第5話 少数精鋭

ドアの向こうから四種四様の人間がこっちを見ている。アルバは先輩という響きに心を震わせる。


ゼラノス:「雑よ...新人連れてきたわ、可愛がってやってくれ。ほら、お前も挨拶かましとけ」


また雑用って言いかけたなと心の中で思いつつも、アルバは1歩前に出た。


アルバ:「今日から緋縅隊でお世話になります!アルバって言います!お願いしますっ!!」


アルバの自己紹介を聞いたゼラノスがボソッと


ゼラノス:「お前の名前アルバって言うんだ。」


アルバ:「いや、今かいぃ!」


アルバは反射的にゼラノスにツッコむ。それを見たツンツン頭のチンピラみたいな奴が、アルバに素早く近づいてアルバの胸ぐらを掴む。


???:「てめぇ新人のくせに隊長にツッコミかましてんじゃねぇぇぇ!!!」


アルバ:(怖ぇぇぇ)


アルバを睨みつけるその眼はエッジナイフよりも鋭い。


ゼラノス:「音量下げろライナス、頭に響く」


ゼラノスがツンツン頭を制止する。


ゼラノス:「てか、お前らもう帰ってきてたんだな。フランだけまだ任務中か?」


ゼラノスの質問にスラッとしてスタイルのいい爽やかな男が答える。


???:「フランも帰ってきてる。今は疲れて部屋で寝てるよ。そんなことよりなぁ!」


爽やか男が急に顔を真っ赤にしてゼラノスに怒鳴りつける。


???:「お前試験途中で抜け出したらしいなぁ!本部からお怒りの電話が鳴りっぱなしなんだよ!どんだけ僕が謝ったと思ってる!!」


ゼラノス:「仕方ないだろ、アテナ姐がまた変な所まで吹っ飛んでたんだから」


それを聞くと怒りの矛先がアテナにも向く。


???:「アテナさん!あれだけ基地内でじっとしとくように言ったのにまた外に出てたんですか?いい加減学習してください!」


アテナ:「ご、ごめんなさい...」


アルバはこの隊で1番偉いのはアテナだと思っていたが、そのアテナを説教する存在が現れたことに口を開けてポカンとする。


ゼラノス:「悪かったよリーフ。それより今日は新人がいるんだ、明るく行こうぜ」


完全に今説教から逃げる為の理由に自分の存在が使われたとアルバでも感じ取れた。


ゼラノス:「せっかくだしお前の先輩達の紹介もしとくか」


そう言うとゼラノスは先輩隊員達の紹介を始めた。


ゼラノス:「さっきお前を睨みつけたこのチンピラみたいなやつはライナス・メタリア。昔、入隊試験で隊長の俺に喧嘩を売ってきてな。面白いから入隊させた」


ライナス:「俺あん時よりバカ強くなったんで、リベンジお願いします!」


ゼラノス:「気が乗ればな」


ライナスはアルバの事など忘れ、意気揚々とゼラノスに再戦を申し込む。


アルバ:「よ、よろしくお願いします」


アルバ: (初手でとんでもない人きたぁぁ)


早速この隊に入隊してほんとに良かったのかと心配になった。


ゼラノス:「次にフード被ってる怖そうなやつ」


紹介された人に目を向けると、大きめのコートを着てフードを深く被っている。なんならフードが深すぎて顔が見えていない。


ゼラノス:「名前はヴォイド・グレンジャー。言葉遣いは若干変だけど、こう見えて結構良いやつだ」


ヴォイド:「アルバ君、よろしくねです」


アルバ:「よろしくお願いします...」


アルバの顔が曇りだす。


アルバ: (やっぱり俺この隊でやってける自信ないな)


ゼラノス:「次に、さっきからプンプンしてるのはリーフ・オレアンダー。この隊1番の働き者で、いつも勝手に仕事してくれてる」


リーフ:「お前がやらない仕事がいつも僕のところに流れてきてるんだ!」


リーフはひとしきり怒ると、アルバのところに来て


リーフ:「リーフ・オレアンダーだ。一応ここの副隊長をしている。この隊は大変だと思うがよろしくね」


アルバに一筋の光がさす。


アルバ: (まともな人来たぁぁ!リーフさん俺あんたについていきます!)


