第3話

 バスを降りると町の中央に着く。

 周囲の田んぼだらけの所とは違い、栄えているのか店並びが多い。と云ってもやはり都会と比べると見栄えは落ちる。

 駅はもちろんの事、市役所、消防署、警察署、公民館、図書館、病院と各所の施設が隣接をなして揃っていた。

 元々は各村々に公共施設などは一応あったのだが、合併する際に遠くだと動きにくく、連絡手段の都合上近くに隣接することになったとか。

 もちろん、合併する前の各公共施設は今も生きている。

 図書館の中に入ると、建物の各階層の案内図を見る。

 一階には子供を遊ばせる広場と絵本がメイン。二階には小説類の数々。三階には専門書や伝承の類などが表示されていた。

 目的の物が見つからない。

 気になるのか「何探してるの?」そう俺の顔を覗き見るように千鶴が云った。


「過去の新聞を探しているんだが、この案内板には載ってないんだよ」

「呪いや災厄関係の記録じゃなく先に新聞?」

「ああ、まずは呪いが仮にあったとして、人が死んだのなら、当時の事件か何かを新聞が一番分かりやすくまとめられてるだろうし。発行してる新聞なら小説の参考にできるならって」

「なら受け付けの人に聞いてみたらどう?」


 ああ、そうか。

 そう思いながら受付に向かうと係の人に話した。

 あちらの扉のほうへ。そう云われたほうへと向かうと扉があった。

 開けると古びた本の匂いに鼻腔びこうをくすぐる。

 千鶴はむせかえったのか何度か咳をした。


「ここ、なんだかかび臭いね」

「ああ、本の保管庫だし本の整理はするが掃除は行き届いていないんだろう」


 カビっぽい匂いはするが、本にカビが生えないよう空調管理をしているのか、ほんのり冷える程度の温度。

 保管庫の中にも案内図が壁に設置されていた。

 〇〇1~科学~。などの文字数字が記載され、棚を確認すると同じ文字が張り付けていた。

 新聞の類は一番奥か。

 到着すると棚の中には各種類の新聞の山々が重なるように置かれていた。

 その上にその年に発行していた年号が表示され、一番最新であろう新聞から手に取る。

 見出しは“山崩れ。救助遅れる”。

 山崩れによって巻き込まれた数名は死亡。移動手段が断たれたという内容であった。

 全国紙にも載っている大きいニュースだからか、他の新聞も手に取れば似たようなニュース記事が見出しを飾る。

 その前の年号を手に取れば次は“高速道路でバスの正面衝突。玉突き事故で死者多数”。

 これまた不吉なニュース記事であった。

 その次は芸能人の結婚報道にサッカー日本代表勝利などの祝い事のニュースが続いた。

 その後内容も一通り中身まで見渡すが、収穫という収穫は得そうになかった。


「どうも目ぼしい記録は残せそうにないな」


 次に手に取ってみた新聞は色が黄ばんでいた。日付を見てみると今から十年前の記事のようだ。

 そして目を疑うような記事が飛び込む。

 “山中に腐乱死体。身元不明者ともに多数”。

 遺体は十数ともに及び、中には熊などに食い破られ識別できないとのこと。

 その中で一部だけ損傷した遺体が三名いたらしく、その人達の人名は記載されていた。


「なんだか怖いね」

「そうだな。これによれば、死亡時刻は推定三時間前とあるが、他殺の可能性が高いと書いてあるな」

「殺されたって事?」

「そうかもね。まあ殺す側は何か恨み言でもあったんだろう」そうそっけなく云った。


 ふーんと千鶴が云うと、俺から新聞を奪い取り記事の内容を見始めた。

 全く勝手だと思い、ため息をつく。

 他の新聞を見ようと手に取ると、千鶴は「あっ」と声を口に出す。

 俺は何事かと思い千鶴の顔を見ると、恥ずかしそうな様子で新聞を見つめていた。


「どうした?」

「え……? ううん、なんでもない。気にしないで」


 そう云いつつも明らか様子がおかしい。

 記事について何かあるのかと予感がし、奪おうとするが千鶴は急に新聞を棚に戻し始めた。


「何で戻すんだよ」

「いいじゃない。目ぼしい記事もなかったんでしょ。ならここにはなかったって事」

「いや明らかその記事に何かあるだろ」

「何でもない」


 どうも怪しい。

 ここまで意固地に新聞を見せないのは何かあるとしか思われない。

 だが無理に奪おうとすれば新聞は破けてしまう。

 どうしたものか……。

 何か策を考えていると丁度、音楽が鳴り始めた。

 別れのワルツという曲名だったけか。

 壁にかかっていた時計を見ると十八時を過ぎ、いつの間にか図書館の終業時刻となっていた。

「さ、帰ろう」そう千鶴は云うと俺の腕を掴み出ていこうとする。

