誰かの心の中で永遠に生きたい。

Unknown

【本編】2417文字

 夜の帳が上がる前に俺は目を覚まして、いつも通りの何もない日常を過ごす。いつも通り10時30分から仕事する。


 名もなき存在。そんな意味を込めて俺は自分のペンネームを「Unknown」にしている。


 そんな俺は、何でもいいから「生きた証」が欲しいと思っている。


 永遠の命は持てない。だからこそ誰かの心の中で生き続けたいと思っている。


 それが承認欲求という物なんだと思う。


 俺は誰かの心の中で生きていたい。たった1人で構わない。誰かの心の中で生きられるなら、それに勝る喜びは無い。


 俺は既にその夢を叶えている。


 必死になった甲斐があった。


 俺は17歳の時から、29歳に至る今まで、ネットで文章を書きまくってきた。誰かの心の中で生きてみたかった。必要とされたかった。承認に飢えていた。俺が生きた証を残そうと必死だった。


 この宇宙の地球の日本の群馬県で俺は生きている。


 ただそれだけを誰かに知ってほしかった。


 俺はずっと孤独に生きていた。今も孤独かもしれない。


 最近では活動の幅を広げてYouTubeまでやっている。YouTubeでは俺の不細工な顔面を晒している。俺は文章表現に飽き足らず、生きた証を残すのに必死だ。


「Unknownが禁酒を頑張るch」


 というチャンネル名で活動している。


 生まれたからには他者に愛されたい。他者から必要とされたい。


 そんな気持ちだけで生きている。


 生まれたからには他者を愛したい、という気持ちもまた同時に持っている。


 俺が必要ならすぐに俺はあなたのところに駆けつける。どれだけ距離が離れていても、ネットならいつでも会いに行ける。


 泣いてる奴を助けたい。


 だから俺が泣いてる暇はない。


 俺は歴史に名を遺す人間にはなれない。


 それでも俺は「何者か」になりたくて、誰かに必要とされたくて必死だ。生まれたからには、誰かの心の中で生きていたい。永遠に。


 秦の始皇帝は不老不死を求めた。俺もそれに近いことがやりたい。ネットを通じて。永遠に他者の心の中で生き続けるのが俺の夢だ。


 心のどこかに俺がいつも居たい。


 俺はそういう欲求がとても強い。それは俺が孤独な人生を送っているからだ。俺は孤独を感じている。だからこそ、俺は自分と同じように孤独な奴の心の中で生きていたい。


 仮に俺が今日死んだとしても、俺がこの世界を生きたという事実だけは残る。


 でもそれだけじゃ足りないんだ。


 俺の事を一生忘れないでほしい。俺が生きたという証を誰かの心に刻み付けたい。石碑のように、誰かの心の中で消えないものとして生きていたい。


 俺は控えめに自分の魂をぶつける。ひとつひとつのタイピングに魂を込める。


 リスカ、OD、酒、孤独、絶望、月明かり、暗い部屋、吐瀉物、嘔吐、涙、血液、ガーゼ、軟膏、包帯、タバコ、剃刀、精液、絵画、膣、タバコ、無常、ロープ、縫合、手術室、机、手紙、プレゼント、CD、燃えるゴミの日、パンクロック、射精、素粒子、天国、棺桶、幻聴、墓場、排泄、校舎、瞑想、タイムカード、診察室、救急車、精神科、原風景、遮光カーテン、処刑台、ベッド、X、田園、戦争、コンドーム、フリーター、聖書、ぬいぐるみ、帝王切開、ライター、小説、医者、ナイフ、精神薬、風俗、痙攣、引きこもり、ネックレス、後悔、病院、タトゥー、梅毒、ニート、離脱症状、アパート、夕暮れ、ゲーム、雷鳴、リボルバー、腕時計、恋人、記憶、群衆、パソコン、京都、人身事故、オーロラ、愛、夢、神様、憂鬱、宇宙、ゆりかご、生涯、海。


 いつでもあなたに会いに行ける。


 だから俺は1人じゃない。あなたは1人じゃない。


 陸、海、空、月の裏側。月のクレーターが笑っている。


 人工衛星のように俺は宇宙から地球の自転を観測し、すぐに孤独なあなたの元に会いに行く。


 必要なくなったら俺の事を見捨ててくれ。


 俺の全てを誰かに捧げる。


 それが俺が生きた証になる。


 俺はネット上で不老不死を目指す。


 文字だけは永遠に老いない。文字には性別もルッキズムも無い。


 俺はネット上における、永遠の生命を希求する。


 たった1人でも、俺の事を忘れずにいてくれるなら、俺は生きていけるからだ。


 仮に今日俺が死んだとしても悔いはない。俺はベストを尽くしたつもりだ。俺は本気で生きたつもりだ。普通の人の50パーセントくらいの力しか持っていなかったかもしれないが、俺なりに本気で生きた。これからも本気で生きる。


 文章で叫び続ける。視覚に訴え続ける。俺はここに居るのだと。まだ生きていると。


 文章で叫ぶのは簡単だ。


「ぎゃー!!!!!!」


 とタイピングすればいいだけだ。


 死んだあいつの分まで俺が生きる、という高尚な考えを持つ余裕は俺には無い。


 俺は俺を生きるのに必死だからだ。


 でも死んだら会えると信じてる。死んだら一緒にブラックニッカというウイスキーを飲みたい。ジャック・ダニエルでも構わない。ストロングゼロでもいい。


 この世に生まれて生きている事。それは罪でも何でもない。


 生まれたからには意味がある。俺は意味を必死に探している。意味探しは、生涯をかけるに値する。


 とりあえず何か書け。とりあえず何か言え。


 感傷や郷愁に浸っている暇はもうない。


 ノスタルジー。メランコリー。リクルート・エージェント。そんなものは必要ない。


 いまさら何を言ったって、ただの生ゴミ。


 生ゴミでも生きてていい。俺は燃えるゴミだ。


 きっと人生の折り返し地点は過ぎた。俺は29才。倍の年齢まで生きているイメージが湧かない。もう残された時間が少ない。


 だから俺はキーボードを叩く。叩いて叩いて叩きまくる。この部屋の中で。


 よくスポーツ選手が「失うものは何もない」と言う。俺は失いたくないものばかりだ。


 なので俺は生きる必要がある。


 さしあたって死ぬ必要は無い。


 とりあえず俺は、今この瞬間を生きている証明として「ぎゃー!」と叫んでおく。


 承認欲求が強すぎる。俺は誰かの心の中で永遠に生きたい。


 たった1度しかない人生を駆け抜けろ。さあ行こうぜ。地獄の果てまで着いてこい。











 終わり

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