第6話 腕試し
中庭に着いた3人、新人の実力を見ておこうと残りの2人も基地内から見ている。
アルバ:「なんで急に勝負なんか...」
アルバは未だに納得できていない。
レイス:「なんだ自信無いのか、ヘタレ」
レイスの分かりやすい挑発に普通の人間は乗るはずがないがアルバは単純故にすぐ乗ってしまう。
アルバ:「フンっ、自信しかねぇよ」
2人はある程度距離をとる。その間にリーフが立つ。
リーフ:「2人とも"目覚め"は解放してもいいが、
2人とも力を解放し"目覚め"を発動する。
アルバは試験会場で見せた光のグローブを身につける。
レイスは足元から黒い影が全方向に伸びる。
アルバは警戒しながらレイスをじっくり観察する。
レイス:「俺の"目覚め"が気になっているようだな」
レイスの言葉にアルバは深く構え、自分の考察を話す。
アルバ:「お前は影に関する"目覚め"で、お前の足元のその影を操ることができるとかか?」
レイスは感心する。
レイス:「やるな、ほぼ正解だ。俺の"目覚め"は
アルバ:「相手にそんな手の内明かしていいのかよ」
アルバは微笑を浮かべながら返す。
レイス:「手の内明かしてもまだハンデが足りないぐらいだろ」
アルバは頭に来てレイスに向かって突っ込む。
基地から見ているライナスが
ライナス:「あいつ挑発乗りすぎだろ。自分の強さに誇りがあるのは構わねぇが、単純すぎる」
ヴォイドはブカブカの袖を振りながら
ヴォイド:「ライナスも単純だよです」
ライナス:「挑発乗っても俺はバカ強ぇから問題ねぇんだよ! ...それよりこの勝負、ピカピカ野郎勝てると思うか?」
急なライナスの真面目な質問にヴォイドも真剣に答える。
ヴォイド:「レイス君が強いってのは置いといて、それ以前に相性が悪すぎるねです」
ライナス:「やっぱそうだよな、今回ばっかりはアテナさんの見立てが外れたな」
2人の予想通りアルバの攻撃はレイスには何一つ当たらない。
アルバ:「は?俺の拳は光速だぞ?この世に避けられるやつなんているはずねぇ」
当たらずともただひたすらに拳打を続ける。
レイス:「よく目開いて見やがれヘタレ、目の前にいるだろうが」
簡単な煽りに呼応してアルバの拳打は速度を上げる。
シュッシュンッシュッシュッ
どれだけ拳を突き出しても当たらず、空を切る音だけが聞こえる。
アルバ:「ハァハァ、、、お前も殴ってこいよ、ハァハァ、それとも避けるので精一杯か、お前の方がヘタレだな、ハァハァ」
息を切らしながらもアルバは力の限り煽り返す。
レイス:「言うじゃないか、その言葉に責任持てよ」
シュンッ
一瞬にして目の前からレイスが姿を消す。
アルバ:(さっき言ってた影から影の移動ってやつか)
だが以外にもアルバは冷静を保っている。
アルバ: (どこから来る...一体どこから...)
普段はどこか抜けているアルバだが、時折戦闘においては頭がキレる。
アルバ: (後ろか!)
右の拳に力を込めて上半身を捻り、渾身の裏拳を振り抜く。アルバの読み通りそのタイミングとポイントにレイスが現れる。
アルバ: (もらった!!)
勝ちを確信した次の瞬間、一瞬周囲が闇に包まれ、何故かレイスの拳がアルバの顎に入る。さっきまでレイスを横目に捉えていたはずのアルバの視界は、今は綺麗な夕焼け空を映している。
..........バタッ
リーフ:「そこまでっ!」
終わりを告げる声が聞こえる。
アルバ: (なんで俺は倒れてる。なんで空が見える。なんで。なんで。なんで。)
空だけを映していた視界の端からひょこっとリーフが顔を覗かして、そっと手を差し伸べる。
リーフ:「大丈夫?立てるかい?」
リーフの手をとり立ち上がる。
アルバ:「何が起きたか分からなかった。この勝負、俺は何も出来なかった」
いつの間にかライナスとヴォイドが基地から出てアルバの近くまで来ていた。
ライナス:「ただの生意気な雑魚だと思ったが、最後のはなかなか痺れたぜ」
ライナスの言葉がアルバを余計落ち込ませる。
アルバ:「決して油断してた訳じゃない。けど俺は一撃も当てることが出来なかったんです。なのに、あいつは最後まで本気を出してなかった...」
ヴォイド:「そんなこと無いと思うよです。」
ヴォイドに続けてリーフが微笑みながら
リーフ:「今回の勝負はアルバの勝ちだよ。だろ?レイス?」
レイスの方を見ると、腕を組み何故か悔しそうな顔をしていた。
レイス:「クソっ、最後に
アルバ:「えっ?」
レイス:「お前の一撃を避けるために反射的に業を使ったんだ!だから今回はお前の勝ちだってことだ!言わせんなっ」
最後の最後に追い詰められたことにレイスはかなり気が立っている。
レイス:「影の中の移動は地上を走るように、影の中も基本は自分が動いて移動する。だが、『壹ノ業 神出鬼没の影兵』範囲内なら一瞬で自分の居場所を移動させることが出来る。そしてその移動エネルギーを相手に叩き込む業だ」
アルバの渾身の一撃は光の速度でレイスを目掛け放たれていた。その刹那、レイスの自己防衛本能が強制的にこの業を発動させたのである。
アルバ:「これ勝ったの?」
勝ったと言われても全く実感が湧かず、大して喜べない勝ち方だ。
すると基地内から
ゼラノス:「おーーーい、腹減ったーーー今日の晩飯当番誰だーーー」
ゼラノスが風呂から上がり叫んでいる。
ライナス:「やっべ!今週俺が晩飯当番だった!!」
ライナスは青ざめた顔で基地に走って戻っていく。
ライナス:「たいちょー!さぁーせぇーーん!すぐバカ美味ぇ料理用意しますんでぇぇぇ」
リーフ:「僕らも戻ろうか」
リーフも基地に向かって歩き始める。その後ろをアルバたちもついていく。
レイス:「名前アルバだったっけ、勝ち逃げはさせないからな」
沸々と煮えたぎる負けず嫌いを抑え込むようにレイスは言った。
アルバ:「それはこっちのセリフだ!お前こそ勝った気でいるなよ!」
アルバはあれで勝ったことが余程癪だったのか、勝ちを認めない。
レイス:「は?バカか勝ったのはお前だろ!」
アルバ:「あれは完全にお前の勝ちだった、1発も殴れてないのに勝ちとかあるかよ!」
ギャーギャー!
リーフ:「あの二人なんだかんだで気が合いそうだね」
ヴォイド:「副隊長も混ざりたいんですかです?」
リーフ:「アハハ、書類業務が山積みじゃなければ混ざってたかもな」
アルバたちが基地に入ると、ゼラノスが笑いに来る。
ゼラノス:「ハハハッ、アルバお前ボロボロじゃねぇか!レイスに随分コテンパンにやられたのか!アハハッ」
リーフ:「勝ったのはアルバだよ」
リーフが勝敗をゼラノスに伝えると、キョトンとした顔で黙った。
アルバ:「副隊長!俺はまだ納得いってないですよ!だって...ウプッ...」
ゼラノスに嫌な予感がよぎる。
ゼラノス:「おまっ、まさか動き回ったからまた胃液上ってきたんじゃねぇだろうな!そうなる前に自分で調節しろよ!!」
ゼラノスの慌て様にその場の全員が察する。
レイスだけひっそり影に消える。
アルバ:「俺もう、ウプッ、む、無理かも」
ゼラノス:「リーフ!バケツだ!バケツを持ってこい!」
リーフ:「わっ、分かった!耐えろよアルバ君!」
ガチャッ
???:「もぉ、何ぃ?うるさいなぁ」
近くの部屋から水色の髪をした若い女性が出てきた。それを見た隊員たちは揃って顔面蒼白となった。
ヴォイド:「バッ、バブルちゃん!早く部屋に戻ってです!」
ヴォイドが必死に懇願する。
ゼラノス:「そ、そうだバブル!ヴォイドの言う通り部屋にいろ!まだ眠いだろ?な?な?」
バブル:「もぉ、隊長までなんなのぉ」
バブルと呼ばれるその女性は全く部屋に戻る気など無さそうだ。
バブル:「てか、その子誰?基地の中にいるってことは今年の新人?珍しいね、今年はレイスで終わりかと思った」
リーフ:「しまった、アルバとバブルに挟まれた」
リーフは既に諦め顔でその場にしゃがみこむ。
ゼラノスとヴォイドも自分たちの運命に従うように静かに抱き合った。
アルバ:「もう限界、、おぇぇぇぇ」
本日2回目もまた盛大に戻す。
バブル:「キャー、何この子?!なんで吐いて、おぇぇぇぇ」
何故か女性も吐く。なんならアルバ以上に吐いた。
想像もしたくないが、嘔吐する2人の間に挟まれた3人は見るも無惨な仕打ちだった。
ゼラノス:「ヴォイド、リーフ...さっき風呂沸かしたばっかだからいい湯加減だぜ...俺もう1回入りに行こうと思うんだけどお前らもどうだ?...」
リ.ヴ:「「ご一緒させていただきます」」
こうしてアルバの入隊初日は幕を下ろしたのだった........
「おーーし、バカ美味ぇ飯できたぞぉ!ってあれなんで誰もいねぇんだ??何だこの匂い?廊下からか?」
ガラガラガラ(扉を開ける音)
「ギャーーーーーーーァァァ!!!」
成人男性から発せられたとは思えないほどに大きな悲鳴は基地中に響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます