第8話


 ジェラルド様はアーノルド殿下の一つ年下の青年だ。


 二人は学年こそ違うものの同じ魔法学園に通い、ジェラルド様は学園きっての魔法の才能の持ち主でもあった。


 ただ、そんな優れた才能を持っていながら放浪癖……とまではいかないものの「ふらっと突然と姿を消す」という癖の様なものがあり「この癖がなければ国王にふさわしい」と言われる程の実力者ではあった。


 そんな彼はソフィアに一目置いており、兄の論文を書いたのはソフィアだという事も見抜いている。


 ただ、それをあえて公言していないのは偏にソフィアの事を思っての事だった。


 それに「仮にそんな事を言ったところで自分のプラスになってもソフィアのプラスになる訳ではない。それならば言う必要もない」とジェラルド様は判断したのである。


 なんだかんだで損得勘定で生きている辺りも国王の器にふさわしいのだが、当の本人はあまり興味がなく、野心家な割に実力が伴っていないアーノルド殿下を足して割れれば……というのが周囲の反応だった。


「……」


 そんな事を今更思い出すのはやはり未練があるからなのだろうか。


 しかし、いくらソフィアに未練があろうともあのまま国に留まっていては何が起きていたか分かったものではない。


 国王陛下が戻られる前にきっとアーノルド殿下はあの手この手でソフィアを始末していた可能性は高かったからだ。


 当然、それはソフィアも分かっていた。だかこそこうして国を出たのである。


 それにしても……風魔法を使って邪魔な草や枝などを切りたいと思ってしまう程ただ歩くだけでも時間がかかる。


 しかし、下手に魔法を使った事で魔物に襲われては逆に疲れてしまう。


「さて、どうしましょうか」


 ソフィアは八方塞がりとまでいかないこの状況を絶望するのではなく、むしろ楽しみながら進んでいた。


「……」


 そして、それと同時にそんな彼女の姿を見下ろす「影」があった事をソフィアは知る由もなかった。


 ちなみに、ソフィアは「いずれ国王陛下の耳にも届くだろう」なんて悠長な事を考えていたが、実はパーティーの途中で既に国王陛下の耳にも届いていた。


 そしてそれと同時にソフィアが国を離れようとしている動くに関して事も知らされていた。


「何っ!」


 これを聞いて慌てた国王陛下は本来なら次の日に国に戻る手はずになっていたところを急遽その日の内に戻ろうと馬車を走らせた。


 それだけ「聖女が国から離れる」という事が国にとって大きな痛手。損失になるという事を意味するからだ。


 しかし、これをアーノルド殿下だけでなく、自己評価が低いソフィアも気が付いてはいなかった。


 そして、急いで国に戻りソフィアの元に使いを出した時にはもう既にホワイト家はもぬけの殻となっており、国中を調べた。


 しかし、ソフィアが船に乗った時間が遅かった事もあり、なかなか有力な情報を得られず数日経ってからようやく「船に乗って国を出た」という事を知ったのであった。

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