第11話


 つまり、いくら道具が優れていようと使用者が素人。優秀でなければ文字通り「宝の持ち腐れ」というわけだ。


 その証拠に、先程からソフィアの方からは何もしかけていないにも関わらず、道具を持っている彼らは何もしてこない。


 これで「ただタイミングを見計らっていただけだ」と言われても何も説得力はなく、ただ縮こまっている様にしかソフィアには見えない。


「……はぁ」


 このまま時間が過ぎてもどの道ホゼピュタ国には着くはずだ。


 なぜなら、この船には最初からホゼピュタ国に着くよう航路をソフィアが魔法でこの船に乗った時点で引いたからだ。


 ソフィア自身は海を渡るのはこれが初めてだ。


 もちろん、天気が大荒れたり地図では分からない障害物などがあればこの魔法を解かない限り船は進み続けてしまうのだが、このくらいの風で今のままであれば問題はないだろう。


 要するに、こうしていがみ合っているだけでも船は目的地に着く事になっている……という訳だ。


 しかし、そうは言ってもこのまま見合っているだけで時間が過ぎるとは到底思えない。でも、正直「こちら側から『攻撃』を仕掛ける」という事もあまりしたくない。


 そんな事をして後々「元聖女から攻撃された!」なんて噂を立てられるのも面倒ではある。


 もう、関係ないとは言え。


 とりあえずは好戦的……を装いつつもどうにも腰が引けてしまっているチンピラたちの戦意を削いで武器を捨てさせる方法……。


「――うん。これが一番いい」


 ソフィアは小さく呟いてちょうど隣にあった船の中心となる大きな柱にそっと手を置いた。


「あ!? 何一人でブツブツ言ってんだ! 気持ち悪いんだよ!」


 リーダー格の男性がソフィアに大声を出しながら剣の魔法道具で攻撃を飛ばそうとしたのだが……。


「あ?」


 攻撃を飛んでこず、それどころか持っていたはずの道具が彼の手から忽然とその姿を消してしまった。


 何が起きたか分からず辺りをキョロキョロと見渡す男性の姿があまりにも滑稽で……ソフィアは笑いを堪えるので必死だった。


「――お前! 何をしたんだ!」


 当然、男性からは笑いを堪えているソフィアの姿は見えている。それに、今の状況からしてソフィアが何かした……と男性は判断したのだろう。


「何を……。そうですね、船に命を吹き込みました」

「……は?」

「何、言ってんだ?」


 ソフィアの発言に、チンピラたちは全員揃いも揃ってキョトンと間抜けな顔でこちらを見ている。


「何がおかしい。おかしいのはお前の方だろ!」

「訳の分かんねぇ事言いやがって!」


 もちろん、このソフィアの言葉はあくまで比喩の表現だ。本当に船が命。意思を持つはずはない。


 しかし、魔法について何も知らない彼らにとってはきっとそう見えるだろう……とソフィアは思って口にした。


 ソフィアは我ながらこの状況を楽しんでいる事に内心笑ってしまったのだが、どうやらそれが少しだけ顔に出てしまっていた。


「ごめんなさい。でも、あながち間違いではないかなと……」

「は?」


 ソフィアがそう言って彼らの後ろを指すと……。


「な、なんだ……これ!」


 木の枝の様な物がソフィアの隣にある柱から突然生え始めた。


「う、うわぁああ!」


 チンピラの一人がその異様な光景に恐れをなし、大声と共にすぐさま魔法道具を向けたが、それと同時に枝がその道具を簡単に取り上げてしまった。


「な、なんだよこいつはぁ!」

「ほ、本当に生きているのか?」

「そんな訳あるか!」


 チンピラたちは目の前で起きている現象に恐れをなしたのか何やら言い争いを始めたが、まるで生きている様に動く枝たちにチンピラたちの意識は完全にそちらに向いている。


「……」


 しかし、そんな中でたった一人。リーダーだけはソフィアをジッと見つめていた。それはまるで「何をした」と言わんばかりの表情だった。

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