第33話 金属なスライムでレベルアップ祭り

――――【哪吒目線】


「い、いるわ……」

「一匹でも倒しゃ、おれらなら確実にレベルアップするよな?」

「うん!」


 赤沢と伊勢が目の前の光景に思わず息を呑んだ。俺たちはダンジョンで採掘されていたレアメタルの鉱脈跡へ来ている。


 ダンジョン探索は危険で溢れている。だが不思議なことにその危険を僅かにだが、軽減させるボーナスがあった。ダンジョン3層には初心者と共に潜ると何故かメタリックスライムが大量に出現するいわば初心者ボーナスみたいな現象があるのだ。


 ゲームのようなイベント故にダンジョンマスターが存在するのでは? と疑問に持つ者は昔から多かった。俺の父さんがダンジョンマスター存在説の第一認者で、俺もいると信じている。


 白鴉びゃくあと出会ったことで、それは確信に変わった。


 シノブがメタリックスライムを追い立てると電撃が放たれる。それをを躱しながらシノブは苦無をお見舞いする。メタリックスライムが苦無を回避するため、ピョンと跳ねた。


「もらった!」

「そこっ!」


 赤沢がその好機を捉え、メタリックスライムをメイスを使いアッパースイングで跳ね上げた。メタリックスライムはついた勢いに抗えず伊勢に向かっていった。伊勢はショートランスでメタリックスライムを弾き返した。


 シミュレーターでトレーニングした通りにメタリックスライムを球に見立て、息の合ったラリーを繰り返すとメタリックスライムはコアを残して消滅した。


 すると二人の迷宮探索用スマートウォッチ、通称Dスマートからアナウンスが流れる。


【レベルアップしました】


「やったぁ!」

「こんな簡単に倒せてしまうなんて……」


 赤沢は拳を振り上げ、伊勢はうるうると瞳を潤ませている。


「今度は佐渡を連れてこよう」

「うん、そうだね」


 微笑ましい光景にほっこりしているとアリシアが身構えた。


「哪吒くん! 誰か近づいてくる」

「ああ、きっとあいつらだろう」

「ええ」


 俺とアリシアはメタリックスライムと格闘する赤沢と伊勢のところへ行かせないよう壁になると、やさぐれたおっさんたちがにやつきながらこちらに歩いてくる。


「あーいたいた初心者さーん。ちょっとおれらにも経験値分けてくんね?」


 初心者のレベルアップボーナスを掠め取る経験値泥棒……。経験値泥棒は勧誘した初心者の代わりにメタリックスライムに止めを刺して、経験値を横取りする。迷宮探索協会も初心者に啓発し、引っ掛かる者はかなり減少した。


 だが今度はダンジョンに不慣れな学生にターゲットを定めてきている。


「経験値泥棒は禁止されてるはずだけど?」

「泥棒なんて、とんでもねえ。おれらはただ経験値をお裾分けしてもらいてぇだけなんだって」


「あんたたちはこの辺りの階層なら十分潜れるだろ?」

「もっと楽に戦いてーんだよ。おまえら遊び半分でダンジョンに潜ってる学生とは違ってな」


 ピキッと音がしたかと思えばアリシアの胸に掛かっていた太極図を描いたペンダントが割れていた。


 もしかすると凄まじいまでの霊力の影響かも……。


「断ります!」

「なんだと!? 姉ちゃん、かわいい顔してるからって、ちやほやされて何でも許されると思ってたら大間違いだぞ!」


「なんだ結局お裾分けじゃなくて、俺たちから経験値を掠め取ろうとしてるだけじゃないか。そういう酷いことばかりをすれば探索者として不適格の烙印を押され、協会会員を除名されるペナルティを受けるのを知らないのか?」


「うるせえ! こっちはもう会員でもなんでもねえ! てめえら殺されたくなかったらさっさと……」


「おまえの人権はないということだな? このまま喉をかき切られて無様に屍を晒すか、大人しく真っ当な稼ぎに勤しむか、選ばせてやる」

「わ、分かった……も、もうしないから離してくれ」


 天井に張り付いていたシノブが音もなくおっさんの首筋に苦無を当てて訊ねていた。


「私はおまえたちの後ろに常にいる。それを覚えておけ」

「ひっ!?」


 シノブは分身でもしたのだろうか?


