第7話 コトドリの怖さ

長峰ながみねさん!!!緊急事態です!!!」


観覧車から今!降りました!

今!!

ナウ!!!


「どうしたんだい?助ける人を見つけたのかい?」


「おぉ〜!!!凄い!!どうしてわかったんですか!!」


「それが今日の目的だからね」


「そうでした!なんだか辛そうな感じがしました!!」


「へぇ、随分と目が良いんだね」


「む?目?目もいいですよ!最強です!!!さ!それより!行きましょう!!

人助けです!!!」


目も良いです!

耳も良いです!

ワタシは最強魔法少女です!!!


しゅばっと移動しようとしたら、なんと手を掴まれてしまいました!!


「長峰さん!?!?」


「他の人達が居て危ないから走らない様にね?多分君のその目や判断した何かは合っている。

魔法少女はそう言った助けを求める声や音に敏感だからね」


「はい!最強です!」


「うん。最強なんだ。だからこそそれ以外の人にも目を向けないといけないよ」


「それ以外!んー!むぅ〜〜!つまり!守るべきみんなです!!!」


「そう。よくわかっているね。でもその僕達は魔法少女じゃないからね。最強じゃないんだ。

だからこそすぐに命を落としてしまう。そしてそんな命がこの世の中の大半を占めている」


「確かに!あの時もみんなモニョさんを怖がってました!!!」


そう言う事だったんですね!

世の中全員がプリンちゃんやノーレンジくらい強かったらびっくりです!!!


強さでなんでも解決です!

でもみんな強いです!


あれ?

でも今、解決できないです。

不思議!!!


「そう。だからもしその緊急事態が魔物であるなら、ここにいる人たちの避難を優先したいかな」


ふぬぅ。


「でもコレは大人の考え方だよ。責任を重く感じて足が止まってしまうね。

子供は保守的にならずに、己に自信を持って、己の出来るを信じて行動に移す。

コレが強みであり、魔法少女の根幹だと僕は思うな」




「つまり!魔法少女は自由で最強!!」




⚪︎⚪︎⚪︎




「本当だね。確かにコレは緊急事態だ」


「えっへん!!!」


あれ?


「長峰さんは魔力ないですよ!」


「あぁ、そうだね。でも魔物対策委員会の職員には緊急時に行動できる様に幾つか魔道具が支給されているんだ」


「ほへぇ〜!凄いです!!!」


「よし。⚪︎△支部には連絡入れた。次は魔法少女が来るまで情報収集か」


「早く探しましょう!緊急で!急速です!」


「どっちに行ったかわかるかい?」


ここには居ないらしいです!

魔力は残ってますけど!!

本人がいません!!!


でも2体の内1体は見つけました!!!

最強魔法少女ですから!!!


