第2話
彼女はスマホをポケットにしまうと、何事もなかったかのように歩き出した。僕は数歩遅れて、その後を追った。並んで歩くには、少し距離があった。でも、離れすぎてはいなかった。
「君、同じ学校だよね。」
彼女は振り返らずに言った。声は風に乗って、僕の耳に届いた。
「うん。たぶん、同じクラス。」
「たぶん、って何。」
「……君、あんまり話さないから。」
彼女は立ち止まった。振り返ると、目が合った。真正面から見られるのは、少し怖かった。彼女の目は、何かを見抜くような鋭さがあった。でも、それは攻撃ではなく、観察だった。世界を、そして自分を、冷静に見ている目。
「話さないんじゃない。話す必要がないだけ。」
その言葉に、僕は返す言葉を探した。でも、見つからなかった。彼女はまた歩き出した。今度は、僕もすぐに歩き出した。
「朝の街って、静かすぎて怖いよね。」
彼女が言った。僕は「うん」とだけ答えた。怖いのは、街じゃない。静けさの中で、自分の声が聞こえてしまうことだ。誰もいない空間では、言い訳もできない。自分の思考が、壁に反響して戻ってくる。
「でも、静かな方が本音が聞こえる。」
彼女の言葉は、まるで自分自身に向けたもののようだった。僕は、彼女が何を聞いているのかを知りたくなった。
「本音って、誰の?」
「自分の。」
彼女はそう言って、少しだけ笑った。その笑顔は、痛みを知っている人の笑顔だった。誰かに見せるためのものではなく、自分がまだ壊れていないことを確認するための笑顔。
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