第15話
「おじさん、見つかった?」
「いや、てか数多すぎだろ」
俺と千鶴は図書館で文彦さんが提供したと思われるお憑き様に関する資料を探していた。
事前に御堂峰議員が話を通していたおかげか、提供された資料が机の上に山積みのように置かれていた。
お憑き様以外にも隠岐村内で起きた奇怪な事件に関する資料が数多く、それがお憑き様と関連性があるかは不明だ。
目的物を探そうと奮闘していると、見つけたと千鶴が声を上げた。
「これか」
「う、うん……。これも中がボロボロだけど一応読めるかな。これによれば、地に降臨せし
「見破り対策は不可能か。道理で杉田美穂という人物で見たら確かに当てはまるな。特に事情を知らなければお憑き様だってことも分からないはずだし。それにどうして対象を選んだのかもまだ謎だし」
「おじさん、この続きに書いてあるよ。幾年、災い贄にて回避せしとき、祭事にて決行す。後日御堂峰、丹波両家にて明年、贄を選ぶ……え?」
千鶴は不安そうな表情で俺の服をつまんだ。
「おじさん違うの、あたし知らない。こんなこと聞いてもいないし選んでもいない。本当、本当に信じて……」
「大丈夫。こんなことを望んでもいないのは知ってるから。だから不安そうな顔すんなって。これはあくまでその当時の御堂峰と丹波家の人間が行った事、なっ?」
俺にそう云われて安心したのか千鶴の顔はほころび笑顔になる。
そう、こんな顔をする千鶴はするわけがない、俺はそう信じている。
ただ文彦さんや御堂峰議員は知っているかってことだが……。
この資料を贈った時点で読んではいるだろうし、知ってるんだろうけど。
ただ、どうしてこれを話してくれなかったのか。
「おじさん、これ」
考え事をしている間、千鶴は調べてくれてたようだ。
「歳月経て強呪を増し、贄少なければ災い広め。村々を死滅さす。贄叶わずとき、呪印石にて決行す」
「呪印石?」
「あたしのうちにもあったよ。一度見たことあるけど、変哲もないないただの石」
「名前から察するに、その石にお憑き様を封印するって感じか」
「あくまで呪いを請け負うらしい。ほらここにも書いてあるよ」
「呪印石にて成功せしとき、災厄は回避す。されど憑神は健在。憑神を封印する事、それは……ここで虫食いかよ」
ページを進むにつれ、ボロボロであったページは更にボロボロに。
これ以上先は読めず諦めるしかなかった。
まるでこれ以上踏み込んではいけないかのように思えた。
「せっかく見つけたヒントがここまでとは」
「おじさんどうしよう」
「この石も気になるし、一つとしかない貴重品とはいえ対策として役立つかもしれない」
「家に戻ったらお父さんに頼んで見せてもらえるように云ってみるよ」
「よし、一度文彦さんの所へ戻るか。聞かないといけない事が多い……の前に」
俺はスマホを取り出し、お憑き様関連のページを一通り写メを撮り終えた。
資料を近くにいた司書に戻してもらうよう云うと、俺達は丹波家へと向かう。
客間に通されると端山さんと教授が文彦さんと話をしていた。
どうやら俺達が調べ物をしている間、教授と端山さんも文彦さんとともに今回の件を話し合っていたようだ。
俺達が図書館で調べたお憑き様に関する資料を文彦さんに問い詰めると、文彦さんは目を閉じ、溜め息を吐き自白するように話し始めた。
「結果から云うと、私も元御堂峰家当主の御堂峰茂も君達が調べた事は知っていた」
「それ以外の人達は?」
「知らないし聞かされていない。毎年の生贄に関して決めていたのは当主の御堂峰茂であって、私すら知らされていない。ただ知る事はできた」
「今年の対象者では俺だったのですが、それも知っていたと?」
「ああ、何かしらのアクションを起こすとわかれば、それが対象者だとこの村の者みんな気づいただろう。否かであるが故に噂は即座に広まる。若い子達、移住者は知らないだろうが、隠岐村の住人の大人はみなそれが何かを知っている。ただ巻き添えをくらわず関わり合いが無いよう傍観をしていただけだ」
「ならこのままこの事実を知らされず、俺がこの七月を過ぎお憑き様に殺されでもしたら?」
「安心しただろうな。もちろん他の住民でさえ私と同じ気持ちだろう。ただ今年はそうもいかない、私の身内含め、隠岐村全員の命に係わる問題だから」
「身勝手ですね」
「ああ、君にどれだけ責められても仕方がないと思っている。だがこれだけは云いたい、私はどうなってもいい、家族を助けてくれ頼むっ!」
頭を下げ、誠意をこめているつもりなのだろうが、俺自身どうでもいいように感じていた。
隣に座っていた千鶴はそんなことはなく怒りに震え、手を強く握りしめていた。
俺は千鶴の手を握り冷静になるよう促す。落ち着いたのか、俺がこんな状態だからか、自分が怒っても仕方がないと判断したのだろう。
千鶴は俺の手を握り返し、文彦さんを黙って見つめる。
多分、今千鶴が父親を見る目は軽蔑の眼差しなのだろうな。
「箕原くん千鶴くん、擁護するんじゃないが一人の親としての意見なのだが。確かに勝手かもしれない、が。私も同じ立場としてなら賛同していたと思う」
教授の云ってる言葉、文彦さん、千鶴の二人の気持ちはわかる。
だけど今はこんな事をしている暇はない。
「文彦さん、顔を上げてください。そして対処方法を教えてください」
「……ああ、君達が知った災厄を回避する呪印石は宝庫に一つだけある。それで最悪の事態は一時的には避ける事は出来るだろう」