 俺は諦めるように「わかったわかった」と伝えた。


 バスから降りた俺達はそのまま家路に着くため歩き始める。

 その間沈黙の状態で空気は重く二人とも黙る。

 日没は過ぎ、辺りは完全に暗くなると街灯はともり、夜道を明るく照らし始めた。

 田んぼではカエルやウシガエルが泣き始め、合唱を演じているようであった。

 あと数分もすれば千鶴の家に到着する。


「あ、おじさんの家に鞄を忘れてた」


 そう千鶴が云う事に俺も思い出す。

 そういえばあのまま置きっぱなしだったな。


「このまま家に帰るか? 鞄は朝、登校前に俺の家によって取りに来てもいいし」

「そうだね。おじさんの家、バス停よる途中に行けるし」


 まあ鍵も持ってるし大丈夫だろ。

 そう考えていると前から見慣れた女性が近づいてくる。


「あ、箕原さんこんばんわ。珍しいですねこの時間帯に会うなんて」

「こんばんわ。杉田さんこそ。こんな遅くまでお仕事をしていたんですか?」

「はい、どうもここらの地区で会議がありましてその出席にと」

「へえ、公務員は色々大変ですね」

「いえ、これも仕事なので」


 こんな時間とはいえ、まさか杉田さんと会えるなんて夢にも思ってなかった。

 そういえば何か忘れてる気が……。

 無言で睨む少女が一人。


「……この人は誰?」


 声からして怒っている様子だ。

 ここは説明しなければならないだろう。


「この人はこの町の役場で働いている杉田美穂さん。俺がここに来てからお世話になった人だよ」

「杉田美穂です。えっと」

「あたしは丹波千鶴と云います。この近くの神社に住んでいる一人娘です。け、きぇいしゃんとは……」


 あ、噛んだ。

 恥ずかしそうに顔を赤らませると、勢いよく俺の腕に抱き着いた。


「お、おじさんとはすごくすっごく長くお付き合いしています。今もこの通り仲が良いので、どうぞ今後お見知り置きください!」


 何だこれ……。

 このやり取りはよくわからんが、どうやら千鶴は杉田さんを邪険にしてるようだ。

 流石に杉田さんも不快に……ってあれ?


「丹波千鶴さんね。私、この辺りの人の顔と名前をまだ覚えきれていないの。ごめんなさい」


 っと云って深々と頭を下げる。

 これが大人の対応って奴か。

 良心の呵責かしゃくか千鶴も少し申し訳なさそうな表情をしているぞ。


「あ、あたしけいしゃん……。おじさんの家に忘れ物があったんだった。取りに戻りましょ」

「え、あ……。それじゃ杉田さん」

「いえ、こちらこそ。また」


 遠ざかる杉田さんの姿。

 俺の腕を絡ませ無理やり前を歩く千鶴。

 家の中に入ると鞄を抱え座り込む。

 そしてぶつぶつと何かを呟いていた。


「んで落ち着いた?」

「うぅ……」

「どうしてあんな態度をしたんだ? 杉田さん困ってたじゃんか」

「だって……、あんだけ親しげに話してるおじさんを見ててイライラしたんだもん!」

「よくわからないが、かといって八つ当たりするような事はだめだぞ。とりあえずは今度会ったとき一緒に謝ってやるから」

「おじさんの馬鹿」


 千鶴は不貞腐れるようにぷくっと頬を膨らませる。

 そんな様子に俺は困っていたら千鶴は「分かった。一緒に謝る」と呟いた。

 まあこれで安心か。

 見た目大人ぶろうしてもまだ子供であることは自覚したのだろう。

 千鶴を立ち上がらせた。


「ところでおじさん」

「ん?」

「ああいった人が好みなの?」

「どした突然」

「どうなのってきいてるの!」


 どうしたんだろ?

 確かに杉田さんみたいなおしとやかな人は良いが。

 正直に応えるか。


「まあ嫌いではないな落ち着いた感じがするし」

「ふ、ふーん……」


 そっぽを向き口元に鞄を当てると「あんな感じが好みなんだ」千鶴はそう小さく呟いた。

 その後、俺は千鶴を家の前まで送るとその間、千鶴は一言も喋らず黙り込む。

 怒られた事に対して気に病んだのか?

 しかたがないな。


「まああれだ。やっぱ元気なほうがいいし、そのほうがいいと思うぞ?」

「ほ、本当!? おじさん本当!?」


 千鶴は迫る勢いで俺に近づく。

 俺は千鶴の勢いに気圧され「ああ」っと答えた。

 先程とは打って変わり、千鶴は嬉しそうな表情をし、手を元気よく振ると「またね」と云い行った。

 何か言い間違えた気がするが……。

 まあいいか元気になったし。

 そう思いつつ俺も家路に着く。


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