第4話
次の日、俺は再び中央図書館の保管庫に居た。
昨日、千鶴が隠していたのが気になっていたからだ。
十年前の新聞を手に取り表紙を見た。
昨日と変わらない記事。
ページをめくり、千鶴が見ていた場所へと目を移すと横小見町の単語と写真が目に入る。
「えっと、この町に関する記事か?」
記事の見出しには“全国の神主さんの働き”と書かれていた。
シリーズ化されているからか、第13回とある。
見出しの近くには小さくも写真が載せられていた。
写真にはあどけない巫女姿の少女と親と思われる神主の姿が並んで何かをお祓いをしている様子だ。
周囲には客と思わしき人達が並び見守っている。
「まさか、この小さい女の子が千鶴か?」
全国紙に晒されて丁度その記事に自分の姿を見つけ恥ずかしかったのだろう。
「まあ何にしろ、知り合いに見られたくないのはわかるが」
幼い巫女の少女か……。小説の良いネタになるかもな。
俺は手帳に書き留め、写真部分をスマホで撮る。
他に何か記事になるのは……。
「だめか……」
あれから、しばらく探してみたが、一向に参考になる資料が見つからず諦める事に。
他に調べてみたが参考にできるような資料さえ出てこない……。
運が悪いのか、諦めるしかない。
「そういえば、伝承物調べてなかったな」
俺は思い出すように保管庫を後にした。
三階の伝承が置いている場所へと着くと、棚一面には本がずらりと並んでいた。
「伝承だけでも多いな」
民謡、神話、怪奇、妖怪、風習、言語、土地、中には折り紙なども混ぜられていた。
俺は棚から目を引く一冊の本が気になり手に取る。
「えっと、“土地神と呪いの相関性”?」
本を開き内容を読み始める。
地球が誕生し幾千年の間、八百万の神が地上に降臨する。
そのうち一つの神に“お憑き様”となるものが現れた。
文字通り憑くものであるからして、その土地や人々に繁栄をもたらせるともいわれている。
離れれば繁栄は失わてしまう、とどのつまり座敷童のようなもの。
多くの神々は土地神として迎え入れるため、現代の神社や地蔵などを象徴とし
お憑き様も同様に何かしらの
繁栄を継続させるにはその土地の人間の“
“益”とは人の欲そのもの。
人々は模索し、使用していた器具、家畜や作物などの食料を収めるが、どれも効果はないと愕然としたもよう。そんなある時、ふいに解決へと到達した。
人間の生贄を用意する事でその一年の繁栄は約束されたといわれている。
益を収める事が出来ない年は作物は育たず、人災に見舞わうので、毎年のように必ず生贄を出すようになった。
だがある年を境に、生贄は廃止された。
その土地の人々は怯えたが、神主の神力により災厄は祓われ、効力を発揮。平穏は訪れたといわれる。
だが近年になり災厄は復活し、まさに呪いとなりその土地に住まう者を何らかしらの災害へと襲う呪いとして続いている。
「災厄に呪いねえ。どこかで聞いたことある話だなこれ。著者は
パラパラとページを
何か関係あるのだろうか?
