第11話 魔法少女は本気を出します!

「赤の書っ!!!」


目の前で起こったのは水蒸気爆発。

出来うる限り最大火力。


「ァァァァアアア!!!!」


爆発により周囲の水が消し飛び、自身も水位が戻る前に水上へと跳ぶ。


水中にある片脚を消し飛ばされた雨神うじんは甲高い声を上げた。


「おぉー!!!!流石です!!!!」


未だ異次元に動き回ってるドールからの賞賛。

私が水中で気絶している間、

雨神うじんの注意は彼女が引いていくれたらしい。


「よしっ!効いたっ!」


「そろそろ私もしないとですね!!!」




「え?」




⚪︎⚪︎⚪︎魔法少女 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




流石は魔法少女!!!

諦めないその気持ち!!!!

人を助けるその気持ち!!!

最強です!!!


不可能なんて無いんです!!!!!


は動きやすいですけど!!

ひらひらしてるこの和服も!!

可愛いですけど慣れないです!!!


でも!

前の髪型も!

前着てた服も!

長く着てた記憶がありません!!!


ふぅ。少し脚が疲れたです!

今日はずっと走ってます!!!


本気ですっ!本気変身です!!!!

大きく息を吸ってっ!!!!


えいっ!!!




⚪︎⚪︎⚪︎




足を止める。

それは相手を向き合うため。

目を開く。

それは相手を見据えるため。

口を開く

それは相手を喰らうため。


さぁ。魔法少女よ。

その願いを叶えなさい。

さぁ。魔法少女よ。

その願いに溺れなさい。

さぁ。魔法少女よ。

その願いに潰えなさい。


さぁ。魔法少女よ。

魔法少女を始めなさい。




マホウとマモノに違いなんて無いのだから。




魔法少女の祝福を受けた厄災。その一柱がここに顕現する。




⚪︎⚪︎⚪︎ブッカーズ 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




何・・・・・・

アレ。


雨神うじんなんかよりよっぼどダメ。


幼い姿の人形ドールでは無い。

あれはそれの操り手。


背丈は雨神うじんを超え、

綺麗な髪は地面にしなだれている。

見える指の関節は球体で、

服装は光沢のある綺麗な布。

その背には機械仕掛けの羽根が宙に浮く。


アレは居てはいけない。


ドール?

アレが?


あの機械仕掛けで登場する神かみさまが?


「キャァァァァァァアアアアアア!!!」


「っ!」


耳を塞ぐ。


あるのは恐怖。

多分、雨神うじんも同じ感情を抱いてる。

だってあの叫び声は威嚇ではなく絶叫に聞こえたから。


める我が身に随分な挨拶よの」


「ァァァァァァアアア!!!」


「獣に堕ちた端女か。コレなんぞが偽りとて神の名を語るなぞ。

現世うつしよも酷く落ちぶれ、いみじく悲しきかな」


何もしない。

ただその場に居るだけで、雨神うじんの髪と両手は落とされた。


「我が身を封じた愚か者はついぞその身を曝け出ず、しまいにゃ調停役と相成りて候。

此度の行く末も見果たすが為すことなり」


遂に胴が上下に分けられた雨神うじん


「ほれ小娘や。奴は汝の営みぞく心ばね」


「!?!?わっ、私ですか!?」


ひぃっ!

神様が現れてからそ周辺の雨が止んでる。

え!?



溝打ちから上しかない雨神うじんが、

半分しかない二の腕を使い私と神様に迫ろうとしているけど、残念ながら動けていない。


その。

この神様、言い回しがその、古いというか。

私、古語は苦手で・・・・・・


えっと、ん?


え!?


「つまり雨神うじんを倒すの私なんですか!?」


「左様。我が力はかかる些事に使はず。それに・・・・・・」


神様が振り返り、その金色こんじきに星々を宿す双瞳そうどうで私を射抜く。


私を見ているのか。

私の魔法を見ているのか。


そんな事はわかんないけど、

でも確実に、切り札は見抜かれた。


そんな瞳を神様はしている。




無題の書

それは私の持つ最大の規格外。




⚪︎⚪︎⚪︎




神様は後方で私と雨神うじんを見下ろしている。


よしっ!


「・・・・・・元より使うつもりだったもんね」


十全な状態なら赤、白、黒を用いて最高火力を叩き込むことが出来た。

だけど既に魔力の残量は無く、回復を待つ程の時間的猶予は無い。




その本が初めて顕現した時、その性質に恐怖し使用を躊躇った。

いや。使用出来なかった。


それは相手の全てを奪う本。

魔物が相手。

どうせ倒すから。


そう割り切れる程、

私の心は強く無かった。


魔物。

その伝承から来る苦しみや苦悩。

人への憎しみや恐怖。

それらを一身に引き受ける。

そんな本。


そして幸いにも無題の書を顕現させる条件は揃っている。


一定以上の魔力消費。

それはページを作るため


魔物を倒している事。

それはインクを作るため


前進する気力がある事。

それは物語を紡ぐため


相手が格上である事。

それは強大な祈りを捧げるため


楽しいや嬉しいを奪う事を許さないと決めた私に宿った。

他者から何かを奪う魔法。


それが、




「おいで。無題の書・・・・・・。ごめんね。あんまり貴方を出してあげられなくて」




恐怖はある。


でも躊躇っては居られない。


神様が見てる。


増援は来ない。


魔法少女は私だけ。


ドールが気づかせてくれた。魔法少女わたしたちに必要なのは夢なのだと。

少女に分けてもらった。魔法少女がもつ願いの形を。


ふりを助けるために。


遊園地に来たみんなを守るために。


楽しいや嬉しいを守るために。


だから、


いつかの悲しみを背負った雨女あなたの声を聞かせて下さい。


私はそれをいつまでも聞いて、しるしますから。


「お願い。無題の書」




⚪︎⚪︎⚪︎




「ふぅ、・・・・・・大丈夫。」


頬を伝う涙は私のモノでは無い。


きっと誰かの悲しみ。


目を背けてはいけない。


「大っ丈夫。私は・・・・・・ここにいるよ」


喉から出る嗚咽は私のモノでは無い。


大切な誰かを失った悲しみ。


彼女が背負った悲しみと

向き合うと決めたのだから。


「・・・・・・魔法少女は最強でっ。不可能なんて、無いんだから!」




⚪︎⚪︎⚪︎




どれだけ経ったのか。

あるいは一瞬か。


変身が解けて眠ってしまった桐原さゆにはわからない。


だけど、


「こんにちは。雨の書」



両手に抱えた本が何よりの答えだろう。

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