第13章「語り、ミルフィの沈黙に届く」

──帝国・戦術研究院。

記録映像は止まっていた。

語りの火が兵士の剣を止めたその瞬間から、ミルフィ・エルナは沈黙していた。

彼女は記録紙に指を添えたまま、目を閉じていた。

その瞼の裏に、語りが届いていた。


語りは、風のようだった。

冷たくもなく、熱くもなく。

ただ、静かに、記憶の奥に触れてくる。


──あれは、いつの記憶だっただろう。

まだ帝国に拾われる前。

名もなき集落。

母は病に伏し、父は戦場に消えた。

私は、幼い弟を抱いていた。

夜の風が、窓の隙間から入り込んでいた。


あの夜、誰かが語っていた。

遠くの丘の上か、隣の家の中か。

声は届かないのに、言葉だけが風に乗っていた。


「痛みは、誰かに届くと、少しだけ軽くなる。

だから、語っていい。

誰も聞いていなくても、語っていい」


私は、その言葉を覚えていた。

誰の声だったかは、もう思い出せない。

でも、その語りが、私の沈黙の奥に灯っていた。


──私は、なぜ語らなかったのだろう。

帝国に拾われてから、私は沈黙を選んだ。

構造の中で、語ることは不要だった。

記録と命令があれば、言葉はいらなかった。


でも、ユグ・サリオンの語りは違った。

彼の語りは、構造の外にあった。

痛みに触れていた。

記憶に触れていた。

私が封じたはずのものに、触れていた。


──語りは、火だ。

でも、火は風に乗る。

誰に届くかは、誰にもわからない。

それでも、届いた。

私の沈黙に。


私は、語りを聞いたことがある。

ずっと昔、誰かが風に語っていた。

その語りが、私の沈黙の中に残っていた。


──私は、語っていいのだろうか。

誰かのためにではなく、私自身のために。

痛みを分け合うために。

語りは、命令ではない。

語りは、祈りでもない。

語りは、沈黙の奥にある火。


私は、記録紙をそっと閉じた。

その手は、少しだけ震えていた。

語りが、私の沈黙に届いた。

だから、私は語る。

誰かのためにではなく、私自身のために。


──紅蓮王国・語りの座。

ユグ・サリオンは遠くを見つめていた。

風が吹き、ルクスが肩で揺れていた。

彼は語りの火が、誰かの沈黙に届いたことを感じていた。


(語りは、届いた。

それは、構造ではなく、記憶に。

誰かの沈黙に)


| 語り、ミルフィの沈黙に届く。

| 火は、記憶に宿り、祈りに触れた。

| 精霊は、構造を越え、心に灯った。

| まだ、誰も知らない。

| この火が、世界を変える日が来ることを。

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