第14話 まさかのパターン
それから僕は、どこか怪訝な顔をしている聖女様を誤魔化すように笑いながら、
「そ、それでは失礼いたします」
とその場を去ろうとした。
これ以上ナツミちゃんと同じ空間にいると、当然のごとくボロが出そうだからである。
だが――
「モモちゃんが男性、それもタカフミくんのような美少年を雇うという心境の変化、気になります。わたしはぜひ、タカフミくんともお茶会を共にしたいですね」
突然、ナツミちゃんがとんでもないことを言い出した。
「……?」
聖女様はおそらく非常にドギマギとしているだろうが、さすがは貴族相手に渡り合っている聖女様だけはあり、そうした様子はほぼ出さず、いつものクーデレ聖女の仮面を被ったまま返事をする。
「ナツミちゃん。タカフミしゃ……タカフミはわたしの召使だけど、まだ新米。ナツミちゃんみたいな偉い人との席に出すのは難しい」
「タカフミしゃま」などと口走りそうになっているのに目を瞑れば、合格点の振る舞いだ。流石に堕ちても聖女といえる。
「そうですか? 見た所礼儀作法もしっかりしていますし、問題ないでしょう。
そう呼ばれた瞬間、ぼくの背筋にゾクゾクと来るような雷鳴が走って、その電流に神経が操られるようにして、ぼくは気づけばこう返事をしていた。
「は、はい、ナツミ、さま……」
それは脊髄レベルで本能に刻まれた上位者への服従――
「おやおや、ナツミさま、なんて同い年くらいの男の子に呼ばれると新鮮ですね? でも、わたしのことは、ナツミちゃん、でいいですよ?」
「ちょ、それは、さすがにダメ、ナツミちゃん……」
「モモちゃんだってわたしのことをナツミちゃんと呼んでいるわけですから、その召使がナツミちゃんと呼んだ所でなんの問題もないですよね?」
いや、あるだろ。ありまくるだろ。
そう思うが、結局何も言えず、モモの出方を伺うが……
「まあナツミちゃんが、そこまで言うなら」
おいいいい。そこは超えちゃいけない一線じゃなかったのか、モモ?
「モモちゃん、ありがとうございますね? さてさて、それじゃあ早速タカフミくんにはわたしの横に座ってもらいましょうか」
「へ?」
今、モモとナツミちゃんは2人座りのソファーが向かい合って置かれた間にテーブルを挟んでいる。ぼくが座るとしたら、モモの隣かナツミちゃんの隣しかないわけだが……
「モモちゃんとタカフミくんはもう仲が良いみたいですから、ここは新たに関係を結ぶわたしとタカフミくんが隣に座って友好を深めるのがよいでしょう?」
通常であれば明らかに逆らうべき提案に思える。
だが、今のナツミちゃんは公爵家の当主だという。
一介の召使風情が逆らうなど、到底許されることではない。
だが、結局のところそうした思考はぼくの中で用意された建前に過ぎず――
ぼくはナツミちゃんの男を魅了するような可愛すぎる声と喋り方にすでにすっかり骨抜きにされて、「はい」しか言えない状態になっていたのである――
「は、はい……わかりました……」
モモは当然ながらなにか言いたげにしていたが、ナツミの希望を無下にするのもホストとして望ましくないと思ったか、結局「ナツミちゃんは仕方がない子」といって受け入れていた。
「やったっ。それじゃあ、隣へどうぞぉ」
「し、失礼します……」
ぼくはテーブルを挟んで斜め前にモモ、テーブルのこちら側で左側にナツミちゃんという状態になる。テーブルは結構高さがあり、ぼくやナツミちゃんの腰や手などはモモからは見えない。
それをいいことに、ナツミちゃんはさり気なくぼくの左手を右手で握り――
自分のふとももの上にぼくの左手のひらを置いてきた……!
「ちょ、ちょ……!」
思わずそんな声が出るが――
接触は突然だったが、「ナツミちゃんが何を考えているのか」ほどぼくにとって気になるものもない。
このナツミちゃんならではの小悪魔的な誘惑は、チャンスでもある。
そう思って、流れ込んでくるナツミちゃんの心の声に集中するが――
(さてさて、タカフミくんはどんな面白い心の声をしてますかね――へ?)
思わず、ナツミちゃんの方をまっすぐに向いてその可憐過ぎる顔立ちを正面から見つめてしまった。
ナツミちゃんも、真顔のまま、ぼくと見つめ合う。
「あ、あの、なんでふたりとも、そんな顔で見つめ合ってるの?」
モモが不思議そうな顔をしているが――
(これ、聞こえてます?)
(聞こえてるね)
(もしかして、タカフミくんも?)
(これは、まさか……)
((ふたりとも心が読めるパターンのやつっ……!!))
そこでぼくは目まぐるしく思考を開始してしまった。
(な、ナツミちゃんがぼくの心を読める? それはもしかすると最悪の悪夢じゃないかっ? ぼくがナツミちゃんのことを全然忘れられてないのも、いまこういうこと考えちゃってるのも、全部全部筒抜けってことじゃないか……!?)
それは、咄嗟に思考するのを止められなかったぼくの悪手だった。
こんな心の声を見逃すほど、ナツミちゃんという女の子は甘い人物ではない。
(ふぅん……へぇ……タカフミくんは、わたしのこと忘れられてないんですね? 忘れられない女の子の太ももに手のひらが乗ってる気分はいかがですか?)
(う、嬉しいに決まってるけどっ! ってこれも読まれてるのかっ! や、やりにくい……!)
(わたしも嬉しいですよ? タカフミくんはわたしの前世の人生でも一番のお気に入りでしたからね)
(お気に入りなのは玩具としてだろうが!)
(いえいえ、タカフミくんのことを玩具なんて思ったことはないですよ。あえていうなら……
(ぺ、ペット……なんで、なんでこんなひどいこと言われてるのに興奮しちゃうんだぼくは……ってダメだ、これも読まれてるんだって……)
(ふふふ、もともとタカフミくんの考えてることなんてわたしはお見通しでしたけど、こうして声として聞こえると、なんだか面白いですね?)
そこで、モモが、我慢できない、といった様子で、こういった。
「ちょ、ちょっと、二人とも、なんで無言で見つめ合ってるの? なんかタカフミしゃ……タカフミの表情がぐるぐる変わってるし……どういう……」
ぼくは、さすがにまずいと思って、平常心を取り戻すため、ひとまずナツミちゃんのふとももから手を離そうとするが――
(は、離せない……! 感触と相手が魅惑的すぎて、離せない……! く、くそ、ぼくが童貞でさえなければ……!)
そんなぼくを見つめて、にこっと可愛らしく微笑んだナツミちゃんは、こんな心の声を発してきた。
(わたし、前世一番の心残りが、タカフミくんとエッチしてあげればよかったなって事だったんですよ)
「ぶふぅっ……!」
あ、あまりにクリティカルヒットすぎて、吹き出してしまった。
(そ、そんな、馬鹿な! 本当に? 本当に、あのナツミちゃんと、ぼくがエッチできる可能性が微粒子レベルでもあったというのか!? そんな馬鹿な!? 宝くじの1等に当たるより遥かに困難で遥かに嬉しいんだが!?)
そんなぼくを見つめて、ナツミちゃんはペロッと舌を出した。
(冗談ですけどね?)
(くそがっ……!!)
その時には、ぼくは、早くも気付いていた。
もともと前世で同じ条件で勝てなかった相手に、今世、またしても同じ条件で勝てる道理などないという真理に……!
結局その後のお茶会は、終始地獄のような時間が続いたのだった……
そして――
(そうだ、ちょっとばかりわがままを聞いてもらいましたから、お詫びに今度デートしてあげますよ。次の日曜日に、わたしのお屋敷に来てくださいね。約束ですよ?)
そんなさらなる約束された
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よければこちらもお楽しみください。
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