第7話


「あ、あの。この船って……ホゼピュタ国に行きますか?」


 まさかこんな夜遅くに船がここに来るとは思ってもいなかった。なぜなら、船着場にはソフィア以外に誰もいなかったからだ。


「あ? あー、そうだな」


 船員と思しき男性はソフィアの質問を適当に答える。


「?」


 この態度にソフィアは一瞬違和感を感じた。しかし、これが一般的。普通の態度なのかも知れない。


 それに、ソフィアが乗った事はない。


 今となっては不思議な話だが、殿下から「貴様は聖女なのだからこの国から出る事は許されていない」などなんだの言われ、仕方なくそれに従った。


 それでも知識としてある。しかし、それは上級貴族御用達の船についてだった。


 そうした船は船員も使用人と同じような教育をされている為、ここまでぶっきらぼうな態度はとるなんて事はありえない。


 しかし、そもそも庶民はお金も少ないため、漁に出る船に同乗させてもらう事もあると聞く。


 それならばむしろこの態度が「普通」なのかも知れない。


 それに、今こうして船がいるのも「真夜中に出て早朝に目的地に着きたい」という人向けと考えれば合点がいく。


 それこそ漁などは朝が早く、日も出ていないタイミングで出る事もあると言う。


 そう考えれば数自体は多くはないものの「一緒に乗せてもらう」という需要はあるのだろう。


 何はともあれ「これこそ渡りに船というやつかな?」なんてこの時のソフィアは悠長な事を考えていた。


「あの、一人なのですけれど。乗せてもらえますか?」

「お? ああ、いいぜ。乗りな」


「ありがとうございます!」

「足元気を付けな」


 船員に促されるまま私は意気揚々と船に乗り込んだ……のだけど、そう簡単に事が進むはずがないという事をソフィアはこの後すぐに思い知る事になる――。


◆   ◆   ◆   ◆   ◆


「あ、ありがとうございます」


 船員の気遣いにお礼を言いながらに乗り込んだ瞬間、足元を気にしていた事により何やら頭上が暗くなっている事に気が付き、ソフィアは咄嗟に横にズレた。


「な、何!?」


 横にズレた瞬間。すぐに何かが割れる様な音と破片が飛び散っている事に気が付きいた。


 そして思わずそちらの方に視線を向け、割れたのがガラス瓶だと気が付き前を向くと……。


 そこには先程の船員の周りに既に野蛮そうな男たちがおり、ソフィアは取り囲まれた。


「へへへ」

「なかなかの上玉じゃねぇか」


「……」


 男たちの言動は結界を確認しに行った時にときたま遭遇する山賊のそれと同等で、この状況が明らかにおかしい事はソフィアもすぐ分かった。


 そして、それと同時に自分が乗った船が「普通」ではないという事を悟った。


「まぁそう慌てるんじゃねぇよ」


 そして、奥からこの船のリーダー格と思われる人物が現れ、ソフィアを一瞥する。


「全く。こんな分かりやすい罠にひっかかるなんて世間知らずなお嬢様がいたもんだぜ」


 完全にソフィアをバカにしているのは鼻で笑っている時点で分かった。


「……」


 それとほぼ同じタイミングでいかりが上げられ、船が動き出したのが体感で分かった。


 しかし、こんな絶体絶命とも呼べる状況の中。


 ソフィアの脳裏には「世間知らず」という言葉が何度もループしていた。


 そして、今この言葉を発したのが殿下ではないにも関わらず、ソフィアの頭の中で先程殿下の姿が言葉と共に重なり……。


「フ、フフ……ハハハ!」


 ソフィアは……思わず大声で笑い出した。正直、今までこんなに大きな声で笑った事がないほどに……笑ってしまった。

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