第12話


「……何か言いたげな表情ですね」

「ああ。あんた、この船に何をした」


 ギロリとソフィアの方を睨みつけているが、状況的にソフィアの方が優勢なので全く怖くない。


 きっと、彼らの思い描いた党降りであれば彼の睨みも恐怖心を煽るには効果的だったかも知れないが、今の状況ではむしろ強がりにしか見えないから不思議だ。


「先程も言った通り『船に命を吹き込みました』この言葉の通りです」

「そんな訳あるか。船が自分の意思を持つわけないだろ」


 随分と冷静な判断が出来る。チンピラたちにとって今の状況は「未知との遭遇」と言っても差し支えないはずだ。それでもこうして他の人たちと同じようにただ混乱する訳でもなく、しっかりと状況を見られるのはリーダーとして必要な素質だ。


 それだけに、残念だとも思ってしまう。


 ソフィアは小さく「はぁ」と息を吐き、暴れ回っている枝たちの方へと視線を向けた。


「船の柱を中心に緑の魔法をかけました」

「緑の魔法? じゃあこれは魔法の影響か!?」


 驚きの表情で対処に追われているチンピラたちを一歩引いてから見上げ、ソフィアは「はい」と頷いた。


「簡単に言うと、植物の成長を促進させる魔法です。もちろん、成長している間は生き物の様に好き勝手に枝などが伸びますが、継続するものではありませんが」

「つ、つまり時間が経てば止まるんだな?」


「ええ。ですが、好き勝手に生える枝たちの動きは未知数なので、とりあえず逃げてください」

「はっ!? じゃあお前には……」


 リーダーの疑問に、ソフィアは首を左右に振って否定した。


 そもそも、ソフィアがかけたのはあくまで「植物の成長を促進させる」という魔法だ。そこに「魔法の使用者を攻撃しない」などと言った制約はつけられない。


 それに、緑の魔法は大体が「自然」に関するものだ。そこに人間の思想など反映させる事などあってはならないのだ。


 つまり、今も好き勝手に暴れている……いや、伸び続けている枝たちがソフィアを攻撃する可能性はチンピラたちと同じくらいあった。


 しかし……。


「自分の身を守るくらいの術は当然心得ています。ですが、あなた方にそれがありますか? 魔法自体見るのも初めてだと言うのに」

「お前が仕掛けたんだろうが!」


 怒り狂った様子のリーダーに、ソフィアは「最初に武器を取ったはどちらですか」と真顔で彼に近づいた。


 彼も魔法道具を持っていたが、ソフィアが近づいた瞬間。それを彼女に向けた……が、すぐに枝に持って行かれてしまった。


 元々、ソフィアがいたのは枝を生やし続けている柱の隣。この柱からしてみれば、今のリーダーの行動は自分に攻撃が向いた……そう判断した……のかも知れない。


「……」

「――諦めてください。自然の前で人は何も出来ないのですから」


 魔法道具を取り上げられ呆然としているリーダーに、ソフィアはそう諭すように言った瞬間……リーダーはグッと拳を握りしめた。


「……」


 それはソフィアから分かり、そしてソフィアの顔面をめがけてその力がこもった拳を放った……。

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