第10話 本物への憧れ

空間が割れる。


湖の中央。その上で10mは超えるであろう大きさのヒビが空間に浮かんでいる。


「来るよっ!」


亀裂より表した姿は女の様。


その体躯は10mを超えており、

髪は長く、所々抜け落ちている。

顔は爛れ、目は無い。

身体には傷が多く、腹には割かれた跡がある。

脚は、膝下が見え無い。湖の中だろう。


そして腕は、


「危ない!!!!!」


「え、」


ドールに突き飛ばされ、事態を把握。


「っ!ありがとう!」


「むぅ!ぼーっとはダメです!!!次来る!!!」


宙に浮く髪が勢いを持って私を穿ちに来た。


「緑の書、範囲指定!地から髪へ槍を!」


走りながら迫る髪を迎撃する。

だが


「っ!足りない!!!」


槍が押し負けた。

少し勢いが削がれた髪が追ってくる。


「マジカル・パンチ!!!!ふぅ・・・・・・」


「ありがとう!大丈夫!?」


「まずいです!!お腹が減りました!!!」


そっか。

頭を切り替えて、雨神うじんに向き直る。


まずは髪をどうにかしないと近づけない、


「赤の書、その激情を持って、眼前の敵を灰燼に帰して!」


お焚き上げした時とは比べられないくらいの火力。

その分魔力は消費する。


言鳥ことどり戦。

地形の後片付け。

野外ステージでの一幕。

岩の探知。

磐座いわくらの処理


ランカーでは無い彼女にとって既に本来の稼働量を超えている。

魔力は底が突きかけていた。


普段より身体が重く感じ、今立ってるのですらほとんど気合いの様なもの。


髪を燃やして勢いは止まった。

だがそれも雨で消火されまた動き出す。


「っ!これじゃっ。近づけない!」


機動性、魔力量、火力。そのどれもが現状のブッカーズに足りていない。


それに雨が降っているのも相性が悪い。

ブッカーズの攻撃手段は赤と緑、使いたくはないが白の3つ。

そして赤と白は熱である為、水と相性が悪く、

残る緑も、先ほど髪に歯が立たなかった。


「・・・・・・はぁ。っぁ!それでも!やらないと!

みんなのっ楽しいや。嬉しいを守るって決めたんだからっ!!!」


迫る敵に追いつかれない様、重たい脚を動かし水上を駆ける。


けれど、速度は髪が優位。

開いた距離は徐々に詰められる。


「緑の書、範囲指定!水から空へ格子こうしを!!」


足場が水面だけだと足りない!

もっと、立体的に動かないと!


限界以上に使用する魔力に、頭がチカチカする。


「後少し!範囲指定!水からっ!!・・・・・・った!がぼっ」


「×××××!?!?」


水中に叩き落された。

ドールが叫んでいるが聞こえない。


なんでっ!


