第16話 ダンジョン攻略当日


 そんなこんなで日々が過ぎ、ダンジョン攻略当日になった。私は荷物をまとめると自分の部屋を出る。


「よし」


 準備は万端。武器と言った武器はないが、防衛用の魔道具を鞄に入れた。あとは目的地に言ってダンジョン攻略に乗り出すだけだ。


「ルリ姉……」


 玄関前まで足を進めたところでララが声をかけてくる。


「本当に行くの? ルリ姉までダンジョンに行く必要はないんじゃないの?」


 心配そうな顔で問いかけてきた。

 ララは私がダンジョンに行くことを知っている。私から言ったのではなく、勝手に学校で広がってしまったのだ。

 人員募集のポスターに私の名前も書いてあったから、そのせいかもしれない。


「心配?」


「当たり前でしょ? 私はただ剣崎君に協力してほしいって言っただけで、ルリ姉まで参加するなんて思ってなかったんだから」


 当然の反応だ。ララは単に剣崎君に協力を願いたいとお願いをしてきただけだから。

 私も最初はそのつもりだったけど、剣崎君は人を集めるという条件付きで仲間になることになった。そしてそれは、私を筆頭にして行われた。


 もし人員を集めるリーダーである私が、人だけ集めてダンジョン攻略には参加しないなんてことがあればみんなどんな反応をするだろう。指揮は落ちるどころか、私にヘイトが向いてしまいそうだ。


 自分たちだけ命を懸けて、あいつは人集めるだけかよっと。


 そんな無責任なことはしたくない。だからこそ私もダンジョン攻略に参加することにしたのだ。


「私は大丈夫だよ。ララが心配しなくても今日まで色々と準備してきたから。絶対、無傷で帰ってくる!」


 ダンジョン攻略初心者だが。

 まあ、準備できることは全部やった。問題なく攻略は進められるだろう。


「……」


「じゃあ行ってくる。ララは適当に友達と遊んで待っててよ」


 心配そうなララの顔を横目に私は玄関を出た。

 

 言いたいことがあるのはわかる。

 本当に大丈夫なのか、とか。

 今からでも行くのをやめた方がいいんじゃないか、とか。

 私も、正直不安と言われれば不安だ。無傷だのなんだの言ったが、大けがを負う可能性も十分ある。

 だが、任された責任は最後まで全うしたい。

 たとえララが何と言おうと、もうそこに迷いはないのだ。



 §



 坂野原中学校は家から車で30分ほど走った先にある。私は家を出ると近くのバス停でバスに乗り、最寄りの停車駅で降りた。

 そこから歩くこと10分ほど。入り組んだ住宅街を抜け、目的地へと到着する。


 もうすでに近くの住民は引っ越したのか、思いのほか街は閑散としていた。私はここら辺に来たことがないので元々こうなのかもしれないが、この中にモンスターパレードを恐れて引っ越した人もいるのだろう。


 周囲には異様な空気感が立ち込めている。

 黒色……いや、紫色だろうか。異質な色をした霧が周囲に広がっていた。特に害はないが、所謂魔素と呼ばれるものだろう。魔力の素となる成分が魔物によって穢されたものだ。少し嫌な不気味さを感じる。


 正面には学校が見えた。学校はダンジョン化しているため、結界のようなもので覆われていた。中は近くに寄らないと見えないが、攻略が始まって結界を越えればはっきり見えるようになるはずだ。


 そして校門の前には、たくさんの人だかりが。今回参加する冒険者達だろう。みんな各々準備をしてきたようで、武器を持っているのが視認できた。


 そんな人だかりへと歩くと、早速由利原や千代、静香の三人を見つける。


「あぁ、ルリ。おはよ。早速来たね」


「うん、おはよう」


 現在時刻は8時半。ちょうど学校の授業が始まる時間帯だ。

 今日は土曜日ということもあって学校はない。休みのほうが人手が集まるということで千代が設定したのだ。


「結構人いるね。今何人集まってるの?」

 

「大体40人くらいかな。予定ではあと20人来る予定だよ」


「そんなに?」


 周囲を見渡すと相当な冒険者が集まっているのが見える。私は何人集まるとか聞いてなかったからわからないけど、思ったよりも断然多い。これも由利原と静香のお陰、ということだろうか。


「私もまさかこんなに集まるとは思わなかったよ。精々30人集まればいいかなぁとは思ったんだけど……思いのほかこのダンジョンに恨みがある人が多かったのかもね」


「へぇ」


 由利原も予想外の数だったらしい。

 静香みたいに家がこのダンジョンから近い人は結構いる。その中でも、友達に助けを請う生徒もいたようで、いわば芋ずる式に冒険者が参加する形となったようだ。


「おかげで目標は達成。剣崎君も参加してくれた。今回は運がよかったよ」


 本来ならこんな数の冒険者が集まることはない。ただ今回はダンジョンが私たちの学校の近くにあったことと、由利原たちの呼びかけが功をなしたようだ。正直運の部分も大きかったのは言うまでもない。


「まあ、ルリの魔道具もかなり力になった。これがあるだけで冒険者は安心して攻略に挑めるからな」


 千代はそう言って一枚の紙を出す。それは私が苦労かけて作った魔道具の一つだった。


「効果は『同じものを持っている冒険者の生存確認ができる』だっけ?」


「うん。危なくなったら頭に直接伝達がいくように作った。けどあくまで状況が分かるだけだから結界が張られるとかじゃないよ。自分の身は自分で守らないといけない」


「十分だ。冒険者ってのは元よりそういう職業だからな。誰かに頼ってばっかじゃ成長できない。それに、この魔道具があればどこが危険な状況なのかすぐに気づける。それだけでも増援場所がわかるし、便利な魔道具だ」


「そう?」


 そう言ってくれると製作者冥利に尽きるが……。

 実際は60人分だからなぁ。一々数えてないから詳しい数は分かんないけど、たいした魔道具は作れてない。

 精々できるのが、生存確認というわけだ。


「ルリさん少しいいですか?」


 っと、そんなことを思っていると知らない人に声をかけられた。長髪の眼鏡をした凛々しい女性だ。


「これから回答班で集まって作戦確認をしようって話が出てまして……一度集合してもらってもいいでしょうか?」


 どうやら作戦確認の時間がやってきたらしい。攻略まであと30分、あまり時間もないので一度示し合わせておくようだ。


「由利原さんと静香さんも一緒に」


「あえ? 私も?」


「そりゃそうでしょ、あんたも回答班なんだから。理科と国語の」


「あぁそっか」


「静香もね。たしか英語の担当だっけ?」


「はい。今日までかなり勉強してきました! 絶対にクリアして見せます!」


 静香の目はガチだ。最近徹夜して勉強していたらしく英語だけなら誰にも負けないらしい。あのメンタルの弱い静香が絶対にクリアすると豪語するあたり本気で取り組んだのだろう。私も魔道具製作が終わってから数学の勉強を真剣に取り組んだ。覚えるというよりは完全に思い出す作業だけど。

 ともあれ、これほど前世の記憶が助かるクエストもそうはない。おかげでかなり自信がある。


 私たちは作戦確認のため、案内された場所まで向かった。

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