第37話 王女メルダ
カイン:「当時俺は7歳で、王女に謁見しようと門兵に訴えていたがマトモに取り合ってもらえなかった。だけど、そこに偶然メルダ王女が通りかかってな。若々しくとても30歳には見えなかったし、見た目も金色の髪に、瞳も透き通るような青色でとても美しい女性だった。そして、王女は俺のことを将来を担う有望な若葉だと言って、話を聞いてくれることになったんだ。初めて会った時は君たちの言う通り天使のような人だと思ったよ。こんなガキンチョの話をわざわざ時間を設けて聞いてくれるなんて」
アルバ:「やっぱすげー良い人じゃねーか」
レイス:「まぁ話を聞こうぜ」
カイン:「そして、俺は王女に自分の使命を話した。16年前では知られていないような情報を俺は知っていたから、王女はすぐに俺を信用して協力してくれることになった」
レイス:(王女は友好的な人だが、仮にも一国の王女だぞ。そんな7歳の子供に付き合えるほどお人好しだとも思えない。どんな情報を話したんだ。一体この人は何者なんだ)
レイスは 疑問が溢れるばかりだったが、口を挟みたい気持ちを我慢して今は聞くことに専念している。
カイン:「俺の目的は、全能力者が自分の"目覚め"を不自由なく使えるようにし、そして出身など関係なく互いに協力すること。ただそれだけだった」
___________________________________________
メルダ:『まず、何から始める?』
カイン:『これには全世界の協力が必要です。引き続き他国に協力要請をお願いします』
メルダ:『任せて!それにしても、小さいのに本当にしっかりしてるわね。7歳ってのは嘘?』
カイン:『何の変哲もない7歳ですよ。それより、カイカにいる"目覚め"持ちの把握は順調でしょうか?』
メルダ:『それなら私の付き人さん達が調べてくれてるわ!』
カイン:『流石ですね。王女が手伝ってくださって心から感謝しています』
メルダ:『このぐらいなんてことないわ!』
そして、その日もメルダ王女は全世界に向けたスピーチや、自ら街に出向いて様子を見たり、王女としての責務を全うしていた。
_____________ある日の昼下がり______________
メルダ:『自分1人でなんでも解決しようとしてない?』
カイン:『え?』
メルダ:『確かに私に頼ってくれてるけど、本当に大事なことは私に言わずに全て自分でやろうとしてるじゃない』
カイン:『そ、そんなことは...』
メルダ:『大人を馬鹿にしないの!全部気づいてるんだからね』
カイン:『でもこれは自分の問題なんで』
メルダ:『カインに協力してる時点で私の問題でもある。そうは思わない?カインはまだ大人を頼れる歳なんだからもっと頼りなさい!』
しっかりしていたとはいえど、まだ7歳。親を亡くし、弟と離れ離れになり、頼れる人などいない状況がしばらく続いていたカインにとって、メルダの優しさは母親の愛のように感じた。
そして、隠していた情報や、カインの境遇全てをメルダに話したのであった。
まだ幼いのに壮絶な人生を過ごしていたカインをメルダは優しく抱擁した。
最初は自分の使命のことで頭がいっぱいだったカインも、無邪気で純粋の塊みたいなメルダに次第に心を開いていったのである。
それから1ヶ月後、突如隣国フウゲツの王女ハンナが暗殺未遂にあう事件が起きる。そして、その犯人はカイカの王女の付き人のうちの1人だったと報道された。
メルダはすぐに付き人の弁明を行ったが、付き人が犯人だという証拠は揃っており、数日後その付き人は公開処刑されることとなった。
突然、大切な付き人を失ったメルダは酷く気が滅入った。
カインの呼びかけにも反応せず、自室に1ヶ月以上篭もりっぱなし。
限られた付き人だけが部屋の出入りを許されていた。
カインの使命を果たすための計画も一時中断せざるを得なかった。
ある日、カインが王室内を歩いているとメルダの部屋の扉が開いているところを発見する。
いけないことと分かりつつも、カインはメルダのことが心配で部屋の中に入った。
しかし、メルダは部屋にはおらず、ただ部屋の中が酷く散らかっているだけだった。
カイン:『随分心が病んでいるんだな。こんなに部屋を散らかしてしまうなんて』
まだメルダの気持ちが沈んでいるんだと思ったカインは大人しく部屋から出ようとした。
その時、机の上にある1冊のノートが目に入る。
カイン:(なんだ日記か?)
そのノートを見てすぐに、メルダに情報を教えたことが間違いだったと気づく。
そこには、カインの教えた"目覚め"の種類とその強さ。能力者の大群で他国を攻め落とす計画。秘宝の悪用方法。そして、フウゲツの王女ハンナの暗殺計画までもが記されていた。今回処刑された付き人は暗殺未遂事件には全く関係なく、証拠も全て捏造されたものであること。全てが事細かに書かれていたのである。
カインが固まっていると廊下から足音が聞こえる。
コツコツコツコツ
急いでカインはクローゼットに隠れる。
クローゼットの扉の隙間から様子を見ると、メルダと付き人が部屋に入ってきた。
メルダ:『今日はあのガキが部屋まで会いに来てないけど、あいつはもう出ていったの?』
カイン:(きっと俺のことだ...メルダがこんな人間のはずがない。絶対嘘に決まってる)
メルダ:『もう情報は搾り取ったし、あいつ要らないわ。あいつの飯に毒かなんか入れて殺しといて』
付き人:『かしこまりました』
第2の母親のように感じていたメルダの正体を知り、カインは声を押し殺しながら泣きじゃくった。
メルダ:『てか、ハンナはいつ死ぬの?この前失敗したから次は無いよ?』
付き人:『申し訳ありません。この前の一件でフウゲツの警備が強化されており当分の間暗殺は難しいかと』
メルダ:『チッ。あんな綺麗な国ないんだよ?手始めにあの国が欲しいのにさ、チンタラやってるとアンタも他の侍女も皆殺しだからね?』
付き人:『はい、肝に銘じておきます』
メルダ:『まぁ秘宝は全部私が持ってるし、最終的にはどうにでもなるけど。秘宝の解明の方は進んでんの?あのガキが言うには秘宝が揃ってればなんでも出来るらしいけど?』
付き人:『かなり構造が複雑らしく、解明するのに2年は要するとのことです』
カインは涙を拭い、メルダ達の悪事を暴くため彼女達の話に集中する。
カイン:(グスッ、こいつら秘宝で何する気なんだ...)
メルダ:『一から作れと言ってるなら仕方ないけど、私はあのガキから秘宝の現物を貰ったのよ?さっさと出来ないわけ?はぁ...無能ばっかりね。まぁいいわ。今まで何年も待ち望んできたし、あと2年ぐらい待ってやるわよ』
付き人:『その頃には秘宝抑制装置も完成していると思います』
カイン:(秘宝抑制装置?一体何の話をしてるんだ)
メルダ:『そう長くは引き篭ってられないし、今できることはやっておきましょう。とりあえず自分の目で研究の進捗を確かめたいわ。行きましょ』
そう言うとメルダ達は部屋から出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます