第14話
数日後、検査の結果異常もなく退院することが出来た。
本来ならもう少し入院するはずなのだが、俺の要望を聞き入れてくれたのだ。
病院から出ていくと、フラッシュがたきつけられ俺が端山治正と関わり合いがあるとの情報が洩れマスコミに群がりをみせる。
目の前にはマイクやボイスレコーダーの数々、またカメラを見せつけられるように俺を映す。
一度せき込むと、鞄の中から一冊の本を取り出し、カメラの前で表紙を見せた。
「確かに端山正治とのかかわりが気になるかもしれません。ですがそれよりも、これは俺が書いた小説です。絶賛発売中! 今すぐ近くの書店かネットショッピングにてお買い求め下さい」
明後日の方向にしか答えていないかに見えた。
しかし生放送だったからか、この宣伝がネットでは話題と取り上げられ一躍有名。
この宣伝効果のおかげで類を見ないほどの売り上げを達成。アニメ化、実写化と続き映画放映をされるようになる――――何て妄想をしていた。
目の前にマスコミは一人もいなかったんだけどね。
代わりに待っていたかのように千鶴が嬉しそうに俺の事を迎えに来ていた。
その近くには黒いセダンとどう見てもカタギじゃないスーツを着た男。
俺は千鶴に引っ張られながらも乗ると発進した。
富加実、端山治正の両名は俺よりもいち早く退院したらしく、現状また今後について会合所にて議員の御堂峰周良、元隠岐村の住人が話をしていると千鶴から聞いた。
車に乗る事数分、外を眺めていた千鶴が話しかけてくる。
「今年はやっぱり祭り中止なのかな」
「ああ、俺達がこんな状況に陥ったせいもあるからか」
「それもあるかもしれないけど、本当はもう祭りの準備をしているの。私の神社以外でも練習だけど太鼓を叩く音とかも聞こえるの……」
俺は外を見ると、祭りの開催時期を知らせる旗などが全く見ない。
太鼓の叩く音も聞こえない。
視線を千鶴に向けると寂しそうに外を眺めていた。
話題を変えないと。
「そういや期末テストだっけ? 大丈夫なのか?」
「うん、平気。本当ならテスト中にも探したかったんだけど、千奈が探すにしてもテストで赤点とったんじゃ補習でおじさんを探せなくなるからって云うからね。あたし地頭は良いの」
「マジかすげえな」
「おじさんは高校の時どうだったの?」
「あー、余裕だったさ。赤点ギリギリの」
「あはは、駄目じゃん」
そんなしょうもない会話をすることながら十数分、目的地に着いたのか車は止まる。
俺達は降りると、一軒家の建物があった。多分ここが会合所なのだろう。
ここに議員や端山さんもいる、つまりはマスコミの格好の餌である。近くにはマスコミの人達が山のように……いなかった。
「人だかりは居ないんだな」
「うん、密かに処理されたらしいよ。新聞にも載っていないって」
「あー……」
議員の力をフル活用させマスコミ各社に圧力かけたのか。
俺達は建物内に入ると議論をしているのか怒鳴り声で叫ぶ人の声が聞こえる。
襖をあると見知った顔が並んでいた。
富加実、端山治正、丹波文彦と丹波美代、御堂峰千奈とそして隠岐村の代表である住民であろう数名。
そんなメンツが、長机を正方形に囲み円卓会議を行っていた。
もちろん議題はお憑き様に関する事だろう。
「君が箕原啓くんだね。初めまして私は御堂峰千奈の親である御堂峰周良だ。写真では拝見していたが実際こうして会って話すのは初めてだね」
優しそうな表情を見せるが、御堂峰茂の身内となるとどう見てもあっち系としか思えない。
俺達は空いてる席に座る。
表情を硬くさせる俺に対して、御堂峰議員は察するように頭を下げた。
「本来なら私の身内から出た問題であるため、もっと正式な場にて謝罪ち及びお詫びをするはずなのだが、今は緊急の為このような形で許してほしい」
「知らない所で身内のしたこととはいえ、限度がいき過ぎたのは事実。それを知らぬ存ぜぬと云われても許そうとは思いませんでした。しかし今はとやかく云う時間はなさそうなので先に進みましょう。それで今は?」
「今後のお憑き様に対する対策と議論だ。一部の問題ではなく隠岐村全体の問題に発展した」
「全体に発展?」
文彦さんが説明し始めた。
「ある夜、私が寝ているとき夢の中でお憑き様らしき人物に警告なされた。勿論最初はそこまで疑う事もなく過ごしていたが、七月に入って数日後、お憑き様は夢の中で再度現れた。その際に、警告を無視したこと、そして過去に数度対象や今回の箕原啓に対して勝手に手を出した事、隠岐村に処罰を申すとのことだそうだ」
「処罰というと?」
「わからない。もしかしたら過去に行われた事以上の大惨事がおきるかもしれない。規模が規模であるがゆえに想像もしずらい」
「どうしてお憑き様は文彦さんに?」
「多分、隠岐村の神主と云う身分から故にだと思う。これに関しては周良議員にもお憑き様が来られたそうだが他は会っていない」
「御堂峰議員も?」
「私の場合は当主であった父が急死してからこちらにこした際に現れた。この事を私は丹波家当主である丹波文彦と相談し、事実だと確信へと変わり隠岐村の代表者に集まってもらった」
「皆さんにはご存知だったのですか?」
それぞれ視線を交差させ不安そうにしながらも頷いていた。
「箕原くんが来る前には私達から話した。もちろんお憑き様に関する情報全て。私達でどうにかできる問題は度を越しているので。箕原くんはかなり関わり合いをもっていたと伺っているときいたのだが、見解を聞いても良いかね?」
「そうですね。お憑き様である仮に杉田美穂として、見た目は普通の女性。多分これだけじゃ誰もそれがお憑き様だと気づかないでしょう。行動においては神出鬼没」
俺の言葉に一人の隠岐村住人達は云う。
「なら次いつ現れるのかわからないんじゃないのか?」
「どうするんだっ! このままじゃ我々全員祟りとして皆殺しにされるぞ!」
「わからないとはどういうことだ、お前が一番関わっているんじゃないのか!」
「そもそも、こんなよそ者にお憑き様はどうしてすぐ殺さなかったの。そうすれば私達平穏に暮らせられたのに」
「そ、そうだ。今からでも俺達でこのよそ者を追い出せば解決するんじゃ」
不安にかられ一人が叫ぶと他の人も同調するように罵倒し始める。
そんな中俺は住人達を冷ややかな目で見た。
「いや、どうするんだといわれても、俺にどうにかできるわけないだろ。それに俺を追い出したところで解決何てしないだろう。そもそもお前達隠岐村の人間でさえ散々対象者を助けず無視決め込んでたくせに、禍いが自分に降り注ぐとわかると騒ぎ立て助けてとかどんだけ自己中心的なんだよ。あっ……」
思わず本音を口に出していた。
火種になったのか俺に襲い掛かる者、それを止める者、泣き叫ぶ者、阿鼻叫喚が広がる。
「もうやめてっ! 今は喧嘩してないで、この状況をどうにかしないといけないでしょ!」
俺の隣に座っていた千鶴は立ち上がり、紅潮させ目に涙を浮かべながら叫んだ。
そして涙を拭きながらその場を出ていくと、後を追うように美代さんと千奈も出ていく。
千鶴の言葉に冷静になった全員冷静になり、皆落ち着くように自分の席に戻る。
「千鶴ちゃんの云う通りどうにかしないといけないのに苛立ってしまって」
「確かに今はこんな事をしているわけじゃないですね。えっと……」
「ああ、杉林だ」
「杉林さん。さっきはどうにかできないと伝えましたが、わかった事があるんです」
「なんだとっ!? それはいったいっ!」
「病院で考えていたんですが、教授が風習は残っていると云っていた。つまり風習とはお憑き様に捧げる者。隠岐村の人間が対象でそれ以外は対象外じゃないのかなと」
「どういうことだい?」
「病院もそうだけど、物品に関しては補充されるわけですよね。だったら必然と外の人間が最低でも隠岐村範囲内まで入るわけだ。七月という月に隠岐村の外に出ればお憑き様の呪いで死ぬ、とすれば必然とそういった人達も死ぬ可能性が高い。だけどニュースとか見ても死亡事故情報は全然でない」
教授はなるほどと云い頷いた。
「確かに。しかしそうなら隠岐村対象者外になるのが箕原くんも含まれるのはおかしいのでは?」
「先ほど、文彦さんが云っていた“過去複数度対象”、つまりは俺みたいな他所者移住者も対象にしていたのかもしれないと。御堂峰議員そこの所どうなんですか?」
全員が御堂峰周良へと目を向けた。
「確かに、父である御堂峰茂はその対象者も含めていたと聞く。事前に対象者になる物のポストにはには白紙の手紙が届いていたはずだ。ここにいる人達もみな周知の事実なはずだ」
俺は周囲を見渡すと、それぞれ目を泳がすようにこちらを見ていない。
内心ため息をつき呆れかえる。自白しているも同然であったからだ。
あの時拉致されても、誰も通報せず助けにも来ないはずだわな。
「届いてましたね。その後部屋を荒らされていましたし。確か端山さんの所にも」
「ええ、受け取ったのは両親なので対象となったと思います。ただ僕と兄は状況は違いますが……」
「その件も含み調べてみた所、端山正芳と端山春香夫妻は確かに対象として送っていたが、君のお兄さんである端山憲明は御堂峰家は一切関わりを持っていないそうだ」
「嘘だ。兄は送られてこなかったはずだ」
「当時対象としていたのは別の人間と決まり、端山憲明含む他数名は手を下していないと分かった」
「ならどうして兄と他の人達は本当に」
「ああ、多分君のお兄さんは対象となる人達と一緒に逃げて、運悪く巻き込まれてしまったのではないかと考えられる」
端山さんはそれでも何かを云いたそうにするが口を閉じ黙ってしまう。
実際事実かどうかなんてこの場にいる全員がわかんないのだから。
「もういいだろ。過ぎた事を気にしてもしょうがないだろ。時間もないのにそんな話を聞かされるこっちの身にもなれ。それよりも、これから先に我々の助かる道をどうするのかを考えよう」
隠岐村の住人の一人が云い始めると他の者も同意するように頷き始めた。
杉林だっけか、俺を追い出そうと云ったり俺を襲い掛かろうとした奴だな。
保身的だろうしどうせ我々じゃなく自分が助かる道って云えばいいのに。
「逆じゃねえの?」
「何がだ」
「端山さんは重要な事を云ってるのに、どうでもいいとか過ぎた事とかありえんだろ」
「こいつの過去の事なんて今関係あるかよ。それにどういうことか説明しろ」
「まずは巻き込まれたという点。確か七月中に“外へ”出れば祟りに遭うって事でよかったですよね。教授」
「ああ、確かにその通り。一応それが原因で端山くんの身内は亡くなったはずだから」
「つまりは本来隠岐村という範囲外へと出れば祟りが発動する。それがあくまで隠岐村内なら」
「祟りは起きないな」
「数日前に俺や教授、端山さんが送られた場所は?」
「……そうかっ! 確かにそれだとおかしいな。しかしどうして」
俺の問いかけに教授は理解した様子だが、御堂峰議員はわからず疑問を投げかける。
「箕原くん、富加さん私達に理解できるよう説明してもらってもいいかな?」
他の人達も同じような表情をしていた。
ああ、確かに説明不足だったな。そう思った俺は話始める。
「えっと、数日前まで俺達のいた場所は病院でした。駅近くの大きな病院と。なら、本来隠岐村の外に出ている俺達は祟りに遭ってもおかしくない状況なのにこうして生きてみんなの前にいる」
「なるほど、確かにそれだとおかしい」
「しかしこうなった状況としたら、村々の合併に告ぐ合併により横小見町となったおかげで範囲は広まったと考えていいかと」
俺の言葉に歓喜の声を上げる一同。
しかしそんな中、杉林はバツそうな表情で異を唱えた。
「それでもあくまで行ける範囲は広がっただろうけど、結局変わらないじゃねえかっ!」
「そうだな。だけど逆に考えれば対処法も広がったといえる。文彦さん、あそこの図書館にお憑き様に関する書物はあると聞きましたが」
「ああ、確かに貴重なのがいくつかあるので蔵の中に眠らせておくよりも、あの図書館に置いとくほうが良いと考えいくつかは贈呈した。その中にお憑き様の対処方法が載っている書物もあるかもしれん」
「わかりました。ならあとで行くとして、まずは祭りの準備をお願いします」
「祭り?」
誰しもが疑問の表情を向けるが俺は気にせず続けるように云う。
「近々祭りが開催されるのに、ここに来る道中一切そういったのを見なかったので」
「何悠長な事いってるんだ。祭りよりも先に対処法だろうがっ! 俺達の命がかかってるんだぞ。お前は分かってるのかよっ!」
ふざけてるわけじゃないんだけどな。
そう云いかけた矢先、教授が先に口を開く。
「いや、確かに箕原くんの云う通りかもしれない。お憑き様であろうが一応は神様。祭りの期間中は手を出してこないかもしれない。それだけ私達の命を先延ばしにするにはいい案だろう」
「だけどそれは憶測じゃねえのかよ」
「ああ、私も彼もあくまで憶測としか云えない。だが確実性じゃないとはいえ可能性はあり得るかもしれない。それを探してくれるのが彼だと私は信じるのさ。時間限られてる以上これでも異を唱えるのなら代案を用意してほしい」
反論する者もおらず、最もだと思ったのか誰もが口をつぐむ。
他に案もないらしく、祭りの開催日を例年通り二十五日と決めた。
今は七月九日、タイムリミットとして後十六日しかない。
丁度よく千鶴達が戻り話の流れを説明をすると納得するように、千鶴は俺と共に図書館へと行くことになった。
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お読みいただきありがとうございました。
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