第11話 幕間 剣崎隼人の憂鬱


 俺ーー剣崎隼人はこの学校でも指折りの優等生である。

 成績優秀。剣術は学一(学校で一番の略)。誰もが認める最強の生徒。みんなきっとそう思っている。


 実際、俺には才能があると思う。剣術は誰よりも優れているし、同じ剣士に負けた経験は殆どない。特に同じ学校にいる生徒の中じゃ負けなしだ。唯一負けたのは、腹下したときに友人から日ごろの恨みだと言わんばかりに連戦を挑まれた時くらいか。それでもその時は結構善戦したし、友人のやつらからも相変わらずバケモンだと言われた。……まあだから何だよって話なんだが、詰まるところそのくらい俺は強い。精神的にも肉体的にも、俺はとにかく強いのだ。


 そしてなによりモテる。結構モテる。やっぱり運動ができるやつってのは女子の中でかなりポイントが高いらしく、特に剣術が出来ると女子目線守ってくれると思われがちで、それがモテる原因だという。それ以外にも俺は数少ないBランク冒険者。将来的に期待されている分、玉の輿だと言って俺にアプローチをしてくれる人も多くいる。

 ってか、それが大半なんだろう。所謂ステータスっていうのか?俺と付き合うことで自分の価値を高める……みたいな。同じ部活に入っている女子からそういう話を聞いたことがある。もちろん俺の目の前で言ったわけじゃなく、部室のドア越しに聞いただけだ。


 俺もそれに関しちゃ納得してる。やっぱ金は大事だし、ステータスも人としてほしいものだからな。俺もBランク冒険者になったのはそういうステータスが欲しかったっていうのも大きい。いわば自己満足みたいな感じだ。だから、そういう目的で寄ってくる女子たちに幻滅なんてしない。寧ろ、打算的に近づいてきてる分好感がモテる。

 わがままを言えば、特に何も考えず自然と話しかけてくれるような無垢な女子がタイプだが。


 ともあれだ。そんな俺がどうしても苦手な奴がこの学校に何人かいる。

 その中の一人がーー中田千代という女子生徒だ。俺と同じ学年で同じ冒険者をしている。


「ねぇ剣崎。あんた今暇でしょ? ちょっと面貸してくんない?」


 そして、現在進行形で、俺はなぜかそんな彼女に胸ぐらを掴まれていた。

 …うん。


「なんで!?」


 なんでこうなった……?

 俺はさっきまで友人たちと和気藹々と馬鹿話して笑いあっていただけなのに。

 急に苦手な女ランキングトップ3に入るこいつから呼び出しくらって、嫌々来たらこれだ。何も言ってないのに!何もしてないのに!


「あ、あの……マジで命だけは勘弁してください。俺まだ生きたいです」


「あ? 何わけのわかんないこと言ってんの? 私はただ話があるから来いって言ってるだけでしょ」


「は、話!?」


 じゃあこの胸倉は何なんだよ!ついでか!?ついでに恐喝でもしてんのか!?どう見ても話し合いに来た女の所作じゃねえだろ!

 そう思う俺はおかしいのだろうか。


「ごめんねぇ剣崎くぅん。私たち本当に話し合いに来ただけだからさ。ちょっとだけ時間取れないかなぁ?」


「ひっ!?」


 出た、俺の苦手な女ランキングに見事ランクインしているもう一人の女子、由利原愛。こいつも俺の苦手な女ランキングトップ5には入る女子だ。それも中々に癖が強い。

 俺がこの学校に入ってから初日に告白してきて、それを振ったら翌日からロッカーにラブレター詰め込むような女だ。何気ない顔でいつも挨拶してくるが、滅茶苦茶怖いから無視してる。でも毎日同じ笑顔を向けてくる。それが一層怖い。滅茶苦茶苦手だ。


「まじで何なんだよ。俺これからカツアゲでもされんのか!?」


「そんなことしないよ。……チッ、もうめんどいな。いいからさっさと来い」


「あ!? ちょ、ちょっと!?」


 中田はそう言って俺の襟を掴み直すと、今度は引きずる形でどこかへ連れて行った。


 まずい。

 このままじゃ何されるか分かったもんじゃない。

 俺は偶々遠くで楽しそうに話している友人たちを見つけた。

 しめた。あいつらならこの状況をどうにかしてくれるかもしれない。


「お、おいお前ら! 助けてくれ! 俺このままじゃ殺されちまう!!」


 その声にチラッとこちらを見る友人たち。

 彼らは何を察したのかにこやかな笑みを作って。


「おー、そうか! お疲れ! 楽しんで来いよ!」


 手を振って。


「モテモテじゃん、羨ましいぞ~」


 口笛を吹いて。


「練習はこっちで絞めとくから気にすんなよ」


 興味なさげにそっぽ向いた。


 そうだった。

 ここで無理やり引き留めてくれるような奴、俺の友達にいなかった。


「クソッ、十中八九あてになんねえ! お前らあとで覚えとけよぉおおおお!!!」


 その声が奴らに届くことはなく、無慈悲にも俺は由利原に連れていかれるのだった。

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