第26話 苦痛再来
倒したと思われたドロルが、先程よりも強大な力を放ち、禍々しい見た目に変わり、巨木を裂いて強引に出てくる。
ドロル:「舐めたマネしやがって!!」
リーフ:「天覆の巨木は対象の隠力を養分に成長し続ける。木の成長が止まった時お前の陰力も感知できなくなっていた。なのにどうして?」
ドロル:「確かに死にそうなくらい吸われたな。けどな、危ないと思った俺の"目覚め"が勝手に反応して力が増大化したんだよ。それで木の養分を吸い返してやったグへへへへ」
リーフ:「ハハハ...見た目通りの怪物だな...」
上手く笑えずリーフの顔が曇る。
リーフ:「見た目が変わっても近づかなきゃお前の能力は無力だ」
ドロル:「試してみるか?」
ドロルは両手を前に上げたかと思うと禍々しい陰力が両手の前に生成される。
そして、その陰力の玉を振りかぶって凄まじい勢いで飛ばす。
リーフ:「全員伏せろ!」
ドカーン
リーフが咄嗟に生やした何重もの植物の壁で何とか堪える。
アルバ:「どうなってんだ、あいつはあんなこと出来なかったんじゃ」
ドロル:「言ってなかったか、俺の"目覚め"は
バブル:「そんなの無茶苦茶じゃない!」
ドロル:「体内に隠力が溜まりすぎてるな。気持ち悪いからちょっと出すか」
先程よりも濃く圧縮された隠力を手の中に作り始める。
ゴゴゴゴゴゴゴ
リーフ:「これはマズイな、防ぎきれない。ヴォイド、起きたばかりで悪いけど力を貸してくれ」
ヴォイド「もちろんですです!」
ヴォイドの呪符をリーフに貼り、能力を向上させる。
リーフ:「まいったな、これでも無理そうだ」
そうは言いつつも多くの植物を出現させ防御態勢をとる。
ドロル:「いくぞーー、どーーん」
ドロルの体に詰まっていた隠力の玉はリーフの防御をどんどん抉っていく。抉れた部分から植物を再生させて、その玉を止めることに専念するが勢いが全く止まらない。
リーフ:「くっ、軌道を変えるしかない」
玉の真下から大きな根っこで突き上げ、上方向に飛ばす。
司令室の壁や天井が壊れる。
リーフ:「全員俺の近くに集まれ!!」
その声に本部の職員達もリーフの近くに走って近寄る。
全員集まったことを確認すると、何本もの蔦で自分たちを覆い大きな球体状になる。
そして、落下してくる瓦礫や崩れる床からその蔦は隊員たちを易々と守ってくれる。
アルバ:「ありがとうございます副隊長」
リーフ:「よかったみんな無事そうだね」
バブル:「あんなやつ倒せるの?」
ヴォイド:「強くなりすぎてるです」
全員がドロルの強さを前に戦意を喪失する。
リーフ:「けど今の攻撃、奴は吸収しすぎた余分な陰力を全てぶつけてきた。これでかなりパワーダウンしてるはずだ」
アルバ:「じゃあまだチャンスが!」
リーフ:「でも僕もさっきの攻撃防ぐのにほとんど陰力使っちゃってほぼ使い物にならないんだけどねハハハ」
バブル:「笑い事じゃないですよ!!!」
一瞬希望を見出した一同にまた重い空気が舞い戻る。
リーフ:「だからアルバに任せようと思う」
アルバ:「...えっ俺ですか?」
急に指名を受けたアルバは唖然とする。
ヴォイド:「あまりにも無謀ですです!」
バブル:「副隊長は隊長がアルバ達をこの戦いに連れてくるのすら否定的だったのに急にどうして?」
リーフ:「誰しも理不尽な壁に立ち向かう時が来る。そしてアルバの壁は今目の前にある。ただそれだけだよ」
アルバは師匠からの初めての特訓にしてはあまりに無茶すぎると思ったが、今の腑抜けた自分自身を変えるにはこれくらいハチャメチャな壁を超えなければいけないと同時に感じていた。
バブル:「なんか今の副隊長は隊長に似てますね」
リーフ:「ハハハ、やめてくれ。あいつほど放任する気は微塵も無いさ」
アルバ:「俺行ってきます!あの怪物に、いや俺自身に勝ってきます!」
リーフ:「何も一人で戦えとは言わない。僕とヴォイドも援護する」
蔓がゆっくり出口を作り始める。
向こうの方から瓦礫を払いのけてドロルがこちらに向かってくるのが見える。
覚悟を決めたはずだが、ドロルに業を叩き込もうとしたあの瞬間のことを思い出し体が震える。
リーフ:「入隊直後レイスと手合わせしただろ?あの時僕はレイスにコテンパンにやられると思ってたんだ」
明らかに今から勝ち目のほぼ無い相手と戦う人間に贈る言葉ではない。
アルバ:「え?」
ヴォイド:「急に何言ってるんですかです!」
リーフ:「ヴォイド、君だってそうだろ?あの試合を見ていた全員がそう思っていた」
ヴォイド:「そ、そうですけどです...」
リーフ:「けど最後のあの一撃を見た時、君への印象が180°変わったんだ。試合前にアテナさんがアルバに肩入れしてた意味が分かった気がした」
ドスンドスン
ドロル:「ウガァァァァァァ!!!」
もうそこまでドロルが迫っている。
リーフ:「アテナさんにゼラノス。あの二人がアルバ、君のことを認めたんだ。そして副隊長の僕も君のことを認めている」
ヴォイド:「ミーも認めてるよです!」
バブル:「私はその試合見てないけど、関係なしにとっくに認めてるわ」
リーフ:「だってさ、きっとライナスも君のことを認めているだろうね。自分に自信を持て。君は今からもっと強くなれる」
アルバ:「うっす!」
殺しは決して善ではない。
しかし、戦場では実力を伴わない信念は身を滅ぼす。
理屈だけでは守れない命がある。
そして、今仲間の命を守れるのは自分だけ。
入隊するまではこんな残酷な世界が広がっているとは想像できていなかった。"目覚め"が自分にはあるから、その力で世界を変えられると本気で考えて楽観的に日々を過ごしてきた。
改めて自分の実力や立ち位置を知り、世界を変える前に自分を変える必要があるとハッキリ理解し、今一度決意する。
いつか自分の力で全員の笑顔を照らし守れる日が来るまではこの信念と別れを告げると。
そして、リーフの言葉、みんなの想いを胸にアルバはドロルと相対する。
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