第7話 終末の氷原

数年後。

狐火はロシア全土を越え、世界に拡がっていた。

シベリアの氷原にしかなかった光は、いまやニューヨークの摩天楼の屋上で、東京の高速道路の隙間で、ロンドンの霧の中で揺らめいていた。


科学者たちは「電磁気異常」「大気汚染」「プラズマ現象」と説明を試みたが、誰も近づけなかった。

狐火を直視した者は一様に、数日のうちに失踪したからだ。


やがて人類は気づいた。

狐火はただの炎ではない。

それは「古代に犠牲を払ってまで奪った焔」の残滓であり、魂そのものを燃料とする存在だったのだ。


都市が青白い炎で覆われると、街は沈黙し、人々は一人残らず消えた。

氷原で聞かれたあの囁きが、いまや地球全土に響き渡る。


「神々から盗んだ火は、すべてを呪う」


最後に残った人々は、文明の炎を消し、都市を闇に戻すしかなかった。

しかし闇の中でも狐火は絶えず揺らめき、凍りついた街を照らし続けた。


地球は、再び氷原に沈む。

そして狐の影だけが、永遠にその上を駆け続ける――。

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