忘れられない記憶(思い出)

千里が「じゃあ私も帰るね」と言い、背を向けて歩き出す。

その後ろ姿を、快里はただ黙って見送っていた。


街灯の明かりが夜道を淡く照らし、千里の影が少しずつ遠ざかっていく。

快里はその背中を見つめながら、ふと過去の記憶が蘇る。


高校時代。

いつも二人でふざけあって、時には喧嘩もした。

お互い言いたいことを言い合える関係で、気を使わずにいられた。

一緒に登下校をしていると、周りから「付き合ってるの?」と聞かれても、

二人そろって「ちがうよ」と笑って否定した。

素直になれないまま、それでも隣にいるのが当たり前で、心地よかった。


だが、あの日・・・三年の二学期。

千里は突然、学校に来なくなった。

連絡も取れず、心配になって家を訪ねたときには、

そこはもう、誰も住んでいない空き家になっていた。


担任に尋ねても「詳しいことは分からない」と言われ、

快里は途方に暮れた。

それでも何日も、何週間も探し続けた。

警察に相談しようとしたこともあったが、

「もう忘れなさい」と親に止められた。


それでも、忘れられるわけがなかった。


あの日から快里の中には、ぽっかりと穴が空いたままだ。

大切なものを突然奪われたような喪失感。

そして、何もできなかった自分への悔しさ。


だから今、千里の後ろ姿を見つめながら、

胸の奥に刺さったその痛みが、再び疼いていた。

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