内閣組閣

 しとしと降る雨音が、静寂の部屋に響く。

 鳥海は満足気に手元の紙に目をやり、タバコを灰皿に置く。

 その静寂を一瞬破って、ノック音が鳴る。

 入れと短く言うとドアが開き、遠野が入ってくる。

「どうした?」

 遠野の問いかけに、少し声を上擦らせて答える。

「内閣の草案が完成した。少し確認してくれ」

「そうか、早かったな。因みに、もう新委員長には伝えてあるのか?」

「いや、伝えて無い。発表後に改めて面談するつもりだ」

 不安そうに、遠野が問う。

「…大丈夫なのか?」

 少し視線を下に向け、鳥海が答える。

「…さぁ?」

 そこまで言うと、遠野は短くため息を漏らして、鳥海の手元にある書類を取り目を通す。


 一通り目を通すと、遠野は少し顔を曇らせながら言った。

「大丈夫なのか?」

 その問いに、鳥海はニヤリとしながら

「良いんだよ、これで」

 と答えた。

 遠野はまだ何か言いたげだったが、そうかとだけ呟くと、一礼して部屋を出た。


 翌日。

 内閣発表の為、党大会が開かれた。

 議会は、ともすると新書記長選出の時より騒がしかったかもしれない。

 鳥海への興味と不安の視線は、今度は同業者から送られる。

 やがて、鳥海が視線の中、演説場へ上がる。

「今回の党大会にて、我が内閣を発表します。それでは、早速発表しましょう」

 鳥海は一呼吸置くと、少し声を強くして告げる。

「副書記長に、岩木義信いわきよしのぶ君」

 一瞬で議会がざわめきを取り戻す。

 彼は所謂保守派で、今回の書記長選挙でも鳥海の対抗馬だったからだ。

 岩木本人も副書記長になるとは思っていなかったのか、少々驚いた顔を見せる。

 議会のざわめきを止めるともせず、鳥海が続ける。

「…続けます。続いて、外務委員長に…」

 数分の発表で党大会を終了した後、書記長室に向かう。

「遠野」

 鳥海の声に、書類を整理していた遠野が振り向く。

「どうした?」

「各委員長への面談を要請してくれ。3時間後に会議室で行うと」

 遠野は軽く頷き、部屋を出る。

 その様子を見ると、鳥海は意識を暗闇に放り出した。




 慌てて整えた髪で、党本部の会議室に向かう。

 中に入ると、閣僚達が既に待っていた。

「遅くなってすまない。少し所用があって…」

 少し早口で謝罪言い訳すると、外務委員長の田代将康たしろまさやすが笑顔で答える。彼も又改革派で、鳥海が外務委員長を務めていた時に、厚い信頼を得た為彼の後継に抜擢されている。

「大丈夫ですよ。その髪を見れば原因は分かりますから」

 部屋内に笑いが生まれる。

 その笑いの原因も少しだけ乾いた笑いを浮かべると、正面の方を向き、少し咳払いをして話す。

「まぁ、面談に慌てて来るような人間だ。不満を持つ者もいるだろう。しかし、私の内閣に入ったからには、私の夢に協力してもらいたい」

 少し息を吸って、鳥海は続ける。

「私の夢は日本をこの手で甦らせる事だ。その為に、私はこの席に就いたんだ。もう一回言う。頼む、協力してくれ」

 そう言って、閣僚達に頭を下げた。


 数秒の沈黙があったが、ここで経済委員長の小野貞道おのさだみちが口を開く。

「分かりました、書記長。貴方の夢が達成出来る様、財務委員一同、総力を挙げて取り組みましょう」

 その言葉に勢い付いたか、法務委員長の秋田寛重あきたひろしげも話す。

「私も協力しましょう、書記長閣下。貴方の夢を我々に見せて下さい」

 彼等2人は鳥海と共に改革派の中枢で、何方も40代にてこの職委員長に就任した。

 彼等が声を出せば、他の委員長も次々と賛成の声を挙げる。

 鳥海は少し安心したようにため息を出すと、岩木に視線を向ける。

「副書記長は…?」

 岩木はメガネの奥から数秒鳥海の方を見詰めた後、こう切り出した。

「一つお尋ねします。日本を甦らせるとは、日本人民共和国として甦らせるという事で宜しいですね?」

 鳥海は穏やかな笑顔で答える。

「勿論。我が政府以外に日本に国家は存在しません。米帝の支援を受けて自由国日本を自称するアホ共なら居ますが」

 その答えを聞き、一先ず納得したのか岩木が話す。

「…ありがとうございます。では、内閣に協力致しましょう」

 それを聞き、鳥海は強い口調で話す。

「ありがとう。では、日本を奴等から取り返しましょう」


 北からの赤い火は、いずれ日本を温かく包むだろう。


 第3話 終

 続く…?












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