1話
ブンッブンッ
今日も朝から剣を振る。いつからかは忘れたが、かなり長い間この日課を続けている。
「ハッハァッ...」
毎日していたとしても一振り一振りを真面目にすると、息が切れるものだ。切れない者は真面目に振っていないか、無尽蔵の体力を持っているものだけだ。
俺には無い才能。だから、毎日真剣に一振り一振りを大切にして日課を続けている。
日課を終えると次は食事の調達だ。魔法の使えない、しかも無所属の剣士の給金などでは日銭を稼ぐこともままならない。
昨日の晩に仕掛けておいた罠を見に行くが、何もかかっていない。
仕方がないので、森に入って直接獲物を捕ることにする。
獲物を探すことは闘気を使えば簡単だ。周りの気配を察知して場所を突き止める。
近くにクマがいた。大きくはないが、子どもではない。俺一人なら干物にして数日分の食料になる。
ここで新人冒険者なら突っ込むが、俺は後ろから近づいて首を刎ねる。卑怯だとは言わせない。生きるためには必要なのだ。
もちろん、狩った命は弔い余すことなく全てを使う。肉は食べ、皮は売るか、防具に加工する。骨は砕いて自然の栄養とし、血で新たな獲物をおびき出す。
冒険者の半分はやっていることだ。やらないのは貴族のボンボンか騎士サマ、有名な冒険者くらいだ。人によっては恥を捨てそいつらに物を乞う。
でも、俺は恥は捨てない。剣士だからだ。流派にもよるが、俺の師匠は捨てなかった。だから俺もそれを見習って捨てない。
パチパチ
いい匂いがしてきた。さっき狩った熊の肉が焼けてきたらしい。決して油断はしないが、熊は狩りやすく、肉が多いから俺は好きだ。
食事を終えると行動を開始する。荷物と言っても、剣と小さい財布しかないので、火を消してからすぐに移動を始める。
◇
俺は今、冒険者ギルドのクエストで討伐をしに来ていた。何でも、森の中の川に巨大な鳥が出現したそうだ。
鳥は殺気立っており、近づく人間を威嚇し、場合によっては攻撃をしているらしい。
これでは、近くの村の水源が遠くなってしまうので、村全体で金を払って冒険者ギルドに依頼したそうだ。
もっとも、討伐任務の割には給金が少ないから俺以外は受注しなかったんだが。
そんな事を考えていると川に着いた。
そこでは、羽を広げた体長が3メートルはあるのではないかと思う大きさの灰色の鳥が誰かを襲っている。
女と子供だ。手に桶を持っているので、水を汲みに来たのだと想像できる。
だが、俺はすぐには助けない。ここで真正面から鳥を攻撃したとしても逃げられてしまう。
剣士として遠距離攻撃がない中、標敵もとい給金をみすみす逃すような真似はしたくない。
ならば、狙うのは鳥が勝利を確信した瞬間。命を刈り取る最終攻撃のタイミングだ。
そう考えていると、逃げていた子供がコケた。それを逃すまいと鳥は急降下の体勢をとる。
いまだっ
俺は構えた。
鳥が急降下する。
あと一歩いやあとコンマ1秒でも速ければ届いていたかもしれないギリギリで子供は突き飛ばされ、鳥の首から先は何処かへ飛んでいった。
血飛沫を撒き散らしながら。
◇
自身がおとりにされていたことも露知らず、子供は少し涙ぐんだ顔で言う。
「おじさん有難う」
それに続くように女も礼を言ってきた。
礼として髪飾りをもらった。金になるかは分からないが、他人の好意を無下にすることは憚られたのでもらっておく。
討伐の証明として、鳥の頭を残して残りは部位ごとに分けて切る。
女と子供―母子は手伝うと言って聞かなかったので、ギルドまで運ぶのを手伝ってもらうことにした。
これで、俺のクエストは終了だ。この鳥が魔物であることは俺には関係ない。
そう思いつつギルドへの報告をしに街へ帰ることにした。
◇
ギルドの先で母子と別れると、
「リョウさん、今日は大物ですね。クエストお疲れ様です」
人懐っこい笑みを浮かべながらそう言うと後ろから金が入った袋を持ってきた。
「はい、これでクエスト終了! 次のクエストはあっちにあるよ。何か受注する?」
カウンターの左側にある掲示板を指しながらそういう。
「今回も適当に選んどいてくれ」
我ながら少しそっけなく返すが嫌な顔をせずに「オッケー」と笑みを向けてくる。
その後は特に用も無かったので街を出た。
今日も野宿だ。俺の手持ちはたかが知れているし、宿はダンジョンに行く奴らの価格設定なせいで俺には手を出せない。
ダンジョンに入れれば楽なんだが、生憎俺には故郷がない。そんな俺には冒険者しかできることがなかった。
だが、野宿と言っても街の周りは比較的安全なのでとても良い。
そんな事を思いながら夕食にし、今日という日に幕を閉じる。
剣を抱き抱えながら。
さて剣を極めよう あーる @RaruAl
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