第25話 優先すべきもの

リーフ:「みんながこんなボロボロだなんて。それにその見た目...どうやら能力者で間違いなさそうだな」


ドロル:「お前みたいに正義感の強そうな奴を痛めつけられることが最大の喜びなんだ、喋ってないで早く来いよ」


広範囲に植物を生やしてアルバとヴォイドをバブルの元までゆっくり運ぶ。


リーフ:「どう責任を取ってもらおうかな」


大樹のような太さの蔓がドロルに襲いかかる。


ブチッブチッ


ドロルには小枝に見えるのか、いとも簡単に蔓をちぎってしまう。


ドロル:「お前も弱いなんてことないだろうな」


リーフ:「安心しろ。お前ごときに負けるつもりなんて微塵もない。それにもう決している。」


大樹のような蔓に気を取られていたドロルは足元に巻きついている弱々しい植物に気づいていなかった。


リーフ:「壹ノ業 天覆の巨木」


ドロルが足首の蔓をちぎってもちぎっても、何度も伸びては絡みつく。


リーフ:「チェックメイトだ」


ドロルの足首に巻きついていた蔓はあっという間に成長していき、足から胴体、腕、そして顔を覆っていく。


ドロル:「なんだこれは!ほどけ!こんなもの!こんな...」


ドロルに巻きついていた蔓はドロルを取り込んで天井を貫き、大きな大樹へと変貌した。

ドロルとの片がつくと全員の元に駆け寄る。


リーフ:「ごめん、遅くなった」


バブル:「副隊長ぉ、死ぬかと思ったぁ」


バブルは号泣しながらもレイスとヴォイドの治療を続ける。


リーフ:「2人の容態は?」


ズルルル、グスン


バブルは涙と鼻水を拭って報告する。


バブル:「2人とも命に別状はありません。けど、レイスは気を抜けない状態が続いてます」


リーフ:「僕が来るのが遅れたばかりに...」


次にリーフはアルバを確認し、心が不安定だということにすぐ気づく。


リーフ:「どうした?らしくないぞ」


アルバ:「お、俺のせいでレイスが...」


バブル:「アルバは人を殺すことを恐れたんです。それがあんな怪物でも」


大体の事情を察したリーフはアルバの前にどっしりと胡座あぐらをかいて座る。


リーフ:「ヤンチャな子だと思ってたけど、随分夢想家なんだね。この世界にはそういう子がもっと溢れて欲しいよ。殺しが許されていいわけないからね」


リーフはアルバの気持ちを汲み取り、アルバの描く世界を想像しつつ話す。


リーフ:「殺しは善じゃない。それは今も昔も変わらない。なら、捕まえるのが難しかったり、捕まえても人類に危害を加えるような人間が相手ならどうする?」


それを聞いてアルバの心は締め付けられる。

答えずともアルバ自身理解しているから。


リーフ:「んー、質問を変えようか。君がほんとに大切にしたいのは夢か?信念か?」


アルバは消えそうな声で答える。


アルバ:「...夢です」


リーフ:「だろうね。信念は夢を叶えるためのもの。決して夢より優先順位を上げてはいけない。じゃあ、どうすればいいか分かるかい?」


アルバ:「...信念を曲げる」


リーフ:「少し違うな。最初に言ったろ?僕も殺しは嫌いだ。だけど、殺さず世界を平和にするなんてよっぽどの力が無きゃ出来ない」


リーフが胡座をやめて立ち上がる。


リーフ:「最強になれ」


アルバ:「...え?今なんて?」


リーフ:「信念を押し通すには実力がいる。誰にも有無を言わせない実力がね。この世界で最強になって、殺さなくても相手を封じれる強さを持て」


アルバ:「けど今の俺には...」



リーフ:「あぁ、今は未熟だ。誰だって初めは雑魚だ!あのゼラノスだって"目覚め"が発現した時は僕より全然弱かった」


アルバ:「あの隊長が?」


リーフ:「今から這い上がれ。這い上がって信念を押し通す強さを手に入れれば、自然と夢も叶うさ。あっ、そういや夢を聞いてなかったね」


アルバ:「俺の夢は世界から無駄な争いを無くすこと。傷つく人を少しでも減らしたいです」


リーフ:「フッ、ハハハハ!やっぱりただのヤンチャ坊主じゃなかったんだね」


我慢しようとした笑いが勢いよく飛び出す。


アルバ:「ちょっと笑わないでくださいよ!てか、俺のどこがヤンチャ坊主なんすか!」


アルバは自分の夢があまりにも壮大で絵空事だと自分でも分かっていた。その夢が笑われても仕方ないと。しかし、リーフの笑いはアルバの夢を馬鹿にするものではないとすぐに分かった。


リーフ:「よーし、僕が君の面倒を見てやる。力の使い方から戦い方まで。僕も君の目指す世界には興味があるからね」


今まで独学で戦い方を身につけてきたアルバにとっては甘い密のような話だった。


アルバ:「ホントっすか?いいんすか?」


リーフ:「ただし条件がある。さっきも言ったように今の君は未熟だ。その程度の力で誰も殺させないなんて、頭の中がお花畑すぎる」


アルバ:「うっ...」


アルバの気力が回復したことを皮切りにリーフお得意のお説教が始まる。


リーフ:「だから、最強になるまではその考えは捨てろ。君には非情さが足りない。それは戦場では短所に過ぎない」


アルバ:「非常さが無いことが短所...」


リーフ:「殺さなければ救えない命がある。戦場はそういうところだ。それは君が今一番痛感してるはずだよ」


アルバ:「はい、俺の心が弱かったせいでレイスは...」


リーフ:「そうだなー、じゃあまずは醒帝でも目指すか」


アルバ:「そうっすね、、、ん?醒帝?」


リーフ:「うん醒帝」


アルバ:「...いやいきなりハードル高ぁぁぁ!!!」


リーフ:「君の夢の規模を考えれば足りないくらいだよ」


唯一隊の中でまともだと思っていたリーフ。普段の業務の多さで感覚がバグってしまったのではないかとアルバの冷や汗が止まらない。


アルバ:「でもいつかは通る道だったんで。俺が副隊長に争いのない世界を見せてあげますよ」


リーフ:「あぁ楽しみにしてるよ」


そのやり取りを見てバブルや本部の隊員たちは微笑む。


リーフ:「じゃあ、まずはみんなの回復がひと段落つき次第、残りの能力者を探そうか」


バブル:「ヴォイドはもう治療が終わります。レイスはまだかかりそうだけど」


リーフ:「よし、じゃあヴォイドが回復すれば敵の能力者探しにアルバと2人で向かうとし」


ドドドドドドッ


激しい揺れが司令室を襲う。


バブル:「何?地震?」


するとドロルを吸収したはずの木から嫌な気配がする。


リーフ:「おいおい勘弁してくれよ」


バキバキッ


ドロル:「グウォォォォ!!!!!」

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