涙と海と私

鈴音

涙と海と私

 冷たい海の底にいた。どこまでも深い海。つらくて、悲しくて涙は海になってしまった。身体が重くて浮上しようと足掻いても無駄だった。泡が上に向かって消えていく。周りには何も無い。微生物さえいなかった。世界で一人ぼっち。誰かに手を取って欲しかった。少しでも良かった。でも、そのささやかな願いも叶わなかった。私はこの涙の海で溺れるのだ。誰にも見つからないような世界の片隅で。

 静かに目を閉じた時に何かが手に触れた。ふと目を開けると私と瓜二つの人なのかよく分からない生命体がぎゅっと手を握ってくれた。その瞬間、ちっぽけな勇気が現れた。私はその手を力強く握り返してみた。生命体の表情は何一つ変わらない。でも、なんだか嬉しかった。何も無いこの海に一筋の光が差し込んだ瞬間だった。

 次に気づいたら部屋にいた。夢だったらしい。でも、涙も手のあたたかさも全てが残っていた。手をまた握りしめてみる。今度は何も返ってこない。それでも、心は海から抜け出していた。

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涙と海と私 鈴音 @suzune_arashi

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