メモにでも書いとく必要があるかも。
俺は手帳を広げ記録する。
「どうしたんですか?」
「うお!?」
いつの間に近くに現れた杉田美穂に驚く。
思わず本を閉じ、慌てて棚に直してしまった。
周囲の読書をしていた人達からは睨みを利かすように俺達を見つめた。
俺は頭をぺこぺこさせ申し訳なさそうにした。
杉田さんも申し訳なさそうに俺に合わせて頭を下げた。
「すいません。驚かせるつもりはなかったんです」
「いえいえ、あまりに集中しすぎてたので。それにしてもこんな場所で奇遇ですね。今はまだ役場での仕事じゃ?」
「仕事で資料が必要になりまして、ここに取りに来たんですよ」
「ああ、なるほど。確か杉田さんの働いてる役場って確かここら辺じゃないですよね? それにわざわざこっちほうに資料を?」
「ええ。この図書館じゃないと手に入らない資料らしくて」
「へえ、そんな貴重な資料がこの図書館に保管されてるんですね。でしたら一緒に探しましょうか?」
「いえいえ、お手を
先の事もあるし、流石に遠慮してるのかな。
そう考えていると、受付にいた図書管の従業員らしき人が俺達に近寄っててきた。
「お客様、申し訳ありませんがここは図書館なのでお静かにお願い致します」
こうも騒いでたら確かにうるさいわな。
杉田さんは俺の裾を引っ張ると耳打ちした。
「箕原さん、一度外へ行きましょうか。ここだと他のお客さんに迷惑かけちゃいますし」
もちろん同意するように俺達は一度図書館の外へと出た。
先日とは違い、暑さは和らいでいるのか少し涼しいぐらいだ。
近くのベンチに腰を掛ける。
木の日陰からか、風が通り気持ちが良い。
吹き抜ける風に杉田美穂の髪はなびく。
「気持ちが良いですねここ……。箕原さん?」
髪の毛を直す仕草に、思わず見惚れてしまった。
話を変えないと。
「あ、そうだ。先日は千鶴がご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」
「いえいえ、けど私嫌われちゃったんですかね。丹波さん睨まれるような事をしちゃったみたいで」
「そんな事はないですよ。たまたま機嫌が悪い事あったんでしょ。杉田さんのせいじゃないですよ」
「だと良いんですが……」
かなり気にしてる様子だ。
他に話題変えないと。
「そういえば、明日の喫茶店の件で。時間とか決めてませんでしたよね」
「そういえばそうですね。でしたら十時に駅前の広間でどうでしょうか?」
「良いですね。その時間なら混んでいる事もなさそうですしね。もし遅れそうになったりした場合あれですし、携帯の連絡先を交換しませんか?」
よし、自然な流れで言えたぞ。
だが、杉田さんは困った表情をし頭を下げた。
「ごめんなさい」
え?
もしかして避けられてる?
困惑した表情の俺を、杉田さんは慌てて訂正するように云う。
「あ、いえ勘違いさせてしまったならごめんなさい。避けているわけじゃなく。私、機械類がどうも苦手で、仕事以外の時は普段あんまり携帯持ち歩かないので……。今でも持ち歩いている事はないんですよ」
「あーなるほど。そうですか。それなら仕方がないですね」
珍しいなと思いつつも、稀にいるのだろうと考えてしまう。
そんなとき、予鈴かチャイムの音がスピーカーから流れる。
「チャイム?」
「あ、もうお昼のようですね」
腕時計を見ると、確かに針は丁度真上を指し昼になっていた。
「あ、そうだ。もしよろしければ」
その時、スマホのバイブレーションが鳴り始めた。
確認すると丹波千鶴と表示されていた。
「あ、私は平気なのでどうぞ」
俺はスマホの画面をスライドさせ耳に当てた。
「もしもし、どうした?」
「おじさん。今どこにいるの?」
「今は中央図書館の近くにあるベンチにいるけど」
「ならすぐ行くね」
「行くって、授業はまだあるだろ」
「んー、よくわかんないんだけど。なんか急に午後からは授業がなくなったらしくて学校が休みになった」
「マジかよ」
「マジマジ大マジ」
「てか、普通休校になったのなら友達とはしゃいで遊びに行くもんじゃないのか?」
「うーん。確かにそうなんだけど、ほらおじさん。昨日途中で調べ物終わったじゃない? だったら今日は長い時間一緒にいれると思って……」
「悪い、途中から小声になって聞き取りにくかったが何ていったんだ?」
「何でもない! とにかくおじさん中央図書館の近くね。今から行くから」
切れた……。
なんだったんだか。
「あー、今からあいつ来るっぽいので」
「そうですね。でしたら私は行きますね」
「え、あ、大丈夫だと思いますよ? 来るって云っても」
「もう、せっかく女性が箕原さんを誘ってるんですから、無駄にしちゃだめですよ」
……え?
どうして俺怒られたんだ?
どうして杉田さん俺を注意したんだ?
俺また何か間違った事したか?
立ち上がった杉田美穂はそのまま行ってしまう。
「俺まずい事したか?」
一人取り残された俺は思わず自問自答をした。
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