第6話 都市を呑む炎

モスクワの夜。

街路樹に積もった雪の上で、青白い火がふらふらと揺れていた。はじめは人々も「漏電だろう」「街灯の反射だ」と気に留めなかった。


だが一週間も経たぬうちに、通りの至る所に狐火が現れるようになった。

炎のそばで子どもが消え、大人が忽然と姿を消した。監視カメラにはただ、炎に吸い込まれる影だけが映っていた。


政府は「自然ガスの爆発事故」と発表したが、誰も信じなかった。

地下鉄の暗闇、アパートの廊下、クレムリンの庭園までもが狐火に照らされる。

夜の都市は、異界の青に覆われた。


そして、イリーナ。

狐火を宿した彼女は、人間の姿をしているのに、瞳は黄金の炎を灯し、言葉は次第に人の言葉から離れていった。

「火を絶やすな……火を絶やすな……」


彼女の呟きが流行病のように広がり、人々は夜ごと炎を灯すようになった。

街全体が蝋燭の炎に包まれたとき、モスクワはまるで古代サハの村の再現のように変貌していた。

だがその焔は、祈りではなく呪いを孕んでいた。

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