第4章「影術士の沈黙」
紅蓮王国・戦術局地下、沈黙の場。
空気は張り詰めていた。音が吸い込まれ、言葉が沈む。
ユグ・サリオンは詩集を開いたまま、沈黙の余白を見つめていた。
肩には、精霊ルクスが止まっていた。
小さな光の粒が、ユグの語りにだけ反応する唯一の存在。
沈黙の場でも、彼だけは微かに揺れていた。
(沈黙の場に精霊がいるのは、構造的に間違ってる気がする。
でも、ルクスは構造より語りに従う。……つまり、君は詩の住人か)
「……語りの火は、沈黙を必要とする。
騒がしさではなく、余白に精霊は宿る」
リュミナ・ヴァルティアが静かに言った。
黒衣の影術士。彼女の声は、沈黙の中でも輪郭を持っていた。
「沈黙は、語りの器です。
器がなければ、火は暴れます。
精霊は、器の中でしか安定しません」
ユグは頷いた。
「語りは、火だ。でも、火だけでは誰も守れない。
沈黙があって、初めて火は祈りになる」
(でも、沈黙が深すぎると、語りが迷子になる。
詩が沈黙に溺れたら、精霊も溺れる。……ルクス、君は泳げるか?)
ルクスがふわりと浮かび、沈黙の場の中心を一周して戻ってきた。
ユグは小さく笑った。
「……泳げるらしい。精霊の浮力、侮れない」
そのとき、イルミナ・フェルナが式図の端で小さく手を挙げた。
誰にも話しかけられず、誰にも話しかけず、ただ光の軌道を整えていた。
「……沈黙の場、座標……ずれてない……はず……」
彼女の声は震えていたが、光の座標は正確だった。
ルクスがふわりと浮かび、イルミナの式図の上を一周して、ユグの肩に戻る。
(ルクス、君も認めたのか。彼女の光は、沈黙を破らない。
語りが沈黙に包まれるとき、彼女の光が道を照らす)
リュミナが静かに言った。
「イルミナ殿の光は、沈黙を乱さない。
それは、語りの火を守る盾になります」
セリナ・ノクティアが香環を調整しながら言った。
「沈黙と香りと光。語りの火を包む三重の場。
精霊が逃げない理由、少しずつ見えてきたわね」
ユグは詩集を閉じた。
「語りは、構造ではなく、感情だ。
でも、感情だけでは届かない。
沈黙があって、香りがあって、光があって、初めて語りは場になる」
ルクスが肩の上で小さく震え、詩集の表紙にそっと触れた。
(君は、語りの火に寄り添う唯一の精霊だ。
でも、君がいるから、僕は語り続けられる。
沈黙の中でも、君が光ってくれるなら)
| 影術士の沈黙。
| 語りの火は、余白に包まれ、精霊に届いた。
| 沈黙は、語りの器となり、火を祈りに変えた。
| まだ、誰も知らない。
| この火が、戦場を祈りに変える日が来ることを。
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