第12話 すべきこと
そんなわけで私たちは剣崎君を連行した。いや、連行するつもりはなかったんだけど千代がいきなり剣崎君の胸ぐらをつかんだのだ。
最初は穏便にと由利原にも言われていたはずなのに、静香の顔が脳裏によぎったのか、カッとなったらしい。おかげで剣崎君はおびえている。この学校でもトップクラスの実力を持つと言われている彼が千代の暴挙にビビっているようだ。
「……千代」
「わ、わかってるよ、すまなかった。別に乱暴するつもりじゃなかったんだ。ただ、お前の顔見てたらむかついてきて」
「こいつ……! 言うに事欠いて何て言い草だ!」
流石の由利原もこれにはツッコミ不可避である。忘れているかもしれないが、一応こっちは助けを請う立場だ。あまり乱暴な手を取ってほしくないというのが正直なところである。
「みんな、そこの自販機でジュース買って来たよ。これ飲んでゆっくり話そう」
そこに静香もやってきた。どうやら近くの自販機で全員分の飲み物を買ってきてくれたらしい。私たちはそれをありがたく頂戴する。
「剣崎君も」
「……あぁ、さんきゅ」
もちろん剣崎君の分も。私たちの都合で来てもらったわけだし最低限飲み物くらいは渡したほうがいいだろう。それらを飲みつつ私たちは一旦一息ついた。
「で、用ってのは何だよ? 何かあるんだろ? 向こうじゃ話せない話」
最初に口を開いたのは剣崎君だった。
若干不貞腐れたような声音だが、飲み物を飲んで落ち着いたらしく、近くの段差に腰掛けている。
「ああ。ちょっとダンジョンについて頼みたいことがあってさ。それで呼んだ」
「……そうか」
予想していたことなのか剣崎君に特に驚いた様子はない。
ただ遠くを見つめながらも気まずそうに顔を逸らした。
「お前もいびりに来たのか? ダンジョン攻略を失敗した俺たちを」
「いいや違う。私らそんな暇じゃないよ。私らの用っていうのは、剣崎にダンジョン攻略を手伝ってもらいたいって話」
「ダンジョン攻略? お前らが攻略するのか?」
千代は頷く。
その後、私たちは自分たちが攻略するにあたってその経緯を話すことにした。
まずダンジョンを訳あって攻略しようとしていること。そして、そのダンジョンが坂野原中学校であること。しかし戦力不足であるため仲間集めを開始しようとしているということ。伝えたのは以上三つ。
大したことじゃない、誰もがぶち当たる大きな壁だ。
「なるほど。つまりレイドをしたいから一緒に戦おうってことか」
「そういうこと」
剣崎君も有名な冒険者だ。レイド戦。つまり複数のパーティが同じダンジョンを攻略するというのも何度か経験があるはず。
実際ダンジョンを攻略するときは基本的にレイド戦だ。いくつかの役割分担をして、それによりパーティを分ける。図書館の攻略で言えば戦闘班と読書班に分けたみたいに。そうしたほうが攻略の成功率は上がるのだ。
「当然、声をかけるのはあんただけじゃない。剣崎含む『剣狼』パーティと他大勢のパーティを迎え入れて攻略に乗り出したいと思ってる。そうすりゃダンジョン攻略も達成できるはずだ」
経験上人が多いほどダンジョン達成率はあがる。それは先の1000人挑戦RTAの話でも明らかだ。
ダンジョンのクエストは人数によって変動しない。よって、強い者弱い者選ばず人数を集めたとしても成功率自体は上がる仕組みだ。もちろん、だからと言って一般人を巻き込もうなんて千代も思ってないだろう。ある程度実力の伴っている冒険者をこの学校から集めるのだ。そのための最初の冒険者が剣崎というだけ。
「一応聞いておくけど、どうして俺を一番最初に呼んだんだ? もっと声をかけやすい奴もいただろう?」
「だって剣崎強いじゃん。もし剣崎が参加してくれればダンジョン成功率はぐんと上がる。それだけで集客率も段違いだし、他のやつらも手伝ってくれるはずだ」
ダンジョン攻略と聞いて、まずみんなが思うこと。それは成功するか否かである。
もっと言えば、失敗したくない。失敗して死ぬのが怖いというものだ。死ぬかもしれないという恐怖は冒険者にとっていつも付き纏う感情である。
だけどもし、そこに剣崎という名前が加わったら。ダンジョン攻略への負担はおのずと下がり、恐怖や不安は緩和される。簡単に言えば、あの剣崎が参加するなら大丈夫だろう。自分も参加してみようとなるわけだ。そのためにまず最初に誘うべきは剣崎と判断した。
「まあたしかに。そう言われりゃそうかもな。俺の名前を聞けば仲間になってくれる奴も中にはいるだろう」
剣崎くんもその気持ちもわかるはず。きっと剣崎くんが集めればある程度簡単に人が集まってしまうだろう。
「けど、悪いがそういうことなら俺は断る。今回のダンジョン攻略には参加しない」
「え、なんで?」
思わず声が漏れた。
てっきり納得してくれているようだから参加してくれるのかと思っていたのに。
剣崎君は参加してくれないらしい。
「理由はいくつかある。まず一つ、そもそも俺は客寄せパンダになるつもりはない。例えばだけど、実際に俺の名前を使って人を呼んだとして、一体何が出来上がると思う?」
「な、何がって……冒険者の集まりじゃないの?」