「もっと複数ないんですか? あればあるだけどうにかできる気がするんですが」
「呪印石の生成方法を記された書物は昔、泥棒に盗まれたと聞いた。同じのを作ろうと思っても不可能」
「使うにしても失敗の許されない状況ってことか……。でもよくよく考えれば災厄を回避できるだけであってお憑き様は健在ですよね。仮にそのまま放っておいても呪いは強力になって村を襲ってしまうし。今回でも呪印石を使っても来年にはまた同じことを繰り返してしまう」
「つまりは、お憑き様自体をどうにかしないといけないと?」
「端山さんの云う通り。というよりもお憑き様である杉田美穂が現れた以上二択しか選択できないかと。今回回避して来年までにこの事実を知った全員、横小見町から脱出する」
不安そうな表情をしながら、千鶴は俺に問いかける。
「知った人達ならまだいいけど、知らない人達は?」
「見捨てる」
「そんな……。それじゃあ、それじゃあ一緒じゃない……っ!」
千鶴は俺の手を強く握りしめ顔を俯かせ暗い表情を作る。
「千鶴ちゃん落ちついて、あくまで選択の一つさ。だろ?」
「ああ、端山さんの云った通り。これは最終的な選択であってもう一つ。それはお憑き様を封印する」
「封印?」
「そもそも、毎年災厄は回避できても生贄は必須。更にあの本に書いていたけど、贄が少なければ災厄は強力になる。今頃隠岐村という存在そのものは滅びてもおかしくないはず。なら、とれる選択として封印させて村の存続を計った」
「そして何らかによって封印が解かれたお憑き様は再び地上に舞い戻った」と、続けるように教授は云った。
文彦さんは「もしかしたら」と云い立ち上がると無言で出て行った。
俺はまだいいが、教授と端山さん、二人は仕事差し支えているんじゃないか?
気になり俺は二人に聞いてみた。
「そういえば、教授は大学の講義いいんですか? それに端山さんも仕事が」
「ああ、というよりも君も知っている通りあの大学は横小見町外にあるから下手に向かう事は出来ない。だが連絡をした所、休講として御堂峰議員が手を回してくれたようだ」
「僕もあの人が事務所に連絡をしたらしく。入院中に事務所から連絡がきて、埋まってた仕事はキャンセルされてしばらく休みを貰えたよ。働きづめというのもあるがある意味息抜きにはなるね。今回無事解決したら大仕事が舞い込んでくるといわれたから張り切っていたよ」
流石は議員、てかどんだけ影響力はあるんだよ。
俺も頼めばそういうコネを作れるかもしれないか……、考えてみよう。
しばらくして文彦さんが戻ってくると、手に一冊の本を持ちテーブルの上にひろげて見せた。
「これは?」
「前に見せた本の内容の続きだ。あの時はここまで見せる必要性がないと思っていたのでな」
「確か前に見せてもらったときは災厄に見舞われた年に、お憑き様を祭る儀式が行われたとかでしたっけ?」
「そうだ。先ほど、封印は解かれお憑き様は舞い戻ると聞いて、どこかで見た事がある気がして思い出したのでな。ここを見てほしい」
本に書かれていた内容は、憑神降臨せしとき近人を剥ぎ転生する。しかし好機也。滅すれば平穏可能。
「以前にお憑き様が降臨した際に、隠岐村の住人がお憑き様に憑りつかれたんじゃないかと。憑りつかれた人を殺せばお憑き様は現れなくなると」
と通訳するように文彦さんは云った。
同時に端山さんはテーブルを叩きつけ怒鳴った。
「冗談じゃない。なら次憑りつかれた人は殺されなきゃならないかっ! 僕の家族のように!」
「落ち着きさない端山くん。確かにきみの身内は犠牲になった。そこは代えられない事実、だがこれはあくまで対策の一つ。続きを読もうじゃないか」
続きを読むように俺達は本に目を移す。
暫しの平穏されど、長くは続かず憑神、
「お憑き様は消えたかに思えたけど、再び降臨して村人を脅かす。その際に死者多数。各方面の神主を集めて、お憑き様の力を分断させ弱った所、憑いた人ごとお憑き様を焼き殺したと。しかし、杉田美穂となる人物がお憑き様であるならばこれも有効ではないか」
けどそれだと次もまた現れて無駄にが出るか……って、この本の内容微妙に違ってないか?
疑問に思ったのか千鶴も同じことを云った。
「おじさん、これだとあの図書館で見た本と少し違ってるね」
「ああ、向こうのはここまで詳しくは載っていなかったな。それにこの神雷ってのもなんなのか。多分これがお憑き様の登場した合図だろうし」
「それは大災害のあった日じゃないかと」
「大災害?」俺がそう聞くと文彦さんはページを捲る。
前に俺と千鶴が見たお憑き様とその周りに信仰している人達イラスト。
「この町では過去に何度かあったとのこと。私のご先祖様に起きた際は落雷は激しく。火災で家は焼け、川は氾濫を起こしたとか。ここ一番最近だとしても、私が生まれる数年前にも起きたらしい。ここに載っているのも実際に降臨したらしいが」
「ということはその場所に何かあるのかな?」
「わからないが、もしかしたら隠岐村に住んでいる老人達なら何か知っているかもしれんな。だけど、誰が隠岐村出身かまでは……」
万事休すか。
田舎だし、合併してから村人も増えたし完全な隠岐村人は……。
思い出すように俺は声を出した。
「あそこなら集まってるかな」
皆の視線が俺に向く。
「おじさん、あそこってどこ?」
「病院だよ」
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