第10話 お願いの真相
「剣崎に?」
真っ先に反応したのは千代だった。
「そう。ダンジョンを攻略するにあたってどうしても必要なのが戦力でしょ? だからララはこの地域でも指折りの実力を持つ剣崎君に協力を頼もうと思ったらしくて。でも自分が訪ねても突き返されるのがオチだろうから私に頼んでもらえないかって言われたんだよ」
それがララからのお願いだ。
私を頼ったのはあくまで同じクラスだから。全くの無関係じゃないし、もしかしたら力を貸してくれるかもしれないと思ってのことらしい。
正直、私もそんな関わりがあるわけじゃないしララと結果はそう変わらないと思うが、少しでも可能性があるとしたら同じクラスの女子からのお願いだと考えたそうだ。
「なるほどね。剣崎か。悪くない判断だ」
千代も納得した様子だ。
「やっぱり剣崎君って強いの?」
「ああ。そりゃもうムカつくくらいね。一対一ならこの学校であいつに適うやつはほとんどいない。男子の中でも三本指に入るかな」
「そうなんだ」
噂には聞いていたけど、やっぱり強いらしい。
「剣崎君はBランク冒険者だからね。剣術だけに限れば、ここいらじゃ誰も相手にならないんだよ」
Bランク冒険者。
この世界にはA~Eまでの冒険者ランクが存在する。Eが最低でAが最高だ。一応特例で特級冒険者というのも存在はするが、これは世界に数人しかいないので割愛。ともあれBランク冒険者というのはかなりすごい。どのくらいすごいかって言うと、冒険者のうち上位0.3%に入るくらい。
当然、Bランク冒険者になるためにはそれ相応の実績が必要だし、実力もいる。
うちの学校ではたしかBランクパーティが一つしかないし、それが剣崎君をリーダーとするパーティだったはずだ。この学校でそれを知らない人はいない。
「あぁ、やっぱりかっこいいなぁ剣崎君! 早く付き合ってくれないかなぁ~!」
フェンス越しに外を見ながらそんなことを言う由利原。
その目線の先には運動場で友達と談笑しあう剣崎の姿がある。
今は休憩中のようだが、これが戦いになるとマジ顔になるのがかっこいいらしい。
「まあこいつの妄想は置いといて、言ってることは事実だよ。あいつは強い。もし今回のダンジョンを攻略したいなら必須条件だろうな」
千代もそれには同意のようだ。
「そっか。じゃあーー」
「ーーとはいえ、そう簡単じゃないっていうのは先に言っとく」
「え?」
千代の言葉に私は困惑する。
簡単じゃない。それはどういうことだろうか。
千代は顔を顰めながら言った。
「まあ、なんていうか。問題がいくつかあるんだよ。そもそもあいつがダンジョンに付き合ってくれるか分からないし、付き合ってくれたとしてダンジョン攻略が成功するとは限らない。何より、あいつは坂野原中学校の攻略に一度
「え? 失敗してんの?」
初耳だ。失敗したっていうのも聞いたことがなかったけど、挑戦したっていうのも初めて知った。
「あそこのダンジョンって結構特殊なんだよ。力があればどうにかなるわけじゃない。この前ルリにも話したことあるだろ。最近図書館のダンジョンを攻略したって話」
「あー、うん。知ってる」
一か月前くらいに聞いた話だ。
「あの時はさ、『魔物と戦いながら本を読破して問題を解く』っていうクエストだったんだよ。それを知った私たちは戦闘班と読書班の二つを作って攻略に乗り出した。剣崎達戦闘班が戦っている最中に読書班が一冊の本を急いで読んで、そのあと机にリポップする問題用紙に記入する。そこでボーダーライン7割5分以上の点数を取ればクエスト達成。ダンジョンは攻略され、不可侵領域になった」
ダンジョンはそれぞれ特色がある。所謂クエストの出現だ。もしクエストをクリアできれば攻略完了、できなければ失敗。千代が直近で剣崎君と一緒にもぐったダンジョンは図書館だった。だからクエストは本に関係するものが出現した。これは図書館だけでなく、いろんな公共施設でも同じ仕組みだ。もちろん図書館は図書館でもすべての図書館が同じクエストというわけではない。例えば目的の本を見つけて受付の人に届けるものだったり、制限時間以内に何冊もの本を読まなくちゃいけなかったり、読書後の感想を求められたり。とにかく同じ条件のクエストが出現することはほとんどない。
だが、それらをクリアすればもうその公共施設は今後一切魔物によって脅かされない不可侵領域となる。
「つまり何が言いたいかって言うと、たとえ剣崎を仲間にしてもそう簡単にクリアできないってこと。今回のダンジョンがどんなクエストだったかは剣崎も知ってるはずだ。それでも放置してるってことは無理だって判断したんだよ。それを踏まえて、ルリがどうにかできるかって言うと……」
「無理ってこと?」
「はっきり言っちゃえばね」
そういうことらしい。
予想していたかと言えばしていたけど、現実はそう甘くない。
「特に今回は学校だから領地がでかい分クエストの難易度も高い。本気で攻略を挑むなら、その分人手を集めなないと」
「そっか」
そういえば、ダンジョン論の先生も言っていた。クエスト難易度は公共施設の重要性や希少性、広さに関係するって。今回の場合は学校だ。それも重要性という意味ではそこそこ高い水準にあたる。広さは言わずもがなトップレベル。ただ、希少性としてはそこまで珍しいものじゃない。まだ裁判所とかそこら辺のほうが珍しいし、難易度も然り。
