第24話 揺らぐ信念
ドスドスドス
強烈な一撃を受けて朦朧としているアルバ達の方にドロルがゆっくりと近づく。
レイス:「アルバ大丈夫か?」
アルバ:「危なかったけどな、立てるか?」
レイス:「当たり前だ」
こんなものでは2人の目から光は消えない。
立ち上がりドシッと構える。
ドロル:「それくらいの方が苦痛を与えるのが楽しいグへへへへ」
ドロルは 興奮して、まるでアルバ達のことがステーキに見えているかのように口からヨダレが止まらない。
アルバ:「立ち上がったのはいいが、ヴォイド先輩のバフがあっても俺らの攻撃はあいつには通じないぞ」
レイス:「俺にひとつ考えがある」
レイスはアルバにコソコソと作戦を共有する。
レイス:「俺の影刃を奴の心臓の近くに突き刺す。お前が影刃に打撃を入れてやつの体に刃を押し込め!」
ドロル:「作戦なんて無駄なもの立てやがって。簡単に死ななければ何でもいいけど」
アルバ:「そんなことしたらアイツ死ぬぞ?」
レイス:「こんな状況で敵の心配か?あいつを殺す気でいかねぇと殺されるのは俺らだ。いいか?これは手合わせでもルールのある試合でもない。ルールが無い以上、これは殺し合いだ」
アルバが目指す夢は無駄な争いのない世界。即ち、無駄な争いで本来傷つく必要のない人達が、傷ついたり死んだりしない世界。
その夢を実現させる過程でも、アルバ自身誰かを殺すことは避けたいと考えていた。例えそれが夢を邪魔する相手であっても。
しかし、現状では敵を何としてでも止めなければこの部屋にいる全員が死ぬ。
アルバはかの有名なトロッコ問題に直面しているのである。敵と自分たち全員の生命どちらか選ばなければならない。だが、どちらも変わらず命。
多くの人はドロルの命を奪うことに即決するだろう。しかし、今まで貫いてきた信念を曲げてまで決断するアルバにとっては、頭を抱え苦しむ問題だった。この一時の決断で収まらず、今後の己を動かす指針に直結する問題だからである。
アルバ:「...分かった、やろう」
奥歯を噛み締めてしぶしぶレイスの作戦に乗る。
が、完全に気持ちが固まった訳ではなく、アルバの瞳はまだ揺らいでいる。
レイスはそれに気づいたが、レイス自身自分を変えることが如何に難しいことか知っていたため、容易に覚悟を決めろとは言いずらかった。
ドロル:「もう待てないぞ!!」
ドッドッドッドッ
ドロルが勢いよく走ってくる。
レイス:「やるぞ」
レイスが影に消える。
アルバは作戦通り、1人でドロルを待ち構える。
ドロルの猛攻がアルバを襲う。
ドロル:「なんだ?もう1人が逃げる間の時間稼ぎかよ、がっかりだな」
アルバは返答することも出来ないほど、ドロルの攻撃をいなすことで手一杯だ。
ドロル:「この程度の攻撃で会話もできないほど守りに集中するなんてな。タフなのは認めるけど、お前弱いな」
シュッ
レイス:「今は弱くてもいつかこいつは化けるぞ」
ドロルの影から現れたレイスはドロルの背中から正確に心臓付近に両手で影刃を突き刺す。
ドロル:「なんだ?逃げてなかったのか??」
アルバへの攻撃をやめて後ろを振り返り、レイスに拳を振るう。
アルバ:「壹ノ業 閃光の天撃」
入隊試験でレンとの試合時に見せたアルバの業を最大の力を込めて影刃に向かって撃ち込もうとする。
しかし、自分が人の命を奪う行為に脳が勝手にブレーキを作動させ、その威力は本来の3分の1程になる。
ドンッ
ドロル:「痛いな、チクッとしたぞ」
レイスへの攻撃を直前でやめ、アルバに裏拳を繰り出す。
レイス:「まずい、アルバ!!」
レイスは業を繰り出した直後で隙まみれのアルバの前に影を伝って移動し、ドロルの強烈な一撃を自身の体で受ける。
レイス:「ぐはぁっ!!」
アルバもドロルの攻撃を受けて飛んできたレイスに巻き込まれ後ろに飛ばされる。
アルバ:「わりぃレイス、直前で躊躇った」
レイスの返事がない。
アルバの視界に口から血を流して倒れているレイスが映る。
アルバ:「レイス?おい、笑えねぇぞ。起きろレイス!」
意識が無い。
それを見たバブルが走って駆け寄る。
バブル:「内臓がいくつかやられてる。かなりマズイ状態だわ。けどまだ生きてる。レイス!戻ってきなさい!!」
バブル:「壱ノ業 癒し弾ける水泡」
陰力を解放して緊急で治療を開始する。
自分のせいでレイスが死の淵を彷徨っている。
自分のせいでこの部屋の全員が今から同じ目に合う。
そう考えると途端に体が震えて止まらなくなった。
ドロル:「黒いやつは体が壊れちゃったし、光ってるやつは心が壊れちまった。どいつもこいつも弱いなぁ」
ドロルはアルバ達の方に近づいていく。
ヴォイド:「駄目だ、仲間には触れさせないです」
ヴォイドはドロルの前に飛び出して、ドロルの体に大量の呪符を貼り付け一斉に起爆する。
ドゴォーーン
しかし、ドロルが歩みを止める気配は全く無い。
ヴォイド:「急いで基地を出てきたから、普通の呪符しか持ってきてないです。他の呪符さえあれば...」
ドロル:「さっきから色々爆発させたり、あの虫けらに力貸してたのはお前か?」
ドロルは力も入れずにヴォイドに向かって拳を軽く振るう。
呪符で防御壁を展開するが、軽く振るった拳ですら尋常ではない威力。防御壁は簡単に崩されて無防備な体に拳がめり込み、ヴォイドもダウンする。
そしてドロルはヴォイドを通り越し、倒れているアルバをじっと見つめる。
ドロル:「脆いやつはつまらない」
膝をついて震えるアルバに向かって躊躇い無く拳を握って振り下ろす。
バブル:「アルバー!!」
ヒュルヒュル
ドロル:「なんだ??」
ドロルの振り下ろした腕に、植物の
リーフ:「ヴォイド、レイス...ギリギリ間に合ったって感じでも無さそうだね」
ドロル:「グへへへへお前は強そうだな」
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