第6話
「……」
しかし、朝であれば王都の朝市同様に魚などを売っている市場がたくさん出て活気に満ち溢れているはずなのだが、今は時間が時間なだけに静まり返っている。
「うーん……」
正直、頭では分かりきってはいた。それでも「とりあえず家から離れないと」という気持ちが先走ってしまったという自覚のはある。
それと同時に「さっきの無料と言っていた馬車に乗ればひょっとしたら船に間に合っていたかも知れない」とも思った。
いや、それこそ「転移魔法」を使えば……とも考えたが、実はソフィアは漁港の方にあまり来た事がなかった。
なぜなら海の方には聖女の力を必要とせずに加護が施されていると聞いていたからである。
だからこそ「結界を張る必要もそもそも行く必要すらなし」とされていた。
ソフィアの中での漁港の記憶はホワイト侯爵夫妻が生きていた頃。それこそ聖女と判明してホワイト侯爵家に迎え入れられたばかりの頃まで遡る必要がある。
それでも何となくの感覚で転移をする事も可能ではあるのだが、万が一にでも家屋やそれこそ海に上に転移してしまう危険性と膨大な魔力の消費なども踏まえて天秤をかけると……どうしても行動に移せなかった。
しかし、やはり「ぼったくり」に遭う可能性は否定は出来ない。
確か、この漁港で魚を仕入れてそれを王都の市場で売っている店主から「他国に向かう船が着く船着き場」があると言う話を聞いた事がある。
そもそも「聖女」という立場もあって外の国に行く事になるなんて思ってもいなかたのでその時は相槌を打ちつつただ話半分で聞いていた。
だけど、今となっては「もっと詳しく聞いておけば良かった」とかなり後悔している。
でも、今更後悔したところでどうしようもない。
「?」
気を取り直して漁港を散策していると、何やら看板の様な物が目に入った。
「これって……」
そこには「ホゼピュタ国行き」という文字と共に書かれており、どうやらここから船が出ている様だ。
「じゃあここで待っていればホゼピュタ国に向かうって事?」
もちろんメイドも使用人などの従者を付けている訳ではないのでこれはただの独り言だ。
それでも改めて口に出さないと不安になってしまう。
元々なんだかんだ「聖女」と言っても先代がいなくなってからは一人でいる事が多かったソフィアだが、その周辺にはいつも誰かしら人がいた。
しかし、今のソフィアの周りには知り合いは誰もいない。これこそ本当の意味での「独り」だ。不安にならないはずがない。
しかも今のソフィアは「国外追放」と言い渡された直後という特殊な状況だ。
やはり「国外追放」を言い渡された後となると、どうしても周りの視線は気になってしまうものである。
それこそ「もう国外追放になった事が広まっているのではないか」と考えると……どうしても気が気ではない。
でも、普通に考えてあのパーティーでの出来事が一日も経たずに国中に広まるとは本来であればあり得ない。
しかし、その内容が「聖女が実は偽物だった」となれば前代未聞の話であるのは確かだ。
それを考えると、ひょっとしたら内容が内容なだけにすぐさま広まっている可能性は正直否定は出来ない。
それくらいの内容だ。
そして、それと同時に「きっと陛下やジェラルド様の耳にはもう既に入っている事だろう」とも思う。
「きっと国が荒れるでしょうね」
ついさっきまで不安でいっぱいだったにも関わらずもはや他人事の様に思うのは、きっと現実逃避の一つだろう。
でも、多少は現実逃避していてもこうして辺りをキョロキョロと警戒して見渡してしまうのはやはり不安だから。
でも、客観的に見てこうしている自分は「不審者」そのものではないだろうかとも思ってしまうから笑える。
「はぁ……」
こうして色々な事や感情が頭をよぎっては消え、深いため息が出てしまって……ふと外を見ていると、不意にソフィアの近くに一隻の船が着いた。
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