 他のおっさんの背後にもシノブの姿があった……。


 おっさんたちはシノブに気圧され、すごすごと引き上げていく。


 ぎゃあああああっ!


 しかし、闇に彼らの姿が消えたかと思うと悲鳴が鉱脈内に響いた。


 闇の中に光る無数の赤い点……。


 ガルルルルルル……と唸り、瘴気を纏った犬のようなモンスターが闇の中から姿を現した。口にはパーツ分割された腕や足を咥えながら。


 ガルムウルフ!?


 3層に居ていいモンスターじゃない!


 20層の命を狩り取る者グリムリーパーの眷属……。でもこれなら今の赤沢や伊勢でももしかしたら倒せるかもしれない。


 俺が驚いているとアリシアが声を上げる。


「みんな、退いて! 【迦具土神かぐつち!】」


 アリシアに呼応し、俺たちは鉱脈の壁に張り付いた。彼女が印を結ぶと炎の剣が顕現し、目の前のモンスターたちを横一文字に薙いだ。斬られたモンスターたちは胴体から炎を吹き出し、崩れ落ちる。


 焼死体となっても炎は消えず、近づくと耐熱、耐圧、防刃などの様々な加工の為された迷宮探索用の特殊制服であっても火傷を負ってしまいそうな熱さだ。


「【比売命ひめのみこと】、炎を消して!」


 ミストが掛かり火勢が弱まる。


「二人とも今だ!」


 メタリックスライムがとんとん跳ねてるいたが、赤沢と伊勢はそれらを捨て置き、ガルムウルフの燃え残りを見境なくぶっ叩いていく。


 すると……。


【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】、【レベルアップしました】


 うわーっ! 通知がうるせえ!!!


 二人のDスマートが輪唱しているかの騒がしさ。二人はメタリックスライムを倒したときなんかよりまさにレベチのレベルアップを果たしていた。


「流石、日向さん! それもこれも計算済みだったなんて!」

「あ、あのサインもらっていいですか? まだいただいてなかったんで……」

「伊勢さん、ズルいよ。おれもまだなのに」


「あ、いや……」


 あれはアリシアとシノブが的確に動いてくれただけで、俺は何にもしてないと言い掛けた。


「い、いやなんですか、私たちみたいに弱い子にサインするのは……」

「もっと強くなれってことですよね? 頑張ります」

「そうじゃないから!」


 二人の備品にそれぞれ俺の名を書き込むと小さな子どもみたいにはしゃいでいた。


「私も……欲しい」


 まさかのアリシアが俺のサインを欲しがっていた。だが意外な人物から待ったが掛かる。


「ダメよ」

「いくら森野先輩が部長だと言ってもそこまで制限される覚えはありません!」

「あなたは特別」


「私が何故哪吒くんからサインをもらっちゃいけないんですか!」


 アリシアなら素直に引き下がると思ったが、珍しく目上の人物に食い下がっていた。


「あなたね……あれほどの霊力を持つ陰陽師であることを自覚していないの? 真名を把握しているなら最早、他人ひとを直接手を下さずに呪い殺せるレベルなのよ」

「う……」


 シノブに指摘されて、ようやく気づいた様子のアリシアだったが……。


「いいよ。御門さんがそんなことするはずないから」

「ありがとう、哪吒くん」


 えっ!?


 とんと軽い衝撃が走ったと思ったら、あの迷宮探索校一とも称されるアリシアが俺の胸に飛び込んできていた。


「ちょっ、ちょっ、ちょっ! 何してるの! まだ迷宮なんだから! 不潔よ、不潔!!! 離れなさいってば!!!」


 俺にくっ付いたアリシアをシノブが引き剥がそうとしていた。


―――――――――あとがき――――――――――

たくさんのフォローに加え、★3000を超えるご評価、ありがとうございます!

昨日お伝えしていた【えちシーン】を加筆した15話を公開させていただきました。

(※内容はサポ現と同様です)

https://kakuyomu.jp/works/822139836735326048/episodes/822139842405714434

現状でも大丈夫かと思うのですが、5日に規約に適しているか見直す予定なのでお早めにお読みいただくことをお勧めいたします。


また★3500に達した場合は現在(保健室)でのシーンを加筆しようと思いますのでよろしくお願いいたします💪

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