第2話 覚醒の力、初めての一撃

暗闇に潜む気配は、ゴブリンだった。

だが普段の群れよりも数が多い。ざっと見積もって十体はいる。俺は何度も奴らに追い回されてきた。雑魚中の雑魚と蔑まれつつ、俺にとっては命懸けの相手だった。

——昨日までの俺なら、の話だ。

短剣を握る指に力がこもる。軽い。まるで刃のほうから俺の手に馴染んでくるような錯覚すらある。

正面から飛び出してきた一体を見た瞬間、世界が遅くなった。

ゴブリンの振り上げた棍棒、その軌道が残像として鮮明に見える。避けるのは簡単だった。

俺は半歩だけ横へ動き、返す刃で胴を斬り払う。

「ッ……!」

鈍い手応えと同時に、ゴブリンの体が壁に叩きつけられた。いつもなら数回斬りつけても仕留められない相手が、一撃で沈んだ。

驚きで口が乾く。だが、胸の奥にわき上がる感情は——恐怖ではなく、高揚だった。

残りのゴブリンたちが一斉に吠え、群れとなって襲いかかってくる。

俺は前へ踏み込んだ。体が勝手に動く。視界が広く、敵の位置がすべて把握できる。

突っ込んできた一体の首を刎ねる。横からの突きを身をひねってかわし、肘打ちで顎を砕く。

次々と倒れるゴブリン。気づけば俺の呼吸は乱れていない。むしろ体の奥から力があふれて止まらない。

「ははっ……これが、第一次覚醒……!」

笑いがこぼれた。十年分の鬱屈が剥がれ落ち、代わりに全身を駆け巡るのは甘美な快感。

群れの最後の一体が震え、後退りした。俺は短剣を逆手に構え、低く呟く。

「Fランクの俺は……もういない」

一閃。

ゴブリンの断末魔が通路に響き、やがて静寂が戻った。

床に散らばった魔石を拾い集めながら、俺は深呼吸をした。

信じられない。十年間、俺を嘲笑ってきた雑魚モンスターを、こうも容易く屠れる日が来るなんて。

だが、それは始まりに過ぎない。

脳裏に蘇る石碑の言葉。

《進む者のみ、三たび目覚める》

「二度目、三度目の覚醒……」

口にするだけで背筋が粟立つ。

第一次覚醒だけでこれほどの力。なら、三度すべてを果たしたとき、俺はどこまで行ける?

拾い上げた魔石を握りしめ、俺は笑った。

もう荷物持ちでも、草むしり要員でもない。

俺は、自分の意志で進み、戦う探索者だ。

暗闇の奥から、さらに重い気配が近づいてくる。

今度は一体ではない。ずしりと床を揺らす足音、咆哮。

ゴブリンの親玉か、それとも別のモンスターか。

俺は短剣を構え直し、胸の奥で静かに炎を灯した。

これが、覚醒した俺の——初めての本当の戦いだ。

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