第四話

 足並みの整った兵隊や、威風堂々行進する戦車。

 国民も、その迫力に見惚れている。

 首都札幌では、絢爛なパレードが開かれていた。



 その華やかさを横目に、軍部上層部や閣僚等は党本部に集い、話をしていた。

 部屋には、日本を中心とした地図が机の上に広げられているのと、僅かな内装と椅子が数脚置かれているばかりで、絢爛さは何処にも無かった。

 その無機質な部屋の机の側では、書記長と陸海軍の委員が簡単な挨拶を交わしている。

「昨日は会議に参加出来ず申し訳ありません、書記長。少し軍事面で用事が発生しまして」

 海軍元帥兼海軍委員長の岩沼恵次いわぬまけいじ。改革派の一人で、今回の書記長選挙では、真っ先に鳥海の支持に回った。

「副書記長も参加されたのですか?」

 陸軍元帥兼陸軍委員長の砂川三郎太すながわさぶろうた。保守派の一人で、書記長選挙ではやはり保守派の岩木支持に回っている。

 その砂川の問いに、岩木が答える。

「参加した。しっかり話しておかないとな」

「そうでしたか」

 砂川はまだ何か話しそうだったが、岩木は話が面倒だったのか、鳥海に話を振る。

「書記長、彼等に何か言う事はありますか?」

 鳥海は急に話を振られて驚いたか、少し動揺を見せつつ話す。

「…えー、まあ、この国を全力で守ってほしい。諸君等の働きが、この国を滅ぼすか、或いは栄えるかの鍵を握っている。この国には、何万という人間が暮らしているんだ。もう一度言う。全力で国を、人を守ってほしい」

 そこまで言うと、鳥海は少し息を吸い、

「前置きも済んだ所で本題に入ろう」

 と言うと、机に両手を置き、

「今の陸海軍の戦力はどの位だ?」

 と問う。

 まず岩沼が、堂々として答える。

「まず我等が日本人民海軍は、空母三隻、

 戦艦十一隻、巡洋艦三十二隻、駆逐艦一〇一隻となっています」

 鳥海は砂川に答える様促す。

「我が日本人民陸軍は歩兵四十師団、機甲師団

 六師団、航空師団四師団の約六十万人で構成されています」

「ありがとう。武器は?」

「ソ連の援助の元、近代化を進めています。六十年までには歩兵も機械化が概ね完了するかと」

「成程、南日本は?」

 その問いに、岩沼が気まずそうに声を途切れさせながら答える。

「…武器の質は大差無いと思いますが、恐らく、陸海軍共に、兵数は我等の、倍以上の規模かと」

 答えを聞くと、鳥海は真っ直ぐに直り、軍部に向けこう言った。

「…まぁ、直ぐに南日本と戦争はしないが、ソ米関係の急激な悪化やアジア諸国の介入もあるかも知れん。しっかり準備してくれ。では、宜しく頼む」

 そう言うと、陸海軍委員長と其々握手を交わす。

 その直ぐ後、岩沼にだけ聞こえる様に、

「十分後、書記長室に来てくれ。小野経済委員長も同席する」

 岩沼が軽く頷いたのを見ると、

「では、解散だ」

 と言って、部屋を出た。


 鳥海が部屋を出た後、砂川は岩木に声を掛ける。

「副書記長、この後お時間ありますか?」

「どうした?」

「少し話したい事がございます。そうですな、十分後に又ここで」

 岩木は訳も無く腕時計を見て、分かったとだけ言うと、部屋から去った。






 鳥海が掛けてくれと言うと、二人は少し気後れしつつソファに座る。

 遠野から出された煎茶を軽く飲んで、岩沼が鳥海に問う。

「…で、書記長、私を呼び出した理由は?」

「海軍の軍拡計画、またそれに伴う資金はいくら必要になる?」

「計画はありますが…何故あの場で聞かなかったのですか?」

「保守派が一緒だと騒ぎ立てるかも知れんからな。念には念を入れるだけだ」

 納得した様子で岩沼は手を組み、ゆっくり話し始めた。

「そうですね。主な軍艦なら空母を三隻、戦艦五隻程を、五年で作れれば」

「となると、戦闘機もか」

「そうですね。で、大丈夫そうですか?」

 岩沼は小野に目を向け、回答を促す。

 小野は腕を組んで、短く唸った後、こう切り出した。

「単刀直入に言えば、難しいです。経済委員は

 特に保守派が多く、そのまま通せば厄介な事になるかと」

 それを聞くと、鳥海が少し不満そうに鼻息を鳴らすと、小野にこう告げる。

「小野、君は委員長なんだ。もう少し自覚を持ってくれ」

「しかし、そうは言っても…」

「小野、改革を果たしたいのか果たしたく無いのか、君はどっちなんだ?保守派も抑える覚悟も無しに、就ける仕事では無いんだよ」

 鳥海のその言葉に押されたか、小野はこう返す。

「…失礼しました、書記長。…分かりました、やってみましょう」

「…ありがとう」

「では、失礼します」

 小野がドアから出るのを見て、岩沼が不安を顔に出して問う。

「…良いのですか?あそこまで言って」

「心配無い。優秀な男だ。気が弱い面はあるがね」

 軽く答えて話題に一区切り付け、逆に岩沼に問う。

「先程の軍拡、三年半程でやれと言われたら、

 出来るか?」

「…無茶言ってくれますな」

「…そうか」

「まぁ、予定以上の金と人さえあれば、不可能ではありません…が、そんな直ぐに戦うおつもりですか?」

「さあな」

 軽い冗談を話す様に、岩沼に告げ、軽く笑う。


 鳥海の笑いが、少しだけ重く響いた様な気がした。


 第四話 終

 続く…?





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