「みんな攻略にいまいち乗り出せないのはそのせいかもね。人手が足りないからクリアできる目途が立たない」
由利原がそんなことを言う。
「多分1000人くらいが一気に押し寄せればほぼ100%クリアできるんだけどね。学校ぎゅうぎゅうにしてやれば魔物をリスキルできるし」
「え、そんなことできるの?」
「ああ。ルリは知らないんだっけ? 近くの学校じゃ実際にそれやってダンジョンRTAしたらしいよ。流石に人員集めるのが面倒だから2度とやらないって言ってたけど。その時は攻略時間23分だったかな。難易度は今回の学校と同じレベルだったはずだ」
「え、すごっ」
上には上がいるんだな。
うちもそれが出来ればいいけど……。
そんな方法、簡単に取れるわけがない。いくら人手がいれば攻略出来るって言っても相手は魔物だ。強い敵が来た時大勢の死傷者が出る可能性がある。それに、一般人がダンジョンに入っても戦闘がままならないし、他の人の邪魔になる。やるとしてもクエスト内容が適しているのかを確かめて、冒険者を集められる目処が立ってからだろう。
「まあなんにしてもさ。これでいかに今回のダンジョンが難しいのか分かったでしょ? それでもルリちゃんはダンジョン攻略をしようって思うの?」
由利原は振り返って言った。その顔は晴れやかだがどこか真剣だ。
「やる。今やるって決めた」
私は由利原に目を合わせながらはっきり言った。やる、と。
ダンジョン攻略が難しいのはよくわかった。剣崎君を仲間にしても達成できるかわからないこともわかった。きっと、私が想像しているよりもずっと難しくて危ないことなのだろう。
だけど……
「……」
私は昨日からほとんど何もしゃべらず、黙って佇んでいる静香を一瞥する。
『私の友達がダンジョンの近くに住んでいるの』
ララの友達が不安であるように、私の友達もまた不安を抱えている。口では言っていないけど、もしかしたら静香も転校する可能性が十分ある。それは本人しかわからない。けど、なんにせよ私は自分にできることをしてみたいと思うから。
千代はそんな返答を聞いて優しい笑みを見せた。
「分かった。なら私も協力するよ。友達として見過ごすわけにはいかないしね」
どうやら手伝ってくれるらしい。
「じゃあ私も! ルリちゃんと千代だけじゃ不安だもん」
続いて由利原も手を挙げた。
「あんたは剣崎君に会いたいだけでしょ。このストーカー」
「は、はぁ!? べ、べべべべ別にそういうわけじゃないですけど!? 純粋にルリちゃんを助けたいと思っただけですけど!?」
「はいはいそうですか。優しいですね由利原さんは」
「なんだよその言い方!? 私だってルリちゃんの友達なんですけど!?」
「ストーカーの友達、でしょ。勘弁してほしいな」
「なっ! こ、こいつとんでもない言い草だよ! 自分だって静香ちゃんのストーカーなくせに!!」
「は、はぁ!? 静香はいいだろ静香は! こいつは同姓なんだから!」
「ストーカーの部分は認めんのかよ! あ~ストーカーの友達とか勘弁してほしいわ」
「……チッ」
また二人で言い合っている。
相変わらず仲がいいな。
喧嘩口調ではあるけどなんだかんだよく話してるし、何かとヒートアップしてる。
私はあんまり誰かと言い合いになることがないから少し羨ましい。
「ねぇ、聞いてもいい? 静香」
「……え? あ、うん」
その間に静香の状況も聞いておくことにした。
「昨日はチャイムが鳴ったから聞きそびれたんだけどさ。静香ってもしかして今回のことで引っ越したりするの?」
私が聞くと静香は何も言わず頷いた。
「そっか」
やっぱり引っ越すのかぁ。
「で、でも私は別に転校するわけじゃないよ。あくまでこの学校の近くに住むってだけ。……まあ、うちはそんなにお金があるわけじゃないから……家とか小さくなるし……貧乏暮らしにはなる……と思うけど」
「い、今……なんて?」
千代が聞き耳を立てていたらしく、瞬きの間にこちらにやってきた。
静香の肩を力強く掴み、すごい形相で彼女と目を合わせる。
「どういうこと静香。引っ越すなんて、私聞いてないんだけど。それってさ、もう私と一緒に登校できなくなるってこと?」
「え……あっ、うん。多分そうなると思う。今のところ、引越し先は千代ちゃんと逆になる予定だから。もちろん攻略できればその話はなかったことになるけど」
「そう」
それを聞くと千代は顔を俯かせながら立ち上がった。
そして出口へと歩いていく。
「ーー? 千代ー? もう帰るの?」
「ーーぁーーぃーぅ」
「ん? なんて?」
ぼそぼそと何か言っている。
私も聞き取れなかった。
「剣崎のところに行くって言ってんだよぶっ殺すぞ!!」
「なんでぇ!!???」
いきなりのガチギレである。
思わず由利原も後ろにひっくり返りそうになっていた。
千代の顔はこれ以上ないほどにマジだ。静香の話を聞いてやる気に燃えたらしい。
「って、やべっ! もう行っちゃったよあのストーカー。ルリちゃん、シズちゃん! 私らも一緒に行こ!」
「わ、わかった!」
「……はい」
ともあれ、結果オーライだ。
私たちは急いで千代の後を追った。
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