第32話 手違いから強くなりすぎていた

――――【哪吒目線】


 アリシアを新入部員として迎え、晴れて俺たちはダンジョンを探索していた。


 みんなの動きがすこぶる良い。


 それもそのはずだ。志麻姉ちゃんからシミュレーターを貸してもらっていたが、初日は各々好き勝手動いてもらうととにかく佐渡たち三人は死にまくった。シノブは隠蔽スキルで難を逃れるも一人では先に進めずリタイア。


 待ち伏せしていたモンスターから不意打ちを食らいワンパンされたり、佐渡と赤沢はサキュバスのハニトラに引っ掛かって精気を吸い取られたり、落とし穴からのモンスターハウスに落ちてたこ殴りにされたり……。


 とにかくスライムにすら苦戦する有り様だった。


 いくら三人がまだダンジョンに不慣れでレベルが低かったとしても、プロトンテックのシミュレーターはそこまで難しかったかな? と訝しんだが、簡単過ぎると本番で想定外のことが起こったとき対処できないと思い、そのまま続けてもらった。


 俺の個人的見解で恐縮なんだけど、1層で5層程度の強いモンスターと嫌らしい罠くらいに感じたが、要所要所で詳しい指示を与えると、みんなは俺を信じて指示通り動いてくれた。


 シミュレーターでの猛トレーニングの日々が思い浮かんでくる。


『すげえ、日向さんの言う通りだ! おれ一人でもホブゴブリンと渡り合えた!』

『おれもメタリックスライムを倒した!』

『私は鉄球落下の罠を見抜いたよ』


 佐渡、赤沢、伊勢がそれぞれの成長を教えてくれる。


 なんかうれしい。


 やればできる子たちだって初日で分かったし、三人とも自信を失って部活を休んでたくらいだから。


『みんな見違えるように動きが良くなってるから指示をアップデートしないと追いつかなくなってる』


 本番なら安全マージンを大幅に取らないとならないけど、シミュレーターならかなり無茶しても大丈夫。積極的に攻めた結果難しいと思われた指示でも難なくこなせるようにまでなっていて、驚くばかりだった。


 これなら迷宮探索校の生徒だと言っても誰も疑いはしないだろう。


 シノブがまるで推しのアイドルを見るようなキラキラと輝かせた目で、彼らの成長をよろこんでいる。


『みんな、凄いよ。こんな短期間にレベルアップするなんて! やっぱり日向くんって超エリートだったんだ』

『『『間違いない!』』』


 ふぁっ!?


 みんなの中で変な理想像ができあがってる!?


 俺はカイザーとまで自他共に認める颯真のようなカリスマ性はないし、アリシアみたいな職種ジョブスキルも持たないし、美里みたいに特殊耐性もないし、れもんみたいにかわいさで視聴者リスナーをよろこばせることもできていないのに……。


『俺は迷宮探索校の劣等せ……』


 その幻想をぶち壊そうとすると、みんなの声にかき消されてしまう。


『日向さんを追い出した網代ってホント目が腐ってたんだな……』

『そうそう、おかしいよ。日向さんこそリーダーに相応しかったんだ』

『カイザーとかクソださい』


 赤沢、やめてあげて……颯真って優秀だけど、厨二病が未だに治ってないことを指摘するのは……。


 シノブが手のひらを勢い良く合わせて、パンと音を鳴らした。みんなの注目が彼女に集まったところで……。


『ねえ、みんな。こんなところで何だけと……私より日向くんをパーティーのリーダーに据えたいんだけど、どうかしら?』


 俺にとって藪から棍棒である。


『部長!?』


 俺は今鏡を見たら、ダンジョンモンスターの大目玉ビッグアイのように目を丸くしてることだろう。


『もちろん面倒な事務手続きは引き続き、私が部長としてあなたを支えるわ。適材適所。私と日向くん、内政と戦闘、良いパートナーと思わない?』

『は、はあ……』


 パートナーねえ……。


 俺は男女のパートナーとか勘違いを起こしそうになるんで、そういう誤解を生む言い方は止めて欲しい……。


『それ最高っすよ』

『部長は強いけど、おれたちじゃ指示通り動けなくて。日向さんの指示ならおれたちでもできた』


『言ったなぁ! でもそうなのよね……。私はあまり周りを観る目は優れてないみたい。日向くんのお陰ですっきりした。あなたがリーダーだと昔を思い出して楽しいの』


 三人も俺がパーティーのリーダーになることに賛成していたので、ここで「だが断る」なんて言ったらせっかくやる気を出してるみんなの気持ちに水を差してしまう。


『分かったよ、探索のときだけ俺がリーダーをやらせてもらいます』

『うん。じゃあ協会に変更届を出しておくね』



 俺が両手を失った探索のときは颯真から知らない間にリーダーにさせられてしまっていて、何もできなかった。


 みんなから推されてリーダーをやらせてもらったんだ、次こそは全滅寸前になるようなことにはさせない!


 それにしても今日は本当に静かだ。モンスターが巣穴から出てこない……。こんなこと、今までなかったのに。



――――【志麻目線】(シミュレータールーム)


 ふっ、若いっていいな。


 哪吒たちがダンジョンに潜る際に私のところに挨拶に来た。それより時間がないからダンジョンへ行くよう促したがやる気に溢れ、私もあんな青春を送りたかったと思ってしまったものだ。


「んー?」


 シミュレーターの私のアバターをJKにして、哪吒と保健室でいかがわしいことをしてやろうかと思い付き、スイッチを入れたときだった。


【シュミレート段階:デスモード】


 なっ!?


 しまった!? 設定を最高難易度のデスモードにしたまんまであいつらにやらしてしまってた……。


 ま、まああいつら目標の階層には到達したって言ってたから大丈夫かぁ。

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