ゼラノスはアルバが自分じゃなくリーフを見る目の方が輝いているのを察して邪魔をする。


ゼラノス:「あっでもな、こいつ1日に10L水飲むぞ」


普段なら驚くが、今日は驚くことが多すぎて感覚が麻痺し、それくらいじゃ変人だとは思わないようになっていた。


アルバ:「よろしくお願いします!!!」


分かりやすくゼラノスの機嫌が斜めになっていた。


コホンッ


ゼラノスがわざとらしく咳払いをし


ゼラノス:「最後にレイス・ノワール。こいつだけはお前と同じ16歳で今年入隊だ」


アルバ:「えっ、でも会場にはいなかったはず」


アルバの記憶の中に目の前の少年の姿は見覚えがなかった。それにあの会場から飛び出した時、ゼラノスはアルバしか連れて帰らなかった。


ゼラノス:「コイツは黎明調査のデータに載ってて、他の隊に取られそうだったからその前に取ってきた。こいつの名前見た時に、いつも感じる勘とは少し違う感覚が走ってな」


アルバ:「そんなチラシに載ってたセール品みたいに」


アルバはツッコみつつも失笑する。


アルバ:「黎明調査のデータに載ってたからって...ん?まさかこいつも"目覚め"を???」


それ聞いてゼラノスは


ゼラノス:「あぁそうだけど?俺の隊はアテナ姐を除いて全員"目覚め"持ちだ、その代わり人数は他の隊と比べて少ないが。少数精鋭って響きがカッコイイだろ」


同い年の能力者。その存在はアルバの心を躍らせた。そしてレイスの前まで進み


アルバ:「俺アルバ!よろしくな!」


勢いよく右手をつきだし握手を求める。

しかし、レイスは握手に応じようとしない。


レイス:「おまえの"目覚め"はなんだ?」


レイスが一言アルバに問いかける。


アルバ:「俺の"目覚め"の名前はねぇ、、、、えっと、、、」


アルバ:(俺の"目覚め"ってなんだ?そういえば把握してなかった。光るからライトとかか?)


必死に考えるアルバを見かねてゼラノスが答える。


ゼラノス:「こいつは訳あって黎明調査にデータが載ってない。知ってると思うが、"目覚め"の名称は黎明調査で把握した"目覚め"に国家が呼び名をつける。だから、こいつはまだ名称が無いんだよ」


それを聞くとレイスは


レイス:「分かりました。すみません、中庭でこいつとやり合う許可を頂いてもいいですか?」


アルバ:「しょ、勝負?!いきなり?」


アルバは驚き聞き返すが、ゼラノスは興味無さそうに


ゼラノス:「いいよ、その間に俺は風呂入ってくるから。悪ぃリーフ、死なないようにだけ見ててやってくれ」


当たり前のように雑務を押し付けられるリーフ。


リーフ:「仕方ない、2人とも中庭に行くぞ」


アテナ:「リーフ、ちょっといいか」


リーフ:「アテナさんか、なんです?」


アテナ:「この勝負のルールだが...」


コソコソコソコソ


アテナ:「じゃあそれで戦わせてみてくれ」


リーフはアテナの提案に同意し、2人を中庭に連れていく。


アテナ:「私は砂浴びしてくる。ライナスでもヴォイドでもどっちでもいいから、勝負の結果をまた教えてくれ」


ライナス:「アテナさん、結果は見えてますよ」


ライナスの言葉にアテナは笑う。


アテナ:「なんでもありの殴り合いならな。だから今回は少し縛りをつけた。チンチクリンの強さはまだ知らないがきっと面白いぞ」


そう言い残すと砂浴びのために颯爽と立ち去った。


ライナス:「だ、そうだヴォイド。どうなるかな」


ヴォイド:「アテナさんが褒めるなんて珍しいし、アルバ君楽しみだよです」


新入隊員同士の実力比べは一体どちらに風が吹くのだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る