「こっちです!!!」


「了解。何処からか襲ってくるかもしれない。慎重に行こう」




⚪︎⚪︎⚪︎ブッカーズ 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




今回使う本はこの3種


「赤の書・白の書・緑の書」


私の魔法は変身時に6冊ある本から3冊選択する。


「赤の書、ふり達を守護しつつ空で待機

白の書、半径200mを指定。魔力探知を行って

緑の書は私の元で待機」


『私は問題ありません。探査と迎撃に回して下さい』


「ふりもだけど、沢山人がいるからそのためだよ。っと、見つかった。うん1体だけだね」


『場所の共有をお願いします。先程、悲鳴があると思われていた場所から魔力を採取しました。

タイプE 言鳥ことどり。揺らぎはありません』


「今から向かうね!」




⚪︎⚪︎⚪︎




「アレだよね」


見つけたのはジェットコースターのレーン上。


この遊園地の目玉である観覧車とジェットコースターは左右に配置されており距離がある。

ふりが楽しみにしている野外ステージは観覧車側にあるから逆方向かな。


少し不謹慎だけど、

魔物が出たのがあっちじゃなくて良かった。

少し暴れてもステージには被害出ないし。大丈夫だよね。


勿論、人に攻撃魔法を振るう様なことはしないけども。


「そっちからも見える?」


『はい。視界良好です。ただ支部にいるわけではないのでサポートの期待はしないで下さい』


「ううん。いてくれるだけで嬉しいよ」


『・・・・・・。安全に早く終わらせて下さい。ただ、』


「『魔物相手に絶対は無い』」


『わかっているなら問題ありません』


「よしっ!戦闘始めます!!」


緑の書ができるのは簡易的な地形操作。

地形とは言うけどその幅に再現は無い。


出来る限り遊園地に被害が出ない様に。

その上、相手は空を飛ぶ。


緑の書も無理を重ねれば空も指定出来るが、縦横無尽に飛ばれては幾らランクEとて討伐は厳しくなる。


「緑の書、範囲指定。地から対象へ槍を。屋根から空へ幕を!」


すると、ジェットコースターの構造を縫って言鳥ことどり目掛け槍が飛来する、


「ぅぇえええええ!ぅええぇええええんん!」


「っ!」


赤ちゃんの泣き声を発した言鳥ことどり。飛び上がった空には、槍と同時に展開されていた金属の幕が行手を阻む。


『気にしないでください。あくまで魔物の鳴き声です』


「大丈夫。わかってるよ。範囲指定!地から金属へ壁を!金属から対象へ槍を!」


すると逃げ場を塞がれた言鳥ことどりは、槍に貫かれ地に落ちる。


現状で既に、

地上から競り上がった土の壁と屋根から伸びた金属の幕。

ジェットコースターの構造には土できた槍が刺さっている。

とはいえ人や物の被害は凡そ最小限で抑えられたはず。


本来なら赤の書で止めを刺すけど、今はいない。

だから。


「白の書、砲雷準備。20% 照射!!!」


肥大化させた金属まで跳び乗り、白の書を介した光束こうそく砲撃を行った。


本来、白の書は探知を担当している。

そのためこのような収束・解放という無理な使い方をすると、魔力が普段以上に消耗する。と言うデメリットがある。


『お疲れ様でした。ブッカーズ。所要時間は2時間43分。なかなかの速度ですね』


「ありがとう〜、ふぅ疲れたよ。緑の書である程度直したらそっちに戻るね」


『はい。遊園地及び⚪︎△支部への説明は私が行いますので、慌てずに行動をして下さい』


「わかった。いつもありがとう」


そうして通信を切った。


「ふぅ。後片付けしないと」


後片付けは魔法少女の仕事ではないけど、

私の場合は緑の書で物体を作る事が出来るため、事後処理をしてから現場を離れることが多い。




⚪︎⚪︎⚪︎魔法少女 視点 ⚪︎⚪︎⚪︎




およよ?


「向こうは終わったみたいです!!!」


「え!?向こう!?2体いたのかい!?」


「はいっ!!!ワタシとは反対のあっちです!!あっち!!!」


「あーー。そりゃ魔道具の範囲外だわ。終わったって?魔法少女がいたのか?」


「はい!一度会った事のある匂いでした!!!」


んー!誰だったのでしょう!!!

でも!ワタシ知ってる人が少ないのです!!

ショックという奴なのです!!!


「むぅ!魔物さんがあっちへこっちへ!!!動いて追いつけないのです!!!長峰さん!!」


「現場にいて何も出来ないって歯痒いな。・・・・・・この子もこれ以上留めて勝手に暴れられてもな。っよし。魔法少女のすべき事ってわかるか?」


「当然です!!!人を守る事です!!!」


「そうだ。この魔物の解決を任せたいと思うのだが出来るか?出来ないってなら」


「出来ます!!!!最強ですから!!!」


「・・・・・・ほんと凄い自信だ。おじさんには無いモノだ」


少し遠い目をする長峰さん。

観覧車でも似た様な感じだったのです!!!

むむ?


ん〜!!!

わかりません!!


でも!

悲しんでる人がいるのなら!!!



「大丈夫です!!!ワタシは魔法少女だから!負けません!」




笑顔を見せるのも魔法少女です!!!




⚪︎⚪︎⚪︎ 長峰ながみね達也たつや ⚪︎⚪︎⚪︎




俺には9歳の娘が居た。

外見は俺に似ていて性格は母親譲りで正義感が強い。

保育園でも友達は多く、魔法少女への適性があるとされた事から将来は魔法少女の道へ進むと娘は言っていた。

保守的な俺とは違い、意見を真っ向からぶつける妻と娘である。


その強気の姿勢は心強いが親としてはやはり平穏に暮らしてほしいと思ってしまう。


そんなある日、俺達は遊園地へと赴いていた。

なんて事はない。娘の誕生日だから。


前回の誕生日は別の遊園地に行った。


「パパ、ママ!あの高いの乗ろ!」




⚪︎⚪︎⚪︎




「おぉー!!すごーーい!あたし、山より背が高くなった!!!!」


観覧車で目をキラキラさせ、子供用の少し小さなジェットコースターで楽しそうに声を上げ、被り物をして3人で写真を撮る。


なんて事のない誕生日だったんだ。




はぐれが現れるまでは。




俺達は昼頃から始まるステージに向かう途中だった。

何の気なしに他愛も無い話をしていたら、急にどこかからが響いた。

その恐怖は伝播し、人々は我先にと出口へ向かっていく。

無秩序な人の波を形成するには十分な声量だった。


俺は咄嗟に妻と娘の手を掴んだ。

大丈夫。

はぐれとは、揺らぎから逃れた存在。つまり揺らぎに対応していた魔法少女が近くにいるはず。

大丈夫。

まだ魔物までは遠いはず。

大丈夫。大丈夫。


そうして俺も気が付かぬまま足早になっていた。

そして娘が転んでしまった。


次の瞬間には人の波に飲まれ、娘の姿は消え、それに気づいた俺と嫁も必死になって波を掻き分け後ろに進む。


大きな声で叫んでも、さらに大きな悲鳴があちらこちらから聞こえてくる。

名前を呼んでも、返ってくるのは人々の叫びのみ。


そうして時間が過ぎ、俺達は娘を見つけた。


瓦礫に下半身が呑まれ血が滴った娘を見つけてしまった。


「ぁあ、パ・・・・・・パぁ。マ、マァ。あたし。まもっ・・・・・・っごほ。だよ?」


微かに開いた目は虚で、声も掠れている。


そうして娘は何かを見つめて話している事に気づいた。


そこにあったのはベビーカー。

崩れそうになる足取りで向かうと中には赤ちゃんがいた。


目を瞑ってはいるが生きている。


そして、気付いた。


あぁ、娘は既に魔法少女になっていたのだと。


誰よりも勇気を振り絞り、自身の命より他人を優先し次へ繋げる。そんな気高い魔法少女へと。


慌てて娘に駆け寄った。


だが


もう




⚪︎⚪︎⚪︎




アレから2年の月日が経過した。


同じ街にいるとどうしても娘を思い出して何も出来なくなるため、断腸の思いで引越しを決意した。


妻は家から出なくなり、あの日のことを夢見ては謝罪を述べている。

カウンセラーの助けもあって当時ほど過激では無くなったが、止める事はないだろう。

それだけ愛が深かったのだから。


そして俺は伝手を辿り、魔物対策委員会の⚪︎△支部へと就職した。


あの時の無力感を味合う人が減る様に。

魔法少女が1人でも助かるために。

俺をそう動かしたのは残ったのは、当時の情け無い自分への悔しさだった。




現在、俺と妻でアパートで部屋を借りて暮らしている。


そんなある日、娘と似た魔法少女と知り合った。

名は桐原さゆ。


性格は娘の方が明るく、恐らく要領も娘のが良いだろう。

だけど、その志は似ていた。


嬉しい事に彼女は1人ではなかった。同学年の子がいたからだ。

魔対に入り様々な知識を身につけた。

その中の一つがサポーター。


一般の少女であったり、

支援に特化した魔法少女であったり、

裏から魔法少女を支援する存在が居ることを知った。

揺らぎへの対応はその2人の相性が左右する。


最強でもない限り、各種情報を随時与えるサポーターは必須と言える。

言い換えれば、サポーターにやる気が無いと魔法少女側も与えられた情報を信用して良いのかわからなくなる。


その点、彼女達は最高だったと言える。

俺が手順を教えることもあったが、飲み込みが早くお互いを信用していた。


だから大丈夫だとこの2人はこの先も問題無いと判断した。




⚪︎⚪︎⚪︎




アレから更に2年が経過した。


支部長から迎えに行けと言われた先に居たのは、人形のような精巧な女の子だった。


淡い水色の和服に短く揃えられた髪。

左目は包帯で巻かれ、表情は薄く笑っている。


そして、とても元気な女の子だった。

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