「いいや違う」
剣崎くんは首を横に振る。
「俺の名前を使って集まった奴ら。それは、俺にすがるだけの腰抜けの集まりだ」
「腰抜け?」
「そ」
コクリと頷く。
「剣崎がいるから大丈夫。剣崎に頼ればなんとかなる。そんな生半可な冒険者が集まってくるんだよ。
冒険者ってのは命がけの職業だからな。誰かに頼って報酬だけ貰おうなんてやつが何とかできるほど甘い世界じゃない。もっと言えば、俺らにとっちゃ魔物よりもたちが悪い。いないほうがまだマシだ。そしてもう一つ、そもそもあのダンジョンはクリアできるように作られていない。俺が最初に攻略に乗り出したとき、すぐに気づいたよ。あぁこれ無理だなって。魔物は馬鹿みたいに溢れてるし、回答班が間違えればさらに追加で
剣崎君はそう締めくくる。聞くところによると坂野原中学校の攻略はかなり難易度が高いらしい。
彼曰く、今回のクエストは一つ。『教室に配置されているテストを合格する』だそうだ。
例えば音楽室、美術室、理科室などの教室。そこに筆記や実技の書かれた数枚の用紙がリポップするらしい。それらをクリアすることで坂野原中学校の攻略に成功する。
しかし、それを拒むのが魔物だ。学校の内外には魔物が至る所を徘徊している。それらを潜り抜けて決まった教室へ向かう必要があり、さらに言えばもし回答に失敗し、規定以上の点数が取れなかった場合、学校中に
「俺らがクリアしたのはほんの3割程度。それだって相当頑張った方だぜ? 回答班がめちゃくちゃ焦って失敗ばっかするからさ。俺らは魔物に囲まれて、てんやわんや。わかるか? 無理ってのはそういうこと」
「それって人が多くても……」
「有利にはなると思うよ。ただ、ちょっと増えただけじゃだめだ。俺らが頑張って3割程度のクリア率と考えると……せめて50人はほしいな。それもちゃんと実力がある冒険者が。あっ、あと頭がいいやつ。教科書の持ち込みはダメって規定だから暗記できる奴がいいだろうな。じゃなきゃ攻略はできない」
「なるほどね。そりゃ相当骨が折れそうだわ」
「だろ?」
言うは易し、でも実行は難しい。今回のダンジョンの概要を聞いて私は苦い顔をするしかできなかった。
「でも諦めないんでしょ? ルリちゃん?」
「由利原……いや、そうだけどさぁ」
天を仰ぐ私に意地悪な顔をしながらにやにやと笑う由利原。やると言った手前、やっぱやめたなんて言えない。
それに難しいことは、はなから分かってたことだ。それでもやるって言ったんだからやらなくちゃいけない。
「ねぇどうしてもだめなの剣崎くぅん? 私が付き合ってあげるからさぁ!」
「い、いや、それは…遠慮させてもらう。俺はまだ死にたくな……じゃない。忙しいんだ。ごめん」
「もう……仕方ないなぁ。じゃあ明日もう一回告るからその時にまた考えてね!」
「あれ……? もしかして聞こえなかった?」
二人は何やらイチャイチャしている……。いや、由利原が一方的につるんでるだけか。剣崎君がかわいそうだからやめてやってほしい。
「ねえ、もし50人集まったら剣崎君も協力してくれる?」
「あぁ? あー、まあ……まともなのが集まったらそりゃ協力するよ。ちょうどどっかのダンジョンを攻略しようと思ってたところだし。あと、できればMVPとかとって特権が得られれば……」
「そっか」
ダンジョンの報酬は何人参加しようが通常報酬として全員一律に分配される。そして貢献度が高い冒険者にはそれ相応の別報酬が。さらに一番活躍した冒険者には特権というものが与えられる。いわばVIP対応のようなものだ。私には関係ないからそれは割愛。
「ルリ、やることは決まったな」
「うん」
それより、これからのことだ。剣崎君に協力してもらえないのは残念だけど、何をすればいいのかは教えてもらえた。
つまるところ、50人の冒険者を学校から集める。そうすれば剣崎君の協力も得ることが出来る。
「ありがとう剣崎君。おかげで助かった!」
「……お、おう。俺は何もしてねえけど」
剣崎君は正直かなり優しい人だと思う。
ダンジョンを攻略する方法を教えてくれてのはもちろん、どうして難しいのか詳しく教えてくれたし、どうやれば攻略の成功率が上がるのかも教えてくれた。その上、最初は断られたけど仲間になる条件も付けてくれた。
こっちは自分勝手に連れてきたのに、それでもちゃんと助けてくれるのはすごくありがたい。
だからこそ私は剣崎君の手をぎゅっと握りながらお礼を言った。
「行くぞルリ。善は急げだ」
「わ、わかった」
ともあれ、さっと手を放し早速行動することに。まずは片っ端から声をかけて人を集めるところからだ。
最低人数50人。難しいだろうけど、頑張るしかない。
「静香、あんたも早く来な、行くよ」
「う、うん。……あの…由利原ちゃん……そろそろーー」
「えぇー、私もうちょっと剣崎君と一緒にいたーい!」
「いや、え、えっと……」
「さっさと来い二人とも。剣崎の邪魔だ」
由利原と静香も無理やり回収。
私たちは人手を集めるため、色んな冒険者に声をかけることにした。
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