第7章「六星の残火、設計完了」

紅蓮王国・戦術局地下書庫。

ユグ・サリオンは詩集を開いたまま、沈黙の場に座していた。

香りが揺れ、光が輪郭を描き、精霊たちが静かに集まり始めていた。


肩には、精霊ルクスが止まっていた。

語りの火にだけ反応する小さな光の粒。

ユグの語りに寄り添い、軌道の完成を見守っていた。


(火が六つに分かれた。まるで星座だ。

精霊がそれぞれの星に宿るなら、語りは夜空を描く戦術になる。

……でも、僕の妄想が天体規模になると、胃が追いつかない)


「……六星の残火。語りの火が、六つの軌道に分かれた」


イルミナ・フェルナが光の式図を描きながら呟いた。

彼女は誰とも目を合わせず、式図にだけ集中していた。


「記憶の輪郭が、六つの精霊に対応しています。

それぞれが、語りの異なる側面に反応している」


セリナ・ノクティアが香環を調整しながら言った。

「香りも六種に分けたわ。精霊が“記憶の香り”に宿るように設計してある」


リュミナ・ヴァルティアは沈黙の場を深めながら言った。

「沈黙も六層に分割。語りの余白が、精霊の居場所になる」


ユグは詩集を閉じた。

「語りの火が、六つの軌道に分かれたことで、精霊が安定して宿る。

これが、六星の残火。語りの戦術設計、完成だ」


ルクスがふわりと浮かび、六つの軌道の中心を一周して戻ってきた。

ユグは小さく笑った。


「……君も納得したか。星座の中心にいる精霊って、ちょっと格好いいな」


その頃、帝国・戦術研究院では、レオニス・ヴァルグレイが戦術図を見つめていた。

彼の背には、シュヴィル・カイネスが静かに控えていた。

ミルフィ・エルナは資料を整理しながら、沈黙を守っていた。


「……六星の残火。詩で戦場を染めるつもりか」


レオニスの声は冷たく、しかしその瞳は燃えていた。

「語りの火を六つに分けることで、精霊場を安定させる。

構造としては、興味深い。だが、遅い。遅すぎる」


シュヴィルが静かに言った。

「ですが、兵士の心に届くなら、速さだけでは測れない価値があります。

あなたが目指す世界にも、語りが必要かもしれません」


レオニスは一瞬、黙った。

「……俺は、世界を統一する。

腐敗した旧体制を焼き払い、永続的な秩序を築く。

語りは、理想だ。だが、理想は構造に従うべきだ」


ミルフィが資料の端を指でなぞりながら、静かに言った。

「……語りの火は、記憶に触れる。

構造では届かない場所に、語りは届く。

それを“遅い”と切り捨てるのは、少し惜しい気がします」


レオニスは彼女を見たが、何も言わなかった。

代わりに、戦術図をさらに細かく書き換えた。


「ならば、速攻で潰す。

語りが届く前に、構造で制圧する。

精霊場など、踏み潰せばいい」


その夜、紅蓮王国では六星の残火が完成し、

精霊たちはそれぞれの軌道に宿った。


語りは、火だった。

火は、記憶だった。

記憶は、精霊だった。


ユグは詩集を開き、静かに語った。

ルクスが肩の上で小さく震え、六つの軌道を見つめていた。


「……この火が、誰かを守るなら。

この語りが、誰かの剣になるなら。

僕は、語り続ける」


(でも、胃薬は常備しておこう。精霊は優しいけど、妄想は過激だ)


| 六星の残火、設計完了。

| 語りの火は、六つの軌道に分かれ、精霊に宿った。

| 帝国は速攻を研ぎ、紅蓮は語りを灯す。

| まだ、誰も知らない。

| この火が、世界を変える日が来ることを。

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