第13話
意識が
ここはどこだろう。そう思いながら起きようとするが身体が重い。背中の感触から察するにベッドの上で寝ているようだ。周囲を見回す。
最初に目に映ったのは椅子に座り小説を読みふけっている千鶴の姿。
次にピッピッという一定のリズムの音が耳に入りそちらに目を向けると心電図が動いている。
腕を確認すると点滴が打たれいるのに気づく。
次第にここがどこかを理解した。
「病院?」
そう云った瞬間、千鶴は小説を閉じ俺のほうに視線を向けていた。
呆然と見つめていた千鶴の目は涙を浮かべはじめた。
「……おじさん? おじさん、おじさんっ! 良かった。本当に良かった。この三日間、目を覚まさないから……」
喜びのあまり力強く抱きしめる千鶴。
俺は千鶴の頭を撫でながら千鶴が落ち着くのを待った。
千鶴は俺から離れると、未だ涙ぐんでいる目をふき取りながら椅子に座った。
「三日か……。確か俺、拉致られたはずだよな。そのあとは…………。そうだっ! 皆、無事なのか?」
「うん、おじさんと同じ別の個室にいるよ。他の人はおじさんよりも早く目覚めたから平気。ただお医者さん曰く、食事もろくに取れていなかったせいで栄養失調になっていたとか」
「確かにあの時は水すら飲めてなかったし。あんな経験するとは思いもよらなかった。とりあえず皆無事だったんだ教授に端山さんに杉田さん」
「ッ! あ、そうだ。おじさんが起きた事皆に知らせないと、おじさんが一番ねぼすけだったし。それにお医者さんに知らせて健康面をチェックしてもらわないとね」
そう云いつつ、千鶴は少し慌てた様子で病室を出ていく。
そんな姿を見て俺はどうしたんだろと疑問に思った。
しばらくすると、病室内に医者と看護師が入ってくる。
一通り検査し終え、健康面には特に異常を見受けられないそうだ。
まだしばらくは入院検査して特に問題なければ退院との事。
医者と入れ替わりで教授や端山さん、千鶴が入ってくる。
俺が無事起きた事、二人が無事であったことを互いに喜び合った。
だがそこに一人だけいない事に気づくと、俺は三人に問う。
「ところで、杉田さんは?」
杉田という言葉で三人が三人とも言葉を詰まらせるように黙る。
先ほど千鶴が出ていく際に動揺したように何らかの反応を見せる。
俺は内心不安と焦りをみせた。
「無事なんですよね?」
「箕原くん落ち着いて聞いてほしい。まずは今回の事件と云うべきものなのかはわからないが
「半分? よくわからないですが……。解決と云うと、俺達が牢屋へ囚われてるのを見つけその証拠に逮捕って感じですか?」
「それだと良かったんだが、今回の主犯格である御堂峰茂とその補佐役は全員死亡したと聞いた」
突拍子もない事に混乱した。
何故どうして死んだんだ。
まさかバレるとわかって自殺?
「混乱するのは分かる。私達も最初聞かされた時はわけがわからなかった。御堂峰茂の息子である、
「あれ? 御堂峰周良ってどこかで聞いたような」
「国家議員の一人だ。今は御堂峰宅に戻って今回の調査を行っているそうだ」
「なんだかすごいことになってますね」
「ああ、議員の身内がこういう事を起こしているとわかればマスコミにおいては格好の餌。更にいうと、端山くんも関係しているのが大きいだろう。現に病院の外ではそういった関係者が耳にしたのかうろうろとしているそうだ」
「あー、なるほど」
納得した。
確かに国民的アイドルと国家議員、そこに関わる事件何て普通あり得ないからな。
テレビ視聴率でいえばうなぎ上り、視聴者の食いつきがすごそうだ。
「なら、とりあえずはその議員さんが去るまで時間置けば良さそうな気がしますね。それか、端山さんが別の病院に行くとか?」
「いや、それは現状無理そうだ」
「何故です?」
「先ほど半分と云ったが、その半分が今回の問題。つまりはお憑き様に関係すること」
「え? そもそもお憑き様というのは架空の存在では? 今回の事含め事件を起こしたのは御堂峰茂本人による自作自演だから終わったんじゃ」
「最初は私もそう考えていた。もちろん端山くんもだ。しかし、御堂峰議員の話や千鶴くんの持ってきた写真や話で、今回の件はまだ未解決であると思い始めた」
「議員の話?」
「御堂峰茂本人と四人の護衛がいたのは覚えているかね?」
「はい」
「あのうち三人の護衛とともに御堂峰茂本人は死亡したが、残りの一人は杉田くんを連れて行った者が帰ってきた際、狂言じみた話をしたそうだ。隠岐村の滅亡と云いながら突如もがき苦しみ死亡したらしい」
「滅亡……」
「それに御堂峰議員自体こちらに戻っているときにお憑き様が現れたという」
「よっぽど何かを伝えたいんですかね?」
「そこまでは分からないが、お憑き様がある人物じゃないかと。千鶴くん、あれを箕原くんに」
千鶴は何枚かの写真を取り出すと、俺に見せてきた。
古いモノクロ写真。写っていたのは昔ながらの和服姿の女性陣達。
その中に一人見覚えがある人物がそこにいた。髪型は違うが顔の形などはそっくり。
別の写真を確認するように見ると、こちらも髪型は違うが同一人物だと思われる人物が写りこんでいる。
次にカラーではあるがこれも古い写真。時代は大分立っている様子だが、そこに写りこんでいるのも他と同じ人物。
確認するように教授を見ると考えなのか同意するように頷いた。
「そう、君が考えている通りそこにいるのは杉田美穂と思われる人物だ」
「まさか、他人の空似という線もあるんじゃ?」
教授は拒否するように首を横に振った。
続けるように千鶴は云う。
「おじさん、あたしと千奈はね。おじさん達が行方をくらましてから探したの。おじさんの家、富加教授の所。色んな場所や人に尋ねて。だけど見つからなくて、念のために町の役場に行って杉田さんがいるかどうかも聞いたの。そしたら、杉田美穂という人物は在職していない。千奈に頼んで上のお偉いさんにも聞いて調べてもらったの。だけどいた形跡すらない、そもそも戸籍もないって。不安になったあたし達は一度家に帰りなにかないか調べてみたら、その写真が出てきたの」
「その写真を見て私の考えではあるが、当時から時代を見てきた彼女は一人の人間として降り立ち群衆に溶け込んだと考えている。名前などは知らないが時代に合う風貌や名前を付け私達を監視するように見ていたかもしれない」
「ならどうして彼女は俺達と共に」
「わからない。だがこれだけは云えると思う。まだ横小見町、いや隠岐村の風習は残っていると」
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