第3話

しばらく、僕らは並んで歩いた。言葉は少なかった。でも、沈黙が苦ではなかった。むしろ、言葉がないことで、彼女の存在がより鮮明に感じられた。


「ねえ、君はさ。何かを変えたいと思ったこと、ある?」


彼女の問いは、唐突だった。でも、僕の中にはずっとあった問いだった。変えたいと思ったことはある。でも、変えられると思ったことはない。そういう諦めが、僕の中に根を張っていた。


「ある。でも、変えられると思ったことはない。」


僕の答えに、彼女は少しだけ笑った。


「変えられるかどうかじゃない。変えたいと思うことが、もう反抗なんだよ。」


その言葉が、僕の中で何かを揺らした。まるで、見えない檻にヒビが入ったような感覚だった。僕は、彼女の言葉を反芻した。


「君は、反抗してるの?」


「してるよ。毎日。」


彼女はそう言って、空を見上げた。灰色の空。雲は低く、重たく垂れ込めていた。まるで、世界が僕らの存在を押し潰そうとしているかのようだった。


「誰にも気づかれなくても、叫ぶことはできる。声を出さなくても、叫ぶことはできる。」


彼女の言葉は、静かだった。でも、確かに叫んでいた。僕はその叫びを聞いた。誰にも届かないかもしれない。でも、僕には届いた。


その瞬間、僕は思った。この街の静けさは、彼女の声を聞くためにあるのかもしれない、と。

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