいないじゃねーか」


レイス:「あ、あいつは!?」


本部襲撃に参加し、ゼラノスをギリギリのところまで追い込んだ怪物であり、NOXの幹部組織"五重夜ペントニクス"の1人ネメシス。


ネメシス:「あの分厚い本、能力者全員のことが載ってるんじゃなかったのかよ?影のやつ以外知らねーぞ」


レイス:(あいつは持久戦になればなるほど強くなる。最初の一撃で確実に決める)


レイスは影を伝い、ネメシスの背後から確実に首を斬ろうとする。


ネメシス:「確かお前は能力範囲内の影なら自由に行き来できて奇襲が得意...だったか」


ネメシスが自分の影に手をかざす。


ネメシス:「あの本によれば、影に隠力を注げばどの影を移動しているか分かるんだよな」


少し離れたオーバーの影から隠力が反応する。

ネメシスはその影に特に隠力を注ぐ。


レイス:「ぐっ」


影から飛び出てきたレイスを見るやいなや、ネメシスは自分の指を噛み流血させ、その血を銃弾のようにしてレイスに飛ばした。

血の弾がレイスの体を貫こうとした瞬間、レイスの前に別の空間が出現する。


カイン:「血の"目覚め"か。結構使いこなしてそうだな」


ネメシス:「あの変な空間はお前のか?」


カイン:「まぁな。アルバ、一緒にやってくれるか?」


アルバは一瞬迷ったが、今までのカインを見て一旦共闘することに決めた。


アルバ:「俺の兄ちゃん名乗るならダサいことすんなよ」


カイン:「思春期か?弟のくせに生意気だな」


カインは少し微笑んだ後、右手を上げて目の前に野球ボールほどの大きさをした空間の球を生成する。


カイン:「アルバ、俺の"目覚め"は次元を操る」


アルバ:「俺のこと信頼してんのか?」


カイン:「まだ言ってるのか?唯一の家族なんだ。信頼するのは当たり前だろ。俺がチャンスを作るからお前が攻め込め」


カインはコソコソと細かい作戦を伝えると、生成した空間をネメシスに向けて飛ばす。


ネメシス:「少しは楽しませろよ?」

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