第18章「封じられる声」

──帝国・戦術研究院。

レオニス・ヴァルグレイは、命令文の束を前に立ち尽くしていた。

語りの拡散は、秩序を脅かすと判断された。

精霊場の揺らぎ、兵士の剣の停止、民衆の沈黙の変化。

それらは、構造の安定を崩す兆候とされた。


命令は明確だった。

ユグ・サリオンの語りを封じよ。

精霊場への接触を遮断せよ。

語りの火を、沈黙の中に戻せ。


──レオニスは、紙の端を指でなぞった。

その感触は冷たく、乾いていた。

彼は、かつて剣を握った理由を思い出していた。

守るためだった。

誰かの声を、誰かの命を。

だが、守れなかった。


語りは、記憶に触れる。

それは、封じたはずの痛みに火を灯す。

それは、沈黙の奥に届く。


(語りを止めることは、記憶を閉ざすことか。

それとも、秩序を守ることか)


彼は、答えを持っていなかった。

沈黙の中で、問いだけが残っていた。


──帝国・中央戦略局。

遮断命令は発令された。

精霊場の接続を切り、語りの波長を遮る。

それは、構造の防衛だった。

だが、精霊たちは揺れていた。

命令よりも、声に応えていた。


──紅蓮王国・語りの座。

ユグ・サリオンは、風の中に立っていた。

肩のルクスが、静かに震えていた。

彼は、語るべきか、沈黙すべきかを迷っていた。


「誰かが、語ることを禁じても。

誰かが、沈黙を強いても。

それでも、語りは残る。

それは、記憶の奥に灯る火だから」


──帝国・構造設計室。

遮断命令は数式として完成していた。

だが、場は応答を拒んだ。

精霊は、命令を越えて揺れていた。


──レオニスは、命令文を手にしたまま、動かなかった。

彼の沈黙は、語りに触れていた。

それは、かつて守れなかった声に似ていた。

それは、戦場で失ったものの残響だった。


(語りは、誰かの痛みに触れる。

それは、剣では守れないものだ。

それでも、語りを止めるのか)


彼は、紙を見つめた。

その文字は、命令だった。

だが、彼の記憶は、命令に従っていなかった。


──帝国・第六戦術区。

精霊たちは、命令を忘れていた。

彼らは、語りに耳を傾けていた。

それは、構造の崩壊ではなかった。

それは、再定義の始まりだった。


──レオニスは、命令文をそっと机に置いた。

破ることも、従うこともせず。

ただ、沈黙の中で選んだ。

語りを止めないことを。


| 命令は、火を閉じ込めようとした。

| だが、語りは、沈黙の奥に残った。

| 精霊は、遮断を越えて、記憶に応えた。

| 誰かの選択が、風を呼び戻したとき、

| 世界は、再び揺れ始める。

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