相手はタイプSS。

関係なんてない。


苦手な水が相手。

関係なんてない。


身体に力が入らない。

関係なんてない。


・・・・・・はず、なのに。


どうしてか手を前に動かせない。

水上に出ないといけないのに。


戦わないといけないのに。


だめ、意識が・・・・・・




⚪︎⚪︎⚪︎




魔法少女になる前、私は一人だった。

親との仲は良かった。


「ねぇさゆ。学校どうだった?」


「うん。知らない人が沢山いて少し怖かったけど、気の合う子が居たよ」


高校生に上がった時に付いた嘘。

傷付けたくなかっし、そうなりたい。って想いもあった。


「そう?でも無茶はダメよ?魔法少女にもなるんでしょ?」


「せっかく魔法が使えるし、それに」


楽しそうだから。


それは、学校から離れる言い訳だったのかもしれない。

魔法少女をしてるから学校で友達が少なくても仕方ない。

友達がいない理由は私じゃないんだと。

そんな言い訳をしたかった。



⚪︎⚪︎⚪︎



「皆さん初めまして。私の名前はふり。苗字は事情がり明かせませんが、今後ともよろしくお願いします」


「はっ初めまして。私は桐原さゆっていいます!よ、よろしくお願いします・・・・・・」


消入りそうな声だったけど、なんとか挨拶が出来た。


彼女は私が魔法少女として活動と同時期にサポーターに入った女の子。

そして年齢は私と同じらしい。




⚪︎⚪︎⚪︎




『不躾ながら申し訳ありません、桐原さゆさん。貴女は⚪︎△高校に在籍していませんか? 』


何度目かの魔物討伐の終わり際。

後は帰るだけとなったタイミングで彼女が聞いてきた。


彼女とは何回もお話して少し仲良くなれた気がする。


「えっ。どうして、それを?」


『偶然です。職員室に向かった際に貴女が先生と話している姿をみました。

お気を悪くされたならすみません』


「ううん。そんな事ないよ」


・・・・・・見られてたんだ。


学校側が魔法少女の活動に口を出す事は基本的には無い。

だって、魔法少女が居ないと平和じゃなくなるから。


だけど担任の先生は「桐原。魔法少女として頑張っている事は知ってる。だが相談毎があるなら是非俺にも言ってくれ」と言ってくれた。


私が学校で一人なのを見ていたのだろう。


「ふりさんも、学校じゃ大変だよね。サポーターのお仕事とかあるし」


『そうですね。ですが、宿題や受けられない授業については友達に助けてもらっています』



・・・・・・そっか。



⚪︎⚪︎⚪︎




『ブッカーズ、最近の貴女は少し先走る傾向にあります』


「・・・・・・そうかな」


『はい。ブッカーズ自身。能力にも慣れが出始めており強くなっているのは事実です。ですが、今回のタイプDでは周囲の人を危険に晒す行動がいくつかありました』


「大丈夫だよ。気を付けてるもん」


『わかってます。

貴女は授業中であれ到着が早く、私が付けない中でも他サポーターと揺らぎに対応するほどです。

先ほどは危険と言いましたが、その中に貴女の考えがあった事もわかっています』


なら


『・・・・・・ブッカーズ。急ではありますが聞かせてください。貴女はどうして魔法少女になったのですか?』


「え、ほんとに急だね。どうしたの?」


『雑談ですよ。私がサポーターをしているのは家の都合です。ですが、私自身も魔法少女の力になりたいとも思っています』


「・・・・・・私は・・・・・・ぇっとね」


あれ。なんでだっけ。

なんで魔法少女になったんだっけ。


わからない。

でも今は学校より楽しいし。


「楽しそうだから。かな」




⚪︎⚪︎⚪︎




「はぁ、はぁ。よかっ、た」


『お疲れ様です。ブッカーズ。

申し訳ございません。私の判断ミスでした。貴女を危険に晒してしまい』


「ふぅ・・・・・・いいよ。勝てたしね」


初のタイプCとの交戦。

戦闘力だけを見るならタイプBもあったかもしれない。


街の外れとは言え、市街地戦。

取り残された子供を守り抜いての戦闘は、これまでとは比較にならないほど神経と魔力と体力を使った。

その為、今は膝をついて息を整えてる。


「大丈夫かな。あの子」


ここまで私が命を張る理由があったのか。

ただ楽しいで始めた私が辛い想いをする理由なんて。


『巻き込まれてはいないでしょう』


酷く疲れた。

楽しいとは何なのか。


これならまだ。


「あの!ありがとう!魔法少女のおねーちゃん!」


立ち上がった私の背後から声がした。


振りむいた先にあったのは、溢れんばかりの笑顔。


「っ!」


あ、あぁ。そんな純粋な目で見ないで。

私はそんな綺麗じゃない。

嘘から始まって、

逃げて。

目を背けた先に居たのが今の私。


『ブッカーズ。あまり自身を卑下しすぎないで下さい。この子は誰でも無い。貴女が守ったんです』


「かっこよかったよ!!!」


そういって子供は服が破れ、所々出血している私に抱き着いた。


「だ、だめだよ。綺麗な服が汚れちゃう」


「そんなことない!!!

すっごくこわかったときに助けに来てくれたんだもん!!!」


子供の声が涙で濡れている。


「あっ」


彼女の頭を撫でようとした私の手は、

どうしようもなく汚れてしまっている。


「おねーちゃん?泣いてるの?」


「えっ」


「泣かないで!。こわいまものは、おねーちゃんが倒したんだから!」


「そ・・・・・・そうだね・・・・・・まってね今。泣きやむ、から」


いつの間にか膝をつき、少女より目線が下になる。


「わたしね。とってもうれしかったの!まものは怖かったけど、それでもおねーちゃんはかっこよかったし!またママとパパと会えるから!

わたしね!しょうらい魔法少女になるの!

おねーちゃんみたいにみんなを助ける!

おねーちゃんに助けられてうれしいって思ったし、

あしたからまた楽しいをつづけたいし、

おねーちゃんみたいにかっこよくなりたい!!!」


あぁ

なんて綺麗なんだろう。


目の前の少女が私なんかよりずっと輝いていて、

ずっと魔法少女だったから


だからずっと秘めていた

漏れてしまう。


「君は強いんだね。・・・・・・羨ましいなぁ」


「おねーちゃんのが強いよ!

・・・・・・ん~、でもだったら。

わたしの!楽しいとかうれしいをわけてあげるね!」


少女が私の手に手を重ね、心底嬉しそうに笑う。


「・・・・・・良いの?」


「うん!だって魔法少女はみんなを助けるから!

わたしもおねーちゃんを助ける!!

ん~でもどうしたらいいだろう。

助けるってむずかしい」




綺麗な願いを少しだけわけてもらった。


私の願いよりも純粋で無垢な魔法ねがい


増えていく羨ましいを少女ほんものに吐き出して、

魔法少女うそな私は新たに魔法を借り受けた。


いつか返しに行くのだろうか。

これから先、少女と魔法少女が出会う事はあるのだろうか。


だけど、その願いは確かに魔法少女へ繋がった。



⚪︎⚪︎⚪︎




意識が浮上する。


懐かしい夢を見た。


今でもたまに思い返すあの日の事。


そうだ。

私はあの少女から願いを分けてもらったんだ。


2年間一緒に活動してようやく友達になれたふり。

彼女が捕らえられている。


彼女と一緒に居られないのは嫌だ。

まだまだ遊びたいし楽しいや嬉しいを共有したい。


だったら、助けないと。

ここで溺れている場合では無い。


身体には既に魔力は残っていない。

だけどそれがなに?


私は魔法少女!

私は魔法少女ほんものになりたい!!

魔法少女に不可能なんてないんだからっ!!!




「赤の書っ!!!」

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