第6話 最期
以上のことを話し終え麻生は初めて鈴江の表情を見た。鈴江のさっきまでの殺気立った表情は少し落ち着き、複雑な表情をして俯いていた。でも鈴江はナイフを下ろそうとしなかった。鈴江はどんな気持ちなのだろう。鈴江のその気持ちに追い打ちをかけるように麻生は話を続けた。
「だから私はもう二度と貴女に会えないと思っていました。ですが家を出た時、壁に立てかけられていた傘を見て驚きました。地味な薄紫色の傘を見て鈴江さんのものかもしれないと期待しました。ですがあの話は何年も前の話です。同じ傘をまだ使っているとは思えませんでした。でも、勇気を出して声をかけたら、あの時とは少し変わった鈴江さんの姿があったから、私は自分の興奮を抑えられませんでした。」
少し鈴江の瞳が赤くなっている。今にも涙が零れそうだった。
「だから、、、、、私は、、、ずっと貴女に会いたかったのです、、、、。ずっと、ずっと、、、探してたんです。貴女のことを。」
床に雫が落ちた。勿論雫の主は鈴江だ。何も言わずにただ涙を流す鈴江を私は見つめていた。鈴江は手で涙を拭うとあの人懐っこい笑みを見せた。
「あはははは!殺そうとしていたやつに泣かされるなんて情けないわ。ちょっと麻生、、、ソウジのこと、思い出した気がする。」
彼女の笑みを見て私はホッとした。
「最初は鈴江を見つけて、貴女を殺して絵にしたいと思っていた。だけど今は違う。私は、、、君のことを殺したくない。絵よりもずっと、、、ずっとそのままの姿のほうがいい。それを最期に伝えたかった。勿論私のやっていたことは許されることではありません。殺してしまって構いません。」
私のその一言で彼女はふっと微笑む。
「そうね。私も貴女を生かそうとは思っていないから、殺しちゃうわね。じゃあ、最期に私から伝えたいこと言うわね。」
どうやら私に未来は無さそうだ。鈴江は一呼吸置いて口を開いた。
「貴女のことは許さないけど、貴女と過ごした日々は、、、、、楽しかっ___。」
鈴江のその一言とほぼ同時に室内に大きな爆発音のようなものが聞こえ、鈴江は壊れた人形のように崩れ落ち、頭からは派手に血飛沫が飛び散っていた。
音の出た方を見るとそこには知っている男が立っていた。手には拳銃が握られていた。麻生の顔は鋭く豹変した。
「貴様は___」
麻生のその声を聞き男は微笑んだ。
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