第2章 教室という牢獄
第4話
教室は、朝から騒がしかった。誰かが昨日のテレビ番組の話をしていて、別の誰かはスマホを見ながら笑っていた。笑い声は天井にぶつかって、空気を濁らせる。僕は席に座りながら、窓の外を見ていた。空は曇っていた。昨日と同じ、今日と同じ、明日もきっと同じ。
彼女は、いつもの席にいた。教室の隅、最後列の窓際。誰とも話さず、誰にも話しかけられず。まるで、そこだけ時間が止まっているようだった。彼女の周囲には、半径1メートルの沈黙があった。誰もその境界を越えようとしない。越えたら、何かが壊れる気がするから。
担任が入ってきて、出席を取り始める。名前を呼ばれるたびに、誰かが「はい」と答える。その声は、まるで義務のようだった。誰も自分の名前に意味を感じていない。ただ、呼ばれたから返事をする。それだけのこと。
彼女の名前が呼ばれた。彼女は、少しだけ顔を上げて、「はい」と言った。その声は、他の誰よりも小さい。でも、僕にははっきり聞こえた。彼女の声は、誰かに届くためのものではなかった。自分がまだここにいると、自分自身に告げるためのものだった。
僕は、彼女の声を聞いて、なぜか安心した。彼女がここにいることが、僕にとって意味を持ち始めていた。彼女が沈黙の中にいることで、僕は自分の違和感を見つけられる気がした。
教室は、牢獄だと思った。誰もが同じ服を着て、同じ時間に集まり、同じ言葉を使う。違うことをすれば、すぐに目立つ。目立てば、叩かれる。だから、みんな同じふりをする。それが「普通」だと教えられる。
でも、彼女は違った。彼女は「普通」を演じなかった。演じないことで、孤立していた。でも、彼女はそれを恐れていないように見えた。むしろ、孤立を選んでいるようだった。
僕は、彼女の隣の席に座りたいと思った。でも、その一歩が、教室の空気を変えてしまう気がして、動けなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます