第7話 終末
あの話には続きがあった。
あの後、僕は家に帰ると両親に最近帰るのが遅いと叱られた。更に僕は美術の道へ進みたいというと母親は僕の頬を叩いた。「あんたは私の言うことだけ聞いて勉強していい学校は入ればそれでいいの。そうすればあんただって幸せになれるわよ。」と大きな声で怒鳴った。最後の一言に僕は頭にかちんと来た。「そんなこと僕はちっとも望んでなんか居ない。そんなんで幸せになれるかよ!」そう言い残して僕は最低限必要なものだけ持って家を飛び出した。母親の本性を知ってしまい僕は苦しかった。そして家に変える気はさらさらなかった。
勿論行く宛もないので近所の誰もいない公園で一人悲しい顔して座り込んでいた。すると僕に一人の男が話しかけてきた。
「どうしたんだい。そんなに悲しい顔して。」
そう言って男は僕の隣に座り込んだ。その男の声は優しい表情で僕に話しかけた。年齢も三十代程だった。
「家に帰りたくないんだ。」
「ご両親となにか問題が会ったのかい?」
「うん。勉強しろとしか言わないし、僕は絵を描きたいのに、、、、。」
「何故絵を描きたいんだい?」
「、、、好きだからです。あと最近出会った人の笑顔が忘れられなくて、、、その顔を忘れないように描き留めておきたいなって思って。」
「そうか。じゃあ私が君のご両親を殺してあげようか?」
男は声色、表情一つも変えずに、まるでお菓子がいるか聞くかのように唐突にそういった。
「え、、、、、?」
「君のご両親が居なくなればいいじゃないか?その後の君の未来と夢は私が保証する。でもそのかわり、君にお願いだ。君が言ってた、忘れられない笑顔を描き留めたい。だが、実際の人を用いて描いてみるのはどうだろう?私は絵が描き終わったあとの人の死体だけもらいたい。」
この人が何を言っているのか分からなかった。
実際の人を使って絵を描く、、、、?それは絵を描いていると言えるのだろうか?
だがこの男が言っていることは僕が得することが多い。ただ僕は好きに絵を描いて死体を渡せばいいだけだ。今の両親よりずっといい。
人生経験もなく、まだ命の重みを知らなかった僕だから言えたのだろう。
「いいよ。面白そう。取引成立だね。」
「えぇ。まさかいいと言ってくれるなんて驚きです。」
男はにっこり笑って僕の頭を撫でた。
「君の名前は?」
「麻生荘司です。」
「そっか。ソウジくんだね。あ、ちなみに私の名前は_______。」
「倉石幸治!!」
麻生は拳銃を握った幸治を見てそう叫んだ。
「君が鈴江に興味があるって言ったからわざわざ手間かけたのに、これなら屋敷で殺してしまったほうが早かったじゃないか。しかも殺そうとしてる奴に殺されそうになるなんて君には失望したよ。理沙子だって体調が悪いんだから人の肉をもっと食わせなきゃいけないんだ。わかるだろ?」
麻生は言葉に詰まる。反論することはできなかった。
麻生はいずれ鈴江に幸治の真実を話して一緒に逃げようとしていたが、まさか鈴江から動き出すとは思っていなかった。
「ま、君はいい仕事してくれたからね。君にはまだ働いてもらうよ。槇本の死体の処理は頼んだよ。」
そう言い捨てて幸治は部屋を出ていこうとした。アイツに反論してやりたいのに、恐ろしくて声が何もすることができなかった。そんな自分が情けない。鈴江だって私を突き詰めるのは怖かっただろう。でも鈴江はそれでも私を追い詰めた。
冷たくなった鈴江の遺体から血のついたナイフを取り上げた。
「鈴江よ、、、、許せ___。」
そう小さく呟き、玄関から出ようとしている幸治に後から距離を詰め、ナイフを背中に差し込んだ。幸治は低い声を漏らし、懐にしまおうとしていた拳銃を落とした。麻生はすぐに拳銃を奪い幸治の頭に突きつけた。
「、、、、、鈴江が持っていたナイフか、、、、、。だがこんなことをしてもいいのか?お前は学校に行けなくなり、画家の夢を叶えられなくなるぞ?」
夢、、、、か。画家を志したのは鈴江との約束がきっかけだったな。
「鈴江は、、、殺したいほど大嫌いな私との約束を破ったって、なんとも思いませんよ。」
そう言って幸治に向け拳銃を発砲した。返り血が服につき、赤い水玉模様ができてしまった。
鈴江が尊敬する幸治を、鈴江のナイフで殺すという行為に麻生は反省していた。自分も死んでしまおうかと考えた。だが、画家になるために沢山の人を殺してきたのに画家になれないなんて殺してしまった人に失礼だ。
鈴江の遺体を覗き込むと鈴江は笑った表情のまま倒れていた。
麻生は思った。鈴江をこのまま絵にしよう。死体が腐る前に早く。
幸治と取引を交わしたのは鈴江の人懐っこい笑みを絵にしたいからだったことを思い出したからだ。
しばらくして完成した絵は何度もやっているため失敗はなかった。最初は人の鼻の部分の皮を剥がすのに苦戦していたな。と昔の記憶が蘇ってくる。
この後自分はどうやって生きていけばいいのか何も考えていなかった。
「やっぱり、、、こんな奴は画家にはなれなれません、、、、。」
そう小声で呟いた麻生は、念の為取っておいた拳銃を自分の頭に突きつけた。
「ごめん。私があの取引をして居なければ、君をもっと幸せにできたでしょうに。」
そう言って麻生は引き金を引いた。
麻生の頭から吹き出た血は、美しい鈴江の笑顔を汚してしまった。
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