第14章「語り、シュヴィルの沈黙に届く」

──帝国・戦術研究院。

記録映像は停止していた。

語りの火が兵士の剣を止め、民の記憶に触れたその後、

シュヴィル・カイネスは端末の光を見つめていた。

指は動いていたが、思考は別の場所にあった。


語りは、構造を逸脱していた。

精霊場の反応は、設計の予測を超えていた。

数値は揺らぎ、命令系は沈黙した。

それでも、語りは届いていた。


──なぜ、届く。

構造の外にあるものが、なぜ精霊場に触れる。

語りは、命令ではない。

語りは、記憶に触れる。

それは、設計できない。


──あれは、いつの記憶だったか。

まだ帝国に入る前。

私は、構造を学ぶために都市の研究院にいた。

父は技術者だった。

母は、静かな人だった。

彼女はよく、窓辺で詩を読んでいた。


「言葉は、形にならないものを運ぶのよ」

そう言って、彼女はページをめくっていた。

私は、その意味がわからなかった。

形にならないものは、構造に含まれない。

だから、無視していた。


──母は、語っていたのか。

あれは語りだったのか。

私は、構造の中に逃げた。

語りのような曖昧なものを拒絶した。

でも、今、語りが届いている。

構造の外から、精霊場に。


──語りは、記憶に触れる。

それは、数式では表せない。

痛み。

喪失。

沈黙。

それらは、構造では処理できない。


私は、構造を信じていた。

構造は、揺らがない。

構造は、命令を守る。

でも、語りは、構造を揺らす。

それは、兵士の剣を止めた。

それは、民の記憶を呼び起こした。


──私は、語りを拒絶していた。

それは、母の声に似ていたから。

それは、私が置き去りにしたものだったから。


語りは、風に乗る。

誰に届くかは、誰にもわからない。

でも、届いた。

私の沈黙に。


──私は、語っていいのか。

構造の外にあるものを、認めていいのか。

母の言葉を、もう一度思い出してもいいのか。


「言葉は、形にならないものを運ぶのよ」

その意味が、今なら少しだけわかる気がする。

語りは、形にならないものを運ぶ。

それは、記憶。

それは、痛み。

それは、沈黙の奥にある火。


──私は、構造を設計してきた。

でも、語りは設計できない。

語りは、揺らぎだ。

語りは、選択だ。

語りは、沈黙の中に灯る火。


私は、端末を閉じた。

その手は、少しだけ震えていた。

語りが、私の沈黙に届いた。

だから、私は考える。

語るべきか。

沈黙すべきか。

それは、構造では決められない。


──紅蓮王国・語りの座。

ユグ・サリオンは遠くを見つめていた。

風が吹き、ルクスが肩で揺れていた。

彼は語りの火が、誰かの沈黙に届いたことを感じていた。


(語りは、届いた。

それは、構造ではなく、記憶に。

誰かの沈黙に)


| 語り、シュヴィルの沈黙に届く。

| 火は、記憶に宿り、設計を越えた。

| 精霊は、数式を離れ、心に灯った。

| まだ、誰も知らない。

| この火が、世界を変える日が